朝日を浴びる者たち
夜の闇が溶けて薄墨色になった空だが、まだ日の出は見えそうにない。
生徒会長は周囲の人数が減っている事に気づいた。
相棒たちも離れた所で待機し、監視用なのか魔法生物が1人、相棒たちと一緒にたたずんでいる。
「そろそろ、戻ってくれないか」
声だけで反応しないので、生徒会長は手を伸ばし副生徒会長に近づけようとしたら、びくんと震え大きくのけぞった。
「ななな何? 触らないで」
後方に大きく下がり、バトルポーズをとる告白した相手に、生徒会長は息を吐き出す。
「恋愛に強いと思っていたが」
「2次元は2次元よ。そっちこそ恋愛攻略本を読んでおきながら、ストレート過ぎるでしょ」
「本はあくまでも参考にすぎない」
生徒会長は一歩近づくが、恵凜副会長はバトルポーズを解除しないまま、一歩下がる。
「先月のもめた委員会議、冷静かつ積極的にまとめた姿はどこへやら」
「うるさいわね。それとこれとは別よ。
急に言われて、冷静に対応なんてできるわけないでしょ」
「君ならできると思ったが」
「無理」
声が消えると辺りもしぃんと静まりかえる。
「ちょっと、どうして誰もいないのよ」
「今頃、気がついたのか」
「私達も戻るわよ」
「告白を聞いておきながら、何もなく戻るというのか」
「今は答えられない……答えられるわけないでしょ。さっきまでトップの座から引きずり下ろす奴としか見てなかったのに180度、見方を変えろなんて」
「答えられないか。
その場で否定しないことは、望みはあるのかい」
恵凜副会長から返答はなかったが、苦情を言うまで長い間があった。
「これから受験なのに……落ちたらどうするのよ」
「落ちない。私が保障する。私が責任を持ってサポートするつもりだ」
「そこまでしなくても良いわよ。そんな事までしてたら、自分が落ちるわよ」
「それもない。私には君の存在がある。
君の存在が何よりも私に励みになり、力になり、時には足かせになるが、君の存在はエネルギーだ」
「………」
生徒会長の独特な意見に恵凜副会長は戸惑ったが『ぷぷ』っと笑った。
「重言しているけれども、生徒会長らしい発言ね」
心身ともにバトルポーズを解いたが、表情は戸惑っていた。
「……なぜ、私なの? 敵意をガンガンに見せる可愛くない奴なのに」
「全ての始まりは入学式の代表挨拶の時だ。
読み上げる君は、百合のように美しく。私の心に火を灯した」
「そんなに前から?」
「君が知らないだけだ」
生徒会長は一歩前に近づいた。恵凜副会長は身構えるものの下がる様子はなかった。
「君が好きだ」
「………。2度も言う?」
恵凜副会長は視線をそらす。
「すぐには答えられない。下手したら、受験終わるまで」
「では卒業式まで待つとしよう。入学式に始まり卒業式に展開が待っている。我ながら長い恋だ」
「……。まあ、いいわ」
恵凜副会長は店内に戻るため、ステージを歩き始める。
「それにしても生徒会長、告白しても余裕があるよね。何か癪に障る」
「………そうか。
ならば、君だけには手の内を見せよう」
恵凜副会長は一風の後、人のぬくもりを背後に感じた。
背中から響く自分よりも速い鼓動。ガチガチに緊張して止まらない振動が肩に回した腕から伝わってくる。
「見よ、これが ろば耳キング、本当の姿だ」
両手が恵凜副会長の顔に触れ、後方を振り向かせる。
「………………」
恵凜副会長は初めて見る生徒会長の顔にぼう然としていたが、自分の置かれている状況に気づくと、後方から上ってくる朝焼けよりも赤く染まった。
そして混乱の極みに達した恵凜副会長は、見事なボディブローをきめた。




