到着後の災難
『それではアルモニーイベントをお楽しみください』
バスを出て、見上げた。
「ショッピングモール?」
魔法生物の運転手がいなければ、どこかののショッピングモールに来たの一言で済んだろう。
違うといえば建物の前には巨大なオブジェが飾られていて、スマホからキャラクターが飛び出そうとする所で、ここがhmwの特別空間だと主張してくれた。
「この間、行ったA系のショッピングモールに似ているような気がする」
「もしかして5月に出来た所か?」
「隼兎も行ってきたか……そう言えば、あの店、あったな」
「お、この間の残念耳君だ」
そのオブジェ前に、この前の人がいた。
耳フェチの美人社会人 衣聖羅さん。もちろん相棒オレイユも肩にいる。
「誰?」
男たちの視線が俺に集まった。人には言えない好きなものを抱えている者にとって異性に近づくチャンスがないせいか、少し視線が鋭い。
「この前、皆でバトルしたんだ」
「この間は悪かったね。彼女とのデートを邪魔しちゃって」
『彼女!』
同時に叫ぶように言うと、詰め寄ってきた、隼兎なんて胸ぐらつかんでいるし。
「違う。彼女じゃなくて、同行してくれただけで」
「それをデートって言うんじやなくて?」
衣聖羅さん、楽しそうに話をこじらせながら、しっかり全員の耳をチェックしてた。
とにかく話を反らさなければ。
「hodakaさんは?」
「まだなんだよ。ハナほどの ろば耳ファイターなら、絶対呼ばれているはずなんだけれどもね」
「招待自体が急でしたから」
「もうちょっと待ってみるから、君たちは先に入ってて。
あぁ、彼女とお友達は、もう中にいるよ」
衣聖羅さんは、男たちに近づく様子なく手を振った。誰にも近づく様子もないということは、気に入った耳はないようだ。
話は元に戻してくれたが
「あれは事情があって、お礼に買い物に同行してもらっただけで……」
この前の一件を話ながら店内に入る。
店の中もショッピングモールそのもので、左右、斜めにさっそくお茶専門店やら雑貨店やら並んでいた。
目の前にはちょっとした広い空間とエスカレーターがあり、そこで歓声があがっていた。
「かっこいい、かっこいいかっこいいよ」
「双子だよね、もう夢みたい」
琴子さんと副生徒会長の恵凜先輩だった。
歓声を上げているのは2人の横に立っている2人の人物。
黒い着物のような服に黒い刀|(?)を下げた美少年。バトル経験したから俺にはわかる。相棒の2人のムグラ。
「店内だと、他のプレイヤーに見ることが可能です」
「…………」
それって……
俺はおそるおそる後ろを振り返った。
「吹田、逃げるぞ」
それを目にした俺は吹田の腕をつかみ走り出した。
「ここまで来れば、大丈夫か……」
「……誰か来る様子はない」
走りに走って俺らはゲームセンターに逃げ込んだ。 ゲームセンターの奥にある大きなコインゲーム機の影に身を潜める。
周りには人はいないが、NPCは存在していた。運転手と同じ1メートルしかないぬいぐるみ みたいな魔法生物がゲームをしていたり、俺らの近くをテコテコと歩いていた。
隠れている俺らに視線を向けることはあるが、不審な目をしたり話しかけることはないようだ。
「ふぅ」
息を整えてから、俺は改めて一緒に行動する相棒たちに目をやった。
サラ・マロンのヘアピンをさし、アイドルの衣装を着た我が相棒も浮いて見えるが、やっぱりオリオン。
同じサイズになっている分、オリオンの姿は俺にとって異様だった。
『オリオン。マスターにそっくりですね』
『これこそ双子というものですね』
オリオンも俺を見てうなづくなか、吹田は頭を抱えていた。
「これじゃあ、イベントどころじゃあない……帰ろかな」
『安心して下さい、あらた。アルモニー内では自由にキャラクターの服装が変更できます』
オリオンが吹田を『あらた』と呼ぶのは、呼び名を設定しているからである。
俺の場合、名前コンプレックスがあるので、初期設定の『マスター』のままにしている。
「本当か?」
「眼鏡やフードとか深くかぶってもらえば、バレないな」
「そうだな……」
吹田はチラリとマロンを見た。
「いっそのこと、ウィッグとかつけて女装化するってのもありだな」
「はぁ? 何で女装なんだよ」
「別にいいだろう。姿がわからなくなるんだから。俺だって男を連れ回すより女が良い」
『私は、あらた の意見に反対しません』
「おいおいおい、女装だぞ、反対してくれ、オリオン」
『マスター、キャラクターは主の意見に反対しませんよ』
「そうかもしれないけれども、多少の戸惑いとかしてくれよ……」
『すいません、sikamaさん』
オリオンが俺を『sikama』と呼ぶのは、ID名を使用しているようだ。
そう説明している間、マロンの奴、とんでもない事を言いやがった。
『arataさん、ついでに化粧するってのもありですね。
化粧店に言って店員さんにちょっとやってもらうってのもありですよ』
「マロン、何、すすめているんだよ! さっき主の意見に賛成するんじゃなかったのか」
『さらなる提案をしただけです』
「……。とにかく、俺と同じ姿の奴が女装するなんて、自分が女装しているみたいで嫌なんだ。断じてあり得ない」
「だったら、バトルして決めたら良いじゃないか」
新たな声に俺と吹田は身構えた。
「は、隼兎」
「何でここがわかったんだ ? 見えないはずなのに」
「お前らがバタバタ走り出して気になったけれど、みうしなったんだが、シャルムが教えてくれたんだ」
『アルモニー内は、全プレイヤーの居場所をサーチすることができます』
ふわふわの髪にうさ耳をつけたシャルムがにこっと返事をしてくれた。
ワンピースは白色に花柄。また、新しい服を買ったようだ。
「隼兎がいるってことは、琴子さんたちも……」
「いや、俺ら(シャルム)だけだ」
ほっとする俺を見て、琴子さんとバトル経験がある隼兎は、俺とオリオンを見てうなづいた。
「なるほどな。そりゃあ、2人揃って逃げるわけだ。
それにしてもそっくりだな。隠さないと大変だろうな」
「どういう事だ?」
琴子さんの事を知らない吹田は問い返したが、困惑する様子からして、何かに気づいたようだ。
「あの子と、バトルしてみればわかるさ」
「だから、バトルする前に、この姿だからバトルもできないんだよ。やっぱり、オリオンに女装してもらって」
「あのなあ、吹田。それでバレたらもっとややこしくなるだろが」
『はいはいはい。バトルしましょう、マスター』
結局、こうなるわけだな。




