踝を返してください
情報を集めるため、他の人の話を聞くことにした。
個人戦|(?)なので隼兎や琴子さんはいない……と、言うよりも……
隼兎は落ち着いた場所|(1秒でも長くバルバニアファミリー専門店にいたいだけ)で推理したいと言い。琴子さんは、捜しに行くための服に着替えると言い、それぞれの店に行ってしまった。
「まったく、皆、捜す気あるのかしらね?」
エスカレーターを降りた先に踝フェチのhodakaさんが手すりにもたれ、同じ事を口にした。
「hodakaさん、間に合ったんですね。仕事で来られるか衣聖羅さんが心配してましたよ」
「まあ、何とか……と、言うより、まだ、仕事の途中なんだけれどもね」
「………」
エスカレーターを降りてhodakaさんに近づく。相棒のカリーヴィアも斜め後ろにいて微笑んでくれた。
「hodakaさん、魔法使いに会いましたか?」
「その前に飾磨君……」
hodakaさんは俺の後ろを指さした。エスカレーター後方には突き抜けになっているだだっ広い空間しかないのだが。
振り返るよりも早く、両肩を捕まれる感触がした。
「え? うわっ、何だ?」
気がついたら体がふわりと浮いていた。
両肩をつかんでいるのは人の手で、視線をあげると色白の肌に黒く長い髪を束ねたキャラクター衣聖羅さんの相棒オレイユがいた。
「オレイユ?これは?」
『sikama様、バトル中なのですみませんが、失礼します。
耳相研究家、イヤノフ大先生』
「へ? うわぁぁぁあ」
技名を唱える前に俺の体は更に持ち上げられ、投げ飛ばされた。
バトル中と言ってたから、俺は物の一つとしてバトル相手にぶつけようとしていると判断できた。
1階にいるのは恵凜先輩の相棒 葎。待ち受ける体勢は整っており刀を振り上げる。
「まて、葎っ」
『乙女ロード、カフェランキング』
俺の悲鳴に近い制止を聞くことなく、技名を唱え刀が舞う。
『すみません、sikama様。アルモニー空間内なので、大丈夫ですよ』
謝罪してから、葎はバトルを進めるため走り出していった。
「見覚えのある物体が飛んできたかと思えば、残念耳君だったか」
「危ないわよ。そんな所をウロウロしてたら」
巻き込まれた俺に、プレイヤーの衣聖羅さんと恵凜先輩は呑気に言ってくれたのたが……なぜか見えない。
「危ないというより、もう遭っているんだけれどもね」
葎の刀が乱舞した時、目をつぶっていたから分からなかったが、衣聖羅さんの言葉で自分に何かあったのを確信できた。
「…………」
辺りを見回そうとしたが、首が動かない。
床が近いというか目の下はもう床になっていて視線を伸ばしたら……腕が転がっていた。
「俺の腕! あ、足も……」
さっきまで動かしていた体があちこちにあるのだ。
「うちの葎がみじん切りしたから。バラバラになっているわよ」
「……葎、全然、大丈夫じゃないか……」
アルモニーの特別空間なので、血が流れ出る事もなければ痛みもない。なので、バラバラにされても気がつかないでいた。
「バトルが終わったら元に戻るんじゃないかな。
それにしてもバトルでプレイヤーも巻き込まれるんだね。良い事、知ったな」
耳フェチの衣聖羅さんは琴子さんの耳が気に入っている。だからこそ、彼女の発言は怖いものがある。
「衣聖羅さん……」
「大丈夫、大丈夫。知っただけで琴子ちゃんに実践しないから」
「………」
しかし、バトルが終わっても、俺の体は元に戻らなかった。
踝が付いた部位がなくなっていて、それが原因で戻れないらしい……と、トラブルを聞いて駆けつけてくれた魔法生物が教えてくれた。
そしてバトル観戦していた踝フェチhodakaさんの姿も見当たらないのだ。
「ハナの奴、特別空間を堪能しているね」
メッセージを送ってみたが、返ってくる様子はない。
『マスター、hodaka様は3階女子トイレから、移動する様子はありません』
どうやら返す気はないようだ。
hodakaさん……バトルする2人に『魔法使いを捜す気あるのかしら』と言っていたのに、自分だって捜す気がないようだ。
「まさか、デュラハンみたいな体験ができるとはな」
スーパーでショッピングカートを借り、バラバラの体を入れ、その上に頭を置いて移動する。
『まあ、情報収集できたから良いじゃないですか』
カートを押してくれるマロンはフォローしてくれたが、大した収穫は得られなかった。
バトルが終わってから、2人に魔法使いが現れた時の状況を聞いた。恵凜先輩は琴子さんと変わらない内容だったし、衣聖羅さんも似たような内容だった。
ただ、魔法使いが個人的に送るメッセージは衣聖羅さんにはなかった。
「メッセージがないっていうのも気になるな」
「そう言うとマスターkotoko様もメッセージがないことになりますよ」
「そうか……そうだな」
メッセージがないっていうのも気になるな。他のプレイヤーにもいるんだろうか……
「hodakaさんは後で聞くとして……というより聞けるのか?」
踝がついた部位を持って行ってどうするのだろうか……想像するだけで身震いがする。
いや、もしかしたら夢のような扱いをしてくれているかもしれない。
いや、考えてはいけない! ……けれども、妄想が進んでしまう。
『それにしても、マスター、怪しまれ過ぎですね』
暴走していく妄想をマロンが止めてくれた。
「………」
そう、2人とも俺が魔法使いではないかと疑っていたのだ。
ここまでくると俺、もしかして魔法使いなのではと、自分を疑ってしまう。記憶がないだけで。
魔法使いが俺の体を乗っ取っているとか……
「まあ、ありえないわな」