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ろば耳  作者: 楠木あいら
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利用規約はちゃんと読もう 3

『まずはアプリの中にある『スマホ外バトル』の項目をタップしてください』

 近くに対戦候補がいます。バトル申請しますか?って出てますか?』

「あぁ」

『今、半径3メートル以内で外バトル機能をオンにしている全てのキャラクター名が出てきます』

「ムグラっていう名前だけがある」


 俺は辺りを見回した。人通りは多いとはいえ、駅前によく見かける広めの空間。半径3メートル以内に俺と清楚な女子高生以外に人はいないので『ムグラ』が清楚な女子高生の相棒に間違いないだろう。

 ムグラの名前をタップすると『バトル申請しますか?』とメッセージが出たので『OK』を押す。

 ほぼ同時進行だったので数秒で『バトル申請が受理されました。バトルをスタートします』のメッセージが出てきた。


『それじゃあ、マスター。マロンの活躍、とくとご覧あれ』


 マロンは立ち上がると肩から地面にダイブした。

 変化が起きたのは地面につく数十センチ前のこと。

 手のひらサイズのマロンが大きくなって、人と同じになった。


「おぉっ」

「凄い、ムグラ以外のキャラクターが見える」


 初めてのバトルモードを目にした俺達は、同時にそれぞれの感想を口にしていた。


 バトルモードは等身大のキャラクター2人が見える他、それと武器を手にしていた。

 2人ともソードで、ムグラは黒い柄の刀。マロンは両刃の剣。しかも金色の柄は剣にしては長く、赤や緑色の石などの装飾が施してあった。


『バトル、スタート』


 キャラクター達の重なった声が開始宣言を告げる。バトルの時は対戦相手の声も聞こえるらしい。

 開始宣言と同時に抜刀し、数秒、相手の動きを見て互いに斬りかかった。


「………」


 すげえ。映画を観ているみたいだ。

 筋肉のないコスプレをした少年少女たちだが、そこはゲーム。武器を軽々と持ち上げ戦闘のプロレベルの速さで打ち込んでいく。剣と刀。本来ならば性質上、打ち合うのは難しい話なのだが。それもゲーム。ソード系の武器として同じ扱いになっているようだ。


 10合ほど打ち合った後、キャラクター達は一度後方に跳び、距離を開けた。

 後方に跳んで着地したのと同時に、マロンは剣を振り上げて仕掛ける。


『サラマロン』


 かけ声とともに振り下ろしたマロンの刃先から衝撃波が生まれムグラに襲いかかる。

 刀を構え衝撃波を受け止めようとするものの耐えられずにムグラはふっ飛んだ。

 ふっ飛んで近くのファーストフードの二階に叩きつけられる。


「……」


 そう言えば、バトルフィールドは、このままで行われるようだ。

 対戦者しかキャラクター達が見えないからだろうな。もし、見えていたら武器を振り回し壁にぶち当たっているのだから、騒動になってしまう。


『カラフルタブレット』


 叩きつけられた痛みやダメージはなく、ムグラはファーストフードの窓を蹴って階下のマロンに斬りかかる。

 キャラクター達にとって俺達以外の人は障害物と認識しているらしく、マロンは立ち話する3人のご婦人たちの後ろに隠れてムグラの攻撃を阻止した。

 振り下ろされるムグラの刀も紫色の衝撃波も、もちろん当たることなく、ご婦人たちは会話を続けている。


「………」


 白熱するバトルなのだが、キャラクター達が言う技が引っかかってしまう。

 マロンが言った『サラ・マロン』は俺の好きなブランド名で、ムグラの『カラフルタブレット』も最近CMで見たことがある菓子の商品名だ。


 ギィィインと衝撃の音が響いた。

 技の名前について考えている間も2人の戦闘は続いている。


 ムグラの一撃をマロンは剣で受け止めたのだ。

 受け止めて、押し上げる。振り下ろしたムグラの威力より振り上げたマロンの力が上回ったのか、ムグラの体勢が崩れた。

 マロンはそれを見逃さず、体勢を低くしてなぎ払いながら叫んだ。武器の周りに色の光りが輝き強い一撃であるのがわかる。


『リムリムの極小水着』

「え……」


 頭が真っ白になった。

 美少女相棒マロンの口から、その言葉が出て、それが技の名前になって、清楚な女子高生に聞かれてしまったのだ。


「…………………………」


 り、リムリムは男じゃなければグラビアアイドルだって事はわからないが……極小水着はどう考えても、バレてしまう。

 違う違う違う!誤解だ!俺はリムリムが一番好みではない。ただ、ちょっと気になっただけで……


 と、主が動揺するのが相棒の戦力に影響するのかわからないが、次の一撃に対しマロンの動きが遅かった。


深凍深化(しんとうしんか)


 それが決定的な一撃となり、マロンのHPがつきて、バトルは終了した。


「………」


 バトルが終了したのは良いが、この空気どうしよう。

 明らかに『極小水着』のせいで空気が変わってしまっている。


「えーっと……ありがとうございました。それじゃあ」


 清楚な女子高生は足早に

、駆け足で去ってしまった。




『元気出してください、マスター。技の名前は毎回変わるから、大丈夫です』

「何が大丈夫だ……ってマロン。お前はひかないのか?」

『? 何がです?』


 マロンはゲーム内のキャラクター。プログラム。

まあ、そうでなければあんな単語を技名にしないか。


「はぁ……」


 恥がどうのこうのって、アプリの評価コメントにあったな……どうやら、こういう事になるようだ。


 しかし、それにしても。バトルはすごかった。目の前で本当に戦っているとしか思えなかった。

 スマホでダウンロードしただけのゲームなのに……


「とは言え……何で技の名前がそうなるかな……」


 迫力のあるバトルに魅了されてしまったが……


「そう言えば……」


 ゲームを続けるかどうか考える気になれない俺は、別の事を考えて気を紛らわそうと、相手の技名が気になり『深凍深化』と検索にかけた。

 俺も真面目に四文字熟語くらい覚えておかないと。


「えっと、しんとうしんか……」


 BLコミックのタイトルだった。


「…………」


 足早に去ったのは、そのせいかもしれない。



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