ナイトバトル2
アルモニー内バトルを始めるために全員と握手をして、電子ブレスレットが装着したのだが
『準備が整ったら、押してください → ロ 』
と表示されていた。
別段、準備などないので→(やじるし)の先にある四角い記号を押してみると……
「ん?あれ?」
視界の情報が変わった。移動したようだ。
足元は白一色。少しだけ柔らかい。
「雪?」
『シーツの上です、マスター』
桜色にハート柄のパジャマを着たマロンが横にいて、バトルフィールドを教えてくれた。
『正確にはベッドの上です。右側の方には折りたたんだ布団。左側にはマクラがあります』
「巨大ベッド……」
『正確にはマスター達が縮んだ状態です。ほら、遠くには三角印良品の棚とか見えますよ』
バトルフィールドはわかったのだが、もう一つ疑問が残っていた。
「何で俺もバトルフィールドにいるんだ?」
いつものバトルなら、バトルフィールドに立つのはマロンかたまに俺の、どちらか1人なのだが。
『今回は賑やかバトルです』
「賑やか……」
「うぉっ、何でパジャマなんだ?」
隼兎の声が聞こえ、改めて辺りを見回し、ついでに自分の姿が紺一色のパジャマ姿になっているのも確認した。
「全員いる」
『はい。プレイヤー、相棒16名の大人数でのマクラ投げです』
誰かの声が聞こえ見上げてみると沢山のマクラが降ってきた。
『皆さん、マクラを持って準備をしてください』
マイクを手にした巨大な魔法生物がベッドの横に現れた。
『それでは、三角印良品のダブルベッドで寝られるのは誰だ? 寝床争奪マクラ投げバトルスタートです』
スタート宣言と同時に2人のプレイヤーが離脱した。
吹田と生徒会長だった。
「……やるわね」
「恵凜先輩こそ」
スタートと同時に顔面に投げつけた俺と恵凜先輩はニヤリと笑う。
「え? 終わり?」
「我々は油断したようだ」
何が起こったかわからない顔をした吹田と腕組みをした生徒会長は元のサイズに戻り魔法生物の横に立っていた。
「あの野郎……」
ようやく状況を把握した吹田は生き残っているオリオンに命令を出す。
「オリオン、順位はどうでも良い。とにかく飾磨を倒せ」
『わかりました、あらた。プレイヤーsikamaを徹底的に狙います』
「おいおいおい。吹田、ゲームだろ、ムキになるなよ」
「うるさい」
ベッドを見下ろす吹田に抗議したが恨みのこもった一言で片付けられた。
更に抗議を続けたかったが、オリオンの姿が視界に入り慌てて逃げだす。
「飾磨君、あたしと手を組みなさい」
後を追ってきた恵凜先輩は、ベッドの外を睨みながら命令してきた。
「あいつ。相棒を仕向けなくても私を倒せる気でいるんだから」
何も指示を出さず涼しい顔でいる生徒会長に、下克上を狙う副生徒会長の癇かんに障ったようだ。
「オリオンの攻撃は葎に向かわせるから、生徒会書記を狙って」
まだ、答えてもいないのに……次のターゲットが決まってしまった。
「同盟、面白いわね」
俺と恵凜先輩が同盟を組んだ事は周りにも新たな動きを見せる。
「なら、ハナ、あたしと組まない?」
「社会人コンビ? 大人げなくない?」
「ならば衣聖羅さん、俺と組みませんか」
隼兎が一歩前に出た。
「まあまあ耳君かぁ。でも、うさ耳の相棒さんは気に入っているからオッケー。
じゃあ、さっそくハナを狙うわよ」
「えっ。ちょっと いせ それ酷くない?」
「それが大人の世界っていうものよ」
hodakaさんの悲鳴に近い声が聞こえた。
「なら、カリーヴィア、りっちゃんと組んで いせ を攻撃」
『了解です、ハナ』
フィールドアウトしたhodakaさんは仁王立ちになり、衣聖羅さんを指さしてニヤリと笑った。
「いせ、シビアな大人世界、味わってもらいましょうか?」
「ハナのあくにーん」
そんな流れでグループができた。
俺と恵凜先輩。その相棒マロンと葎に、hodakaさんのカリーヴィア。
隼兎と衣聖羅さん。相棒のシャルムとオレイユ。
琴子さんと相棒のムグラ。
生徒会長の相棒の生徒会書記
と説明したもの、どんどん離脱していく。
「人数が多いから背中合わせに固まって、そこから四方八方に飛ばして」
戦法を考えた恵凜先輩は俺らをまとめ、指示したが……
その固まった所を狙ってくるプレイヤーがいた。
「甘い甘い甘い」
隼兎がハイジャンプしてマクラを叩きつけてきた。
しかも隼兎だけではなく、隼兎グループ全員で。
「退散」
こうなると連携も何もない。手にしていたマクラを投げ飛ばし、とにかく逃げ出す。
「マクラ……」
走りながらマクラを捜すものの視界に入ってきたのは『むぐら』の姿だった。
マクラを手にした黒のパジャマ姿の『むぐら』恵凜先輩の葎なら味方になるが、琴子さんのムグラは敵になる。もちろん、どっちのむぐら なんて判断はつかない。
どっちだ?
