朝日を待つ者たち
2人の様子が物凄く気になるが、魔法使いと吹田におやすみの挨拶をして、三角印良品に戻った。
正確には鳥カゴに戻されたので、マロンに連れて行ってもらったのだが。
「おかえり、あれ? 恵凜姉さまは?」
バトルの勝敗が気になって眠れなかったらしく、琴子さんが出迎えてくれた。
あれ。今、気がついたのだが……もしかして琴子さんと2人っきり
正確にはマロンと琴子さんの相棒ムグラがいるのだが。
『kotoko様、聞いてくださいよ』
「まて、マロン」
手を振りマロンに鳥カゴを近づけさせつつ、俺もカゴの端に向かい小声で注意した。
「非常にデリケートな展開になったから、話さない方が良い。恵凜先輩のためにも」
『……。らじゃーですマスター。
じゃあ、後はマスターに任せます』
そう言ったマロンは鳥カゴを琴子さんに差し出した。
『kotoko様、色々あったので説明はマスターがします』
ええー
「ちょっと待て、マロン」
鳥カゴなので逃げる事もできず、琴子さんの手に渡ってしまった。
『さあ、ムグラ。後は若い者に任せて、我々は店内のすみで待機です』
『わかりました、マロン』
若い者って見合いじゃないだろ。第一、お前達の方が格段に若い……と、突っ込みをいれたかったのだが、それどころではなかった。
「色々あったって、何があったの理央君? もしかして、恵凜姉さまにケガ?」
「いやいやいや、違う。恵凜先輩は無事です……ケガとかじゃなくて……」
まず、不安になっている琴子さんに説明するのを優先した。
……しかし、どうしよう。生徒会長に告られた事を話しても良いのだろうか?
琴子さんと恵凜先輩は架空姉妹と認め合う仲。話した方が良いんじゃないか……でも、恵凜先輩、衝撃というかショックというか|(トップの座を狙う相手だっただけに)……帰り際にチラリと見たら硬直してたし。
普通の告白ならまだしも、これは本人の口から琴子さんに話すまで黙っていた方が良いのか……
「ねぇ、理央君。黙ってないで教えて」
鳥カゴに琴子さんの顔が間近にあって、驚き慌てて思考を止めた。
「えと、バトルは無事に終了したよ。残念ながら生徒会長の勝利だけど」
「そう。恵凜姉さま、さぞ悔しがっているんだろうな……」
ことりと音がして、鳥かごは小さなテーブルの上に置かれた。
辺りを見回してみると、寝床争奪戦で争ったベッド家具付きの場所にいた。
小さなテーブルはサイドテーブルで、琴子さんはベッドに座る。
「それで恵凜姉さまは? どうして戻ってこないの?」
「それが……色々あって」
「まさか、相棒バトルでは納得がいかなくて、プレーヤー同士の決闘になったとか」
「それはないから、大丈夫」
「なら、どうして?」
「………」
「もしかして、バトル中に魔法使いが現れて2人をさらっていっとか」
「もしそうだったら、こんなにのんびりしてないよ」
「そうだよね」
琴子さんの出した単語のお陰で話を切り替えるチャンスができた。
「でも、魔法使いは現れたよ。2人のバトルが面白そうだからって観戦しに」
「本当? で、どうなったの?」
「本当に観戦だけして、どこかに行っちゃった。バトル中、俺らは魔法使いの肩に乗せてもらったよ」
魔法使い、本当に観戦だけだったな。
「魔法使い……」
琴子さんはあごに手を当てて考え込んだ。
「魔法使いが恵凜姉さま達のバトルに現れたって事は、その場に居合わせた人達は魔法使い候補から外れるね」
琴子さんの一言で魔法使い捜しを思い出し、慌てて頭を整理する。
「バトルにいたのは恵凜姉さま。理央君、生徒会長さんに吹田君」
「残りはhodakaさんに衣聖羅さん、それから隼兎」
「私もいるよ」
琴子さんは自分を指さしてへへっと笑った。
その笑顔があまりにも可愛くて、どきんと鼓動音が響いた。それが琴子さんに聞こえてしまったのではないかと気になってしまう。
「琴子さんは大丈夫だよ」
直視できなくなり、視線を少しだけずらしたけれども、別の感情が生まれる。琴子さんをずーっと見ていたいという欲望にかられた。
彼女を自分だけのものにしたい。その整った唇に触れてみたい。
もし鳥カゴの身でなければ、行動に移してかもしれない。
冷静や理性が注意して、そんな行動を取ろうとした自分が恥ずかしくなったが、すぐに欲望が現れる。
これが恋というものだろうか?
「……」
「理央君?どうしたの?」
「いいや、別に」
その想いを隠そうとする自分に嫌気がさす。
告白する生徒会長を見て両手に込めた力は、どこへやら……
いや、このままではいけない。
「琴子さん。マロンが勝手に送ったメッセージの事なんだけれども」
「マクラ投げバトルの時だね」
「伝えたい事があって……」
次の言葉がなかなか言い出せない。琴子さんがしびれを切らす前に言わなければ。
「琴子さんは、今、好きな人はいますか?」
さんざん時間をためた上での敬語。しかも『伝えたい事』じゃなくて『聞きたい事』だろと自分でツッコミたくなったが。これが精一杯だった。
「いるよ」
琴子さんは『へへっ』と照れながら答えてくれた。
「外見も中身も格好良くてね。でもモテてね。
私、毎朝、早めに家を出てその人の事を眺めているの」
答えてくれたが、これはどちらだろう。
「あ、恵凜姉さまが戻ってきた」
琴子さんは立ち上がり、これ以上、聞くことは無理だった。
ただ、今の心境は、誰かに後頭部を思いっきり殴られた気分。
それって失恋?




