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ろば耳  作者: 楠木あいら
30/48

8人の中の1人

「この中に魔法使いがいる」


 さっきまで堪能していたアクセサリー専門店は3階のエスカレーター近くにあり、店を出た俺は、エスカレータ付近にある手すりに手を置いて階下を見渡した。


「この中の誰かが魔法使いだなんて……」


 店内に散らばっているプレイヤー達に会うのが少し怖くなった。


「理央君」


 エスカレータから駆け上がってくる人がいた。名前で呼ぶのは琴子さんしかいない。

 彼女の表情からして、魔法使いは俺以外の招待客にも挨拶してきたようだ。


「理央君、魔法使いがいた」


 しかし、彼女は笑っていた。


「恵凜姉さまと次の服を探してたら、試着室のカーテンが開いてね魔法使いが出てきたの」


 そう言えば、さっきはショートパンツだったのに、今度はワンピースにデニムのジャケットになっている。


「やっぱり魔法使いだね、飛んでいったよ。3階に上がったから理央君も見たんじゃないかな」

「うん、会ったよ……」


 はしゃいでいた琴子さんは、俺の表情に気がついた。


「琴子さんは怖くないの?」

「どうして? だって会えたら魔法の杖を一振りしてもらえるんだよ」

「…………」


 琴子さんの変わらない笑顔で、少し考えが変わった。

 まあ、魔法使いを見つけても脅威をふるうわけではないんだし。


「魔法使いは、今日いる招待客の1人だって言ってたね」

「本当にびっくりしたよ。一体、誰なんだろう。理央君は誰だと思う?」

「……そうだなぁ」


 真っ先に思いついたのは吹田だった。

 ふむ、考えれば考えるほど怪しい。オリオンが俺そっくりだし。何となくで根拠はないが。何か怪しい。いや、1度、怪しんだらとことん怪しくてならない。


「吹田かな」

「運命の人なのに?」

「…………」

「私はhodakaさんとか……衣聖羅さんとか、社会人の方だと思う。だって魔法使いは『hwm』を作ったんだから」

「………」


 琴子さんの方が的を射ってうなづくしかなかった。


「でも、最初に魔法使いなんじゃないかなぁと思った人は、理央君なんだけれどもね」

「え、俺?」


 自分が疑われるなんて思ってもいなかった。


「だってね、初めてバトルしようと声をかけたのが、理央君で。理央君がいてくれたからこそ、私、たくさんの人とバトルして。色々と変化することができたの。

 本物はわからないけれども、私にとっての魔法使いは理央君なの」

「…………」


 えへへと照れくさそうに笑う。


「お、俺も琴子さんが魔法使いに見えるよ。琴子さんが声をかけてくれたからこそ、今、ここにいられたし。隼兎達にも会えたし」


 えへへと、互いに照れ笑いをした。ちょっと気まずいけれども、柔らかくて、温かいけれども心がざわつく何とも言えない空間。


「………」


 何か言葉を出そうと口を開いたが


「俺も飾磨が怪しいとは思ってた」

「おわっ、隼兎」


 それより先に言葉を伝えてくれた奴がいた。

 ……って、今の会話を見られてた?


「やっぱり、瀬斗谷(せとや)君も思う? 最初のバトルした人って、特別に見えるよね」


 あわあわする俺とは対照的に琴子さんは普通に会話をしている……え、俺だけ?

 落ち込む俺をよそに、2人は魔法使いについて検証を始める。


「魔法使いの格好や仕草あれは計算されたものがある」


 あごに手を当て、隼兎は自分の考えを披露した。


「姿や顔を隠せるローブだけじゃない。肩当てをしていたのは、肩幅がわからないように、男か女かの性別もつかないようにしている。

 魔法使いが浮遊してたのは、身長を隠すためじゃないのか?」


 あの時は魔法使いの出現に驚いていたが、思い出してみると隼兎の言うとおり。魔法使いは男女の区別すらつからない。


「声も動画サイトで使われるものだったな」

「2人とも凄いね、あたしと恵凜姉さまは、ぼーぜんと見てただけなのに」

「いいや、凄くはない」


 隼兎は首を振った。


「わかった事と言えば、魔法使いが誰なのかわからない事だけなんだから」

「………」


 魔法使いが誰なのかわからない。

 もしかしたら、琴子さんか隼兎が魔法使いで、今の会話だって嘘かもしれない。


「………」


 俺は心の中で首を振った。

 魔法使いは誰なのか、今はわからない。でも、2人だけは信じたい。





 話を進めて魔法使いは人によって挨拶を変えてたようだ。


「琴子さん、魔法使いは何か言ってなかった?初めてましてではないとか」

「ううん。試着室から店の外に飛んで行く前、魔法使いは恵凜姉さまを見て、お手合わせ願いたい。と言ってた」

「そう言えば恵凜先輩は?」

「魔法使いを捕まえて、生徒会長の座を奪い取る と言ってどこかに行っちゃった」

「……まだ、諦めていないんだ」

「?何の事だか俺にはよく分からないが……」

「学校内で色々とあってな。隼兎はどうだった? 魔法使いは何か言ってた?」

「俺? 俺には『可愛い相棒だね』ってシャルムを褒めてくれたんだ」


 シャルム姉妹に愛情を注ぐ隼兎は、まるで自分の娘が褒められたかのように嬉しそうだった。

 隼兎……俺とは違う域の『好きなもの』愛を感じる。真っ直ぐに突き進める愛は、凄いと思う。


「杖を一振りしたら、願いが叶うならば、シャンテ|(人形の方)を自由にしてやりたいが……」


 隼兎から表情が消える。


「魔法使いの杖を一振りしてもらうイコール願いが叶うって事なのか? 何か言い回し可笑しくないか?」


 隼兎の言葉は俺も気になっていた。

 普通だったら『魔法で願いを一つだけ叶えてくれる』と言うのに……


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