「…………」
琴子さんのムグラだった。
あっさり当たって離脱した俺は、元のサイズに戻り三角印良品のベッドサイドに立っていた。
「……残念耳君もアウトかぁ」
「衣聖羅さんも当たったんですね」
「ダブルベッド当てたら、琴子ちゃんの耳を見ながら至福のひとときを味わおうと思ったのに」
「添い寝するつもりだったんですか……」
衣聖羅さんの他にhodakaさんの相棒のカリーヴィア。離脱者は増えていた。
空いているスペースを見つけベッドを覗き込むとバトルは続いていて、小さなプレイヤー達がベッドの上でちょこちょこ動いている。
「………」
琴子さんは生き残っているようだ。
それからマロン。吹田の相棒オリオンに隼兎の相棒シャルム。
それから恵凜先輩と生徒会長の相棒 生徒会書記がいるのだが……
「おりゃりゃりゃりゃりゃー」
物凄い投げ合いをしていた。
とても2人に割り込めるスキはないので、残りの4人でバトルとなる。
「………」
俺は周りの様子を伺った。
皆、ベッドの上で繰り広げられるバトルを思い思いに観戦している。
その中で生徒会長はあごに手を当てて、人差し指を小さく左右に動かしていた。微かに口を開いたが声は出ていない。
相棒に指示を送っているのか?
『メッセージのやりとりは可能ですよ、マスター』
考えている事をマロンが解説してくれた。
『アルモニーの特別空間内ならば、マスター側プレイヤーも声を出さずにマロンと会話ができます』
『と言うことは、生徒会長と生徒会書記も?』
『プレイヤーと相棒だけの回線なので絶対ではないのですが、可能性は高いです』
『そうか……』
視線を生徒会長からバトルフィールドに戻す。
『マロン、頼みがある』
『kotoko様をガードするんですね』
なぜが相棒に読まれていた。
『え、いや。そうじゃなくて……そのう、何となく……っていうか、あ、でも、ゲームにそんな不正な事をしても良いものか……』
『マスター、バレバレですよ』
『…………』
『良いんじゃないですか。arata様だって堂々とマスターを狙ってきたんですから』
『それとこれとは、また違うんじゃないか』
『……。仕方ないですね。ならば、普通にバトルしているフリをして、それとなくkotoko様をガードしましょう』
『そんな事できるのか?』
『んふっふっふっふー。マロンにお任せください』
マロンはマクラを拾い上げると琴子さんたちの方へ駆けていく。
『オリオン、後ろががら空きですよ』
琴子さんの動きに集中していたオリオンは振り向きざまにマクラをくらった。
マロンの動きに気づいたシャルムが素早くマロンにマクラを投げたが、キャッチして、手に入れたばかりのマクラを攻撃に使う。
『撃破です』
ニヤリと笑うマロンだったが……
『マスター、ガードできましたが……後はkotoko様とマロンだけです。この後、どうしましょう?』
人数が少ないのだから、こうなるわな。
『 erin様の方に参戦しますか?』
『いや、いい。普通にバトルしてくれ』
『わっかりました』
結局、バトルするのだから、やっている意味はない。『俺は何をしているのだろうか……』と考えてしまうが、ため息一つ吐いて、バトルに切り替えた。
『kotoko様、いっきまーすよ』
マロンはさっそくマクラを投げつけるが、琴子さんは手にしているマクラで叩き落とす。
続けざまに2マクラ、マロンが投げるが琴子さんは手にしているマクラでたたき落とした。
『接近戦ですね』
『投げなくてもマクラに当たればアウトになるのか?』
『そうなりますね』
琴子さんは、マクラを軽く振り回し軽く威嚇していた。
その表情はバトルだからかもしれないが、少し怒っているような気がする。
hodakaさんとのやりとり……怒っているのだろうかと、疑いたくなったが真っ先に全否定した。琴子さんが好意を抱いてるなんて……ありえないんだし。
「…………」
見上げた琴子さんと目が合ったような気がするが、すぐに視線を変えられてしまった。
「………」
いや……万が一にも、もし好意を持ってくれてたとしたら……彼女は気分を害している事になる。
『あーもー、うじうじと。こーなったら、マロンが一肌脱ぎましょう』
俺の心境を聞き取ったマロンが猛ダッシュした。
『kotoko様、お話があります』
琴子さんが振り上げたマクラにマロンは飛びつきがっしりと掴む。
「話って、マロンちゃん?」
しがみついたまま離れないマロンに琴子さんは、ぶんぶんとふりまわした。
重力や筋肉の力など関係ないので非力な琴子さんでもマロンごと簡単に振りまわせて、マロンも簡単にマクラごと振り回される。
『おい、マロン。一肌ぬぐって……』
専用回線なので琴子さんの耳に入ることはないが、周りに俺の焦りがバレないか気になってしまう。
『琴子さんにマスターから話がありますと、メッセージを送りました。後はマスターが時間を設定して琴子さんの気持ちを聞くのです、そして想いを語るのです』
『は? 何を勝手に送っているんだよ。第一、一肌脱いでないし』
『マロンが動かなければ、マスターもじもじ考えるだけで絶対に動かないじゃないですか』
『………』
反論できない。
『そもそもアルモニーという特別空間で琴子さんと2人っきりになれるチャンスがいっぱいなのにいるのに、何、チャンスを放棄しているんですか?』
『……』
『健闘を祈るなのですー』
琴子さんは大きく振り回してマクラを飛ばしたので、マクラを掴んだままのマロンはそのまま布団エリアに飛ばされていった。
「…………」
その後、琴子さんの視線が俺に向かう。
明らかに表情は違っていた。
なので後方から流れ弾ならぬ流れマクラが勢いよく飛んでくるのを知らない。
「危ない、琴子さん」
気がついたら手が琴子さんの前に手が伸びていた。
「あ……」
しかし、バトルフィールド内と外では次元が違うので、マクラは俺の手をすり抜け琴子さんに直撃した。
「飾磨……」
それから周りの視線が俺に集まっていた。
「…………」
バトルや魔法使い捜しよりも、重要なイベントが発生してしまったようだ。




