情報とオススメの本
吹田と生徒会長は本屋にいた。
「ふうん、ふっきーは さゆりん推しかぁ」
「あわっ、飾磨!」
アイドルの写真集を穴が空くほど見続けていた吹田は、声をかけるまで気づかないでいた。
写真集に夢中になっていた事がバレた焦りと、頭だけの俺が、振り返った吹田の間近にあるんだから仕方ない|(マロンに手伝ってもらった)が、吹田の驚きぶりは見てて面白かった。
驚き慌てた吹田は、まるで鳥が羽ばたくように腕を大きく振り回し、写真集と俺を派手に跳ばしてくれた。マロンがキャッチしてこれ以上の損傷を防いでくれた。
「わぁ、何なんだ、何なんだ」
「ここに来る途中、トラブルに巻き込まれたんだよ」
「現実では体験できない事をする。これもアルモニーを楽しんでいる証拠だな」
優雅に言う生徒会長だが
「生徒会長、そのクッションは、どこから……」
大きなビーズクッションにどっかりと座っている。
本屋の中で
「近くの三角印良品から購入した。もちろん、店員には許可をもらってあるよ」
本屋にもNPCである魔法生物がいるが、誰も生徒会長を変な目で見ることなく、ただの通行人Aと認識して通り過ぎていく。
生徒会長も特別空間を楽しんでいるようだ。
待機状態なのか、生徒会書記|(生徒会長の相棒)とオリオンはNPC同様本屋内をウロウロしている。
「生徒会長……」
もう一つ気になる事があった。会話に参加しているもこの、さっきからずーっと視線が本から離れていない。
「魔法使いのイベントに参加したいのだが、ページをめくる手が止まらないのだ」
本に興味がもてない者にとって、一生手を伸ばすことない分厚いハードカバー。本に書かれたタイトルは。
「限界集落のハOジ……」
「某有名ストーリーの限界集落版だよ。
年金で生活する男の家に、孫娘が子供を押しつける所から始まる。少年の代わりにニートで、幼女趣味の中年男。薬物中毒で療養と言うより、半ば幽閉生活するお嬢様」
「身も蓋もない設定ですね」
「だが、近所の者たちが皆温かく、何よりも主人公が純粋で前向きなのだ」
説明が終わると生徒会長は読書に戻る。話しかけづらいので、吹田から情報収集を始めることにした。
「魔法使い? ああ、見た」
「何か言ってたか?」
「何でお前に言わなければならないんだ?」
「情報収集してんだよ。魔法使いがそれぞれに言ったメッセージから推理できないかと思ったんだ」
「何か得られたのか?」
「何で言わないとならないんだよ」
「仲が良いな。ろば耳ファイターの交友が深くなるのは良いことだ」
生徒会長の発言に俺らは否定したが、同時にしかも同じ言葉だったので、生徒会長に笑われてしまった。
「魔法使いだけど……」
話題を切り替えたいため、吹田はしぶしぶ魔法使い情報を提供してくれた。
「通路を歩いていたら、肩を叩かれて振り向いた先に魔法使いが浮遊していた。そのまま、通り過ぎて行った」
「メッセージは?」
「ああ……君は面白いねって言った」
面白い……オリオンを指しているのだろうか。
「魔法使いなら、私の所にも訪問してくれたよ。本を読んでいたから『読書中、失礼しました』と謝罪して、その場から消えた」
「消えた。どこかに移動したんじゃなくて」
「そう、消えた」
「…………」
さらなる疑問と言ってもよいのだろうか……
「それはそうと吹田は魔法使い、捜さないのか?」
「捜すよ……」
吹田の視線が写真集コーナーに向かう。生徒会長も含め、しばらく行動しないようだ。




