魔法使いの正体
魔法使いだと思っているのはhodakaさんと衣聖羅さんの社会人組のどちらか。
やっぱり寝床争奪戦のhodakaさんの発言とかは怪しい。
あと、アルモニーという物凄い施設を作り出せる力を持つのは、やっぱり社会人の方が可能性が高い。
「…………」
まあ、どう考えても答えを書く欄は名前だけ。色々な思考があっても、正解を書かなければ意味がない。何か英語のテストみたいだな。
過去形なのか? 現在完了形なのか? 色々考えた上での答えなのに、スペルが一文字でも間違ってたら不正解で今までの思考は認められないように。
あと、数学で途中の式も書かなければ点を与えないというクセに、答えが合ってないと不正解なように。
……ちょっと脱線してしまったな。
「衣聖羅さんかhodakaさんか……」
厚紙と一緒に渡されたペンを回しながら、考えに考えた結果、hodakaさんを選択した。
皆、答えを書いて魔法使いの指示待ちなのか、空気が変わったような気がする。だだっ広い空間なのでプレーヤーの姿は見られず、気のせいかもしれないが。
俺もバトルする気にもなれず、ぶらぶらと店内を歩いた。
「見納めに行っておくか」
アルモニー空間内を出れば、ヘアピン店も堂々と行けなくなる。
アクセサリー屋の方向を見上げた時、マロンがメッセージを告げた。
『マスター、グランドマスターからです』
「さっき送ったばかりなのに、もう返事がきた? 」
『グランドマスターは、何でも凄いのです』
マロンは自分の事のように胸を張りドヤ顔をしてから、メッセージをよみあげた。
『sikama様、さっそくですが『タエニア』までお越しください。
ただし、たどり着けばの話ですが』
後半の言葉に耳を疑ったが、それよりも自分の異変に気づいた。
「え、何で小さくなってるんだ?」
寝床争奪戦後、バトル観戦以外は鳥カゴにいたから、見慣れているが、突然なると驚くしかない。
『タエニアは3階の西側エスカレーター付近。結構な道のりだね』
相棒の声にも違和感があった。
同じ2頭身でふわりと浮いているのは、見慣れたアイドル服のマロンではなく、黒いローブを着た魔法使いだった。
「魔法使い。どうしてここに? マロンは?」
『マロンには別の所で待機してもらっているよ』
「……っていうか、その声……」
フードを深くかぶっているが、声は電子的なものではなく聞き慣れた声だった。
「衣聖羅さん」
名前を聞いて魔法使いはフードを外し、耳フェチ美人社会人の姿を現す。
「残念耳君、残念だったね」
魔法使いはhodakaさんと解答したので、魔法使いから魔法の杖を一振りして貰うイベントは終わってしまったのだが、魔法使いは何故が俺の前に現れ、しかもチャンスをくれた。
「無事にタエニアまで着いたら魔法の杖を振ってあげるよ。無事につけたらね」
「無事に?」
背後に大きな影ができた。
振り替えってみると、今まで小さかった魔法生物が通り過ぎようとしていた。
視線は魔法生物から上を向いている、こっちに気づいていない。
「ぶつかる」
慌てて魔法生物から離れたものの、今度は別の魔法生物が逆方向から迫ってくる。
それを避けた俺の前に、子供の魔法生物が駆けだしてくるところだった。
サッカーボールのように蹴り飛ばされ近くの店内に転がり込んだ。
「痛い……」
今まで3階から落ちても、バラバラになっても……痛みは全くなかったのに。今は全身が痛い。
「HPの残量に気づけるため、痛感設定してあるから。といっても実際の半分ぐらいだよ」
「これでも半分……」
「それから魔法生物たちは私たちは見えないし、大声出しても聞こえないから、気をつけてね」
浮遊して楽々回避してきた衣聖羅さんは、説明してくれた。
無様に転がった体で起き上がった矢先、またしてもショッピングを終えた魔法生物が目の前に現れていた。
「!」
避ける余裕はなく、かといってぶつかりたくないので、何とか回避しようと慌てた俺は、いつの間にか魔法生物の足に乗っていた。
魔法生物はあしの違和感に気づくことなく歩き続ける。
「ほう、ヒッチハイク方式か考えたね」
「いや、回避だったんですけど」
「タエニアには遠ざかっているよ」
衣聖羅さんに言われ慌てて足から飛び降りると、またしても魔法生物が。
猛ダッシュして、転がり込んだ服屋のマネキンの足元に逃げ込んだ。
「マネキンだけども、上を見ちゃ駄目だよ、思春期君」
「見ません」
長いスカートのマネキンなので、少しだけ気になるが。今は息をついた。




