QRコード
『マスター、hodaka様はDream Daysというお店にいます』
ようやく、hodakaさんが動いてくれた。
『Dream Daysから、移動する様子はありません。今がチャンスです』
チャンスなのだが、バラバラなままなので、カートを押して走るマロン任せになってしまう。
踝を返したくなくてトイレにこもっていたhodakaさんの事だから、移動先の店が不安である。ランジェリーショップだったらどうしよう。
店は服屋だった。
「あ、りっちゃんの本体」
運良くhodakaさんが店から出てきた所だったけど、踝の返却要求よりも、彼女に2つの疑問を聞かなければならない。
「hodakaさん、その衣装は……」
名前よりも服装を優先した理由は、彼女が相棒カリーヴィアと同じ服を着ていたから。
大人の社交パーティーに着ていくような赤いドレスで、肩を露出しボディラインがくっきりと見えている。しかも左側だけスリット、切れ目が入りhodakaさんが少しでも動けば太ももが目に入ってしまうのだ。
「ここの店、アルモニーオリジナル店でね、相棒と同じ服が着られるのよ。どう、似合う?」
「お、お似合いです……」
目のやりどころに困る…
…もちろん、hodakaさんの後ろには同じドレスのカリーヴィアもいる。
視線を上げようにも、バラバラの体ではそれもできない。
「hodakaさん、踝を返してもらっていいですか?」
懇願するしかなかった。
バラバラの体と情けない顔に、hodakaさんもさすがに返してくれた。
バラバラの体は踝を近づけたら、すぐに元に戻ってくれた。現実でありえない体験も悪くはないが、やはり自由に動ける方が良い。
「あと、りっちゃんって……」
バラバラになる前まで、hodakaさんは俺のことを『飾磨君』と呼んでいたはずなのに。
「ふふふ。トイレで親密度が一気に上がったの」
hodakaさんは名残惜しいように俺の踝を見つめた。
「踝にですか……っていうか、トイレでなにやってたんですか?」
「知りたい?」
hodakaさんが一歩俺に近づいた。
「そりゃあ、本体ですから」
さらに近づく。
バラバラの時と違って、視線を反らし、後退する事も可能だが、体が拒否した。
hodakaさんの足が止まったのは、息がほおに当たるほど近くだった。
後ろにマロンやカリーヴィアがいるから2人っきりではないけれども。
あらわになった肩や胸元。スリットの間からちらりと見えてしまう太ももに、視線が進んでしまうのを懸命にこらえると、今度は間近にあるhodakaさんの誘うような唇や目に惑わされてしまう。
「大丈夫よ」
hodakaさんは離れてくれた。
「ちょっと踝を見ながら語りかけただけよ。なでながらね」
「なでながら……」
そこは引っかかるが、俺は平静を装って情報収集を進めた。
「それはそうとhodakaさん。魔法使いに会った時の事を聞いても良いですか?」
「魔法使い? 私の所にも来たわよ。右手のひらにキスされた」
「は? え? キス?」
hodakaさんからの情報は、今までにないレベルのものだった。
「手の甲なら、わかるんだけれども、手のひらよ。しかも……」
hodakaさんは右手のひらを見せてくれた。そこには3センチほどのQRコードがあった。
「皆も付けられたのかなと思っていたけれども……私だけみたいね」
バラバラボディとhodakaさんの衣装騒動で視線がそこにいかなかったが……
情報収集に新たなる疑問が増えた。




