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ろば耳  作者: 楠木あいら
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プログラムの死角

 マクラ投げバトルを制したのは生徒会長の相棒、生徒会書記だった。

 ダブルベッドは生徒会長の物になると思いきや


「ダブルベッドは勝利者、つまり。生徒会書記のものになる」


 と、発言。それは俺も賛同だった。

 今は同じサイズで共に行動しているのだから、主もキャラクターも1人の人間として考えるべき。

 しかし、権利を得た相棒の顔は困惑していた。


『生徒会長。キャラクターはバトルモードを除き、通常時は半径1メートル。アルモニー空間内でも、同じ店内から離れられません』

「では、ベッドの横に座らせてもらおう。本の続きが気になるから、そもそも眠るつもりもない」

「ちょっとまって、じゃあ2位になった私は、生徒会長がいる近くで寝ないとならないの?」

「その前に2位になった時点で同じ店内になるわね……」


 ツッコミを入れたところでhodakaさんは天井を見上げ、忘れてた単語を口にした。


「この中に魔法使いがいるのならば、何とかしてくれるでしょう。

 魔法使いも寝床争奪戦を楽しんだけれども、後の事は考えてなかったと思うし」


 発言後、ぽんと音がした。

 生徒会長がいた空間に鳥カゴが現れて、落下するのを生徒会書記が受け止める。


「鳥カゴ……の中に小さくなった生徒会長がいる」

『グランドマスターの追加命令が作動しました。

 青少年達の健やかな育成を保護、警戒するため、翌日6時まで移動と行動が制限されます』

「本が読める環境ならば、反対などないよ。

 生徒会書記、すまないが店内、静かなところに移動してくれ。それでは皆さん、良い一夜を」


 マイペースな生徒会長は、店の奥に消えていった。


『マスターも移動しますか?』

「ああ」


 もちろん、争奪戦4位になったマロンの主も、鳥カゴの中で一夜を明かすことになる。

 そんな中、制限設定に目を輝かせる奴がいた。


「魔法使い様、絶対に店内から出ないから、俺も小さくしてください」


 バルバニアファミリーを愛する男、隼兎は同じく天井を見上げ魔法使いに懇願した。バルバニアファミリーと同じサイズになって家具やハウスで夢の一夜を過ごしたいようだ。

 魔法使いも隼兎の思いを聞き入れたらしく、ぽんと音をたてて縮小がしたと思うと、小さくなった隼兎をシャルムが両手で受け止める。

 歓喜の声を上げる隼兎の横でさらに音がした。

 1人だけ野放しするわけにはいかないだろうと、判断したらしく、吹田もオリオンの手のひらにいた。




 三角印良品の奥にあるレジカウンターに、俺と生徒会長の鳥カゴが置かれた。

 店内の照明は落とされたが読書可能の明るさはある。

 隣カゴの生徒会長は、隼兎がチョイスしたバルバニアファミリー用のソファーで、同じサイズにしてくれた本を開き、くつろぎのひとときを味わっていた。


「………」


 隼兎は俺にもバルバニアファミリー用のベッドをチョイスしてくれたが、固そうなので断った。代わりに三角印良品内にあった小さな料理で使用するボウルに、ハンドタオルを何枚か敷いた簡易ベッドを作った。

 しかし、思っていたより眠りづらい。

 まあ、眠れないのはそれだけではないが。


「タイミング良すぎるよな……」


 hodakaさんが発言した直後に、俺たちは鳥カゴの中に入っていた。

 まるで鳥カゴができることを知っているかのように。隼兎や吹田の時を比べると時間は早い。


「君も怪しいんでいるようだな」


 視線を本から離さず、生徒会長は聞いた。


「タイミングが良すぎますよね……hodakaさんが魔法を使ったようにしか思えないぐらい」


 俺の発言はhodakaさんが魔法使いと言うことになる。まだ意識したくないけれども。

 

「この場合、魔法ではなくプログラムが発動した事になるな。まあ、『hmw』はITと魔法を融合しているから、どちらでも良いか」


 と、言ってから、生徒会長はもう一つの意見を口にした。


「私は彼女は、魔法使いの正体を知っているかのような発言をしたと見ている。

 明日、それを踏まえて生徒会書記に聞いてみよう」


 後半の言葉は意味がわからなかった。


「え? 何で生徒会書記、相棒に聞くのですか?」

「ああ。彼女たちキャラクターは魔法使いの正体を知っているからな」


 衝撃が走った。


「え、相棒は知っているんですか。じゃあマロンも」

「もちろん。相棒たちは魔法使いが作り出したのだから」


 そう言われると、そうなのだが。


「とは言え、聞いたところで魔法使いから口止めされている。素直には答えてくれない。

 私が狙っているのは、プログラムの死角さ」

「プログラムの死角?」

「相棒たちは魔法使いに『正体を教えてはいけない』というプログラムを実行している。しかし『魔法使いは誰?』じゃなければ答える可能性があるのだ」

「どうして?」

「それがプログラムといものさ。応用はできない、と、考えた方が良いだろう。

 だから『魔法使いは誰?』は答えられないが、別の質問、例えば『魔法使いはどこにいる?』という質問は禁止されていなければ答えてくれるのだ」

「じゃあ、生徒会長は、もう……」

「残念ながら、突き止めていない。魔法使いも考えている。『魔法使いはどこにいる?』をはじめとする他の質問も答えられないように対策はしている。

 だが、どこかに死角がある。

 私は思いついた限りの死角になりそうな質問を生徒会書記に聞いてみたが、なかなか隙がない。

 もちろん、どんな内容は聞いたかは答えない。私だって魔法使いの杖振りとやらに興味がある」


 生徒会書記を1人の者として見てダブルベッドを譲ったのに、プログラムとのしての発言に矛盾を感じた。

 それを口にしたら生徒会長は


「生徒会書記は存在している。プログラムはプログラムだよ」


 と答えた。彼の中で割り切っている、と考えた方が良さそうだ。


「しかし、君の場合、それどころではないだろう」


 そうだった。琴子さんの一件を忘れていた。

 バトルでとっさに手を出して守ろうとしたあらかさまな行動により、他プレイヤーにもバレバレになっている。


「………」


 生徒会長は無言で読書に戻っているように思えるが、明らかに俺の様子を読み取ろうとしている。


「………」


 琴子さんへの気持ち……伝える……その単語が出てきた時点で、思考がストップした。鼓動が早くなっていく。顔が赤くなっているのを生徒会長に見られたくないので、布団代わりのハンドタオルをかぶった。


「………」


 しかし、俺は安堵のため息を吐いた。

 ハンドタオル越しからでも、聞こえる笑い声のお陰で

 ベッドの利用権を得た恵凜先輩と琴子さん。さらに生徒会書記やマロンまで、ベッドでパジャマパーティーを開いている。

 一通り揃う三角印良品なので、パジャマからお菓子までなんでも揃っている。


「メッセージを送れないから、仕方ない」


 伝言を送信するマロンがいないので、想いを伝えるという行動がとれないのだ。

 第一、鳥カゴの中で移動も制限されているし。今晩中に行動はとれない。


「……アルモニーの滞在期間は明日までだ」


 俺の独り言を耳にした生徒会長が、お節介な忠告をしてくれた。


「………」


 別にアルモニー内で、じゃなくてもいいんじゃないかと思うのだが……マロンの『琴子さんと2人っきりになれるチャンスがいっぱいなのにいるのに、何、チャンスを放棄しているんですか?』の言葉が突き刺さる。


「………」


 決めなければならない……

うだうだと考えていたらいつのまにか寝ていた。何か悲しい。


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