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ろば耳  作者: 楠木あいら
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魔法使いからの招待状

『マスター、メッセージが届いています』


 平穏な休日を部屋でゴロゴロしていると、マロンがメッセージを告げた。

 『hmw』でフレンド登録するとメッセージを送ることができる。真っ先に思いついたのは、自称ろば耳キングを名乗る生徒会長かと思った。


『運営者からです』

「え?」


 予想もしない相手だった。


「俺、何かした? 何も悪さなんてしてないよ」

『とりあえず、読んでみますね』


 2頭身サイズのマロン画像が机の上に現れると、メッセージを読み上げた。


『Hand mirror warriorをご利用いただきありがとうございます。

 この度、Hand mirror warriorは一周年を迎えることができました。

 日頃、Hand mirror warriorを貢献されている方を特別に、開発中のアルモニーにご招待します。

 つきましては、今すぐ最寄り駅前にあるバス停にお集まりください。アルモニーに行っている間は、時間が止まっているので、ご予定があっても大丈夫です。

 参加の有無は自由です。

運営者 兼 魔法使い』

「………」


 今すぐって……


 部屋でゴロゴロする程時間をもてあましていたので、行ってみることにした。



 駅前についたが、光景はいつもと変わらない。

 もう一度、メッセージを読み直してみようとスマホを手にした時、後ろから声をかけられた。


「よお、もしかして、お前も呼ばれた?」


 強面だがバルバニアファミリーを愛する男、隼兎だった。

 相棒のうさ耳シャンテも肩に座っている。


「ああ」


 こう言う先行き不安な時、誰かがいるとほっとする。


「アプリのメッセージ送信者が運営者になっているから、イタズラじゃあなさそうだけれども」

「何か、急というかアバウト過ぎるというか……」


 俺たちはとりあえず指示通り、バス停近くにいたが、そこに向けられる鋭い視線を感じた。


「吹田……お前も?」


 同じ高校の男は、少し離れた所でうなづいた。


「隼兎には見えないから、|(相棒が見えないから)大丈夫だろ」

「……そうか」


 とことこと近づいてくれた。フレンド登録しているので吹田の肩にいる、そっくりな相棒オリオンも俺だけには見える。


「隼兎、同じ学校の吹田」

「どうも」

「吹田、友達の隼兎」

「どうも」


 初対面のぎこちない挨拶を終えたら、隼兎はさっそくゲームの話を始めた。


「ここに呼ばれるという事は、強いのか?」


 隼兎の質問に吹田とオリオンが見える俺は返答に困る。


「ろば耳ファイターレベル、だよな」

「ああ」


 吹田の返事も多くを語ろうとはしなかった。


「なら、バスが来るまでバトルしないか? 男なら恐くないし」

「……」

『バトルならアルモニーに着いてからの方が楽しいですよ』


 聞こえた声に視線を向けた俺たちは、その姿に言葉を失った。


「ぬいぐるみ……」


 1メートルぐらいしかない耳の短い兎のぬいぐるみが二本脚で立ち、しゃべったのだ。


『ご招待されている方にしか見えませんので、ご安心ください』


 淡いピンク色のボディは毛皮ではなくぬいぐるみのふわふわとした布で、頭の上に乗っている帽子から彼は運転手だろうと判断できた。


『sikama様、ハヤト様、arata様ですね。お迎えにあがりました。どうぞバスへ』

「バス? あ……」


 いつの間にかマイクロバスがバス停近くに存在していた。ぬいぐるみ運転手の布色より少し濃いめのピンク色でアルモニーの文字が塗装してある。


「おや、君たちも一緒とは、さすがは私が認めただけはあるファイター達だ」


 中にはいると聞き慣れた声がした。


「生徒会長」

「まあ、座りたまえ」


 まるで自分のバスかのように指示しながらも、生徒会長は見慣れない隼兎に目がとまると、強面の顔に動じることなく近づいた。

 ただ、今、近づくと中に入れなくなるのだが……


「初めましてアルモニーに呼ばれたろば耳ファイターよ。私はろば耳キング兼そこにある学校の生徒会長だ」

「ろば耳キングって……ネットで話題の。あなたが?」

「もちろん」


 ネットで有名になっている『ろば耳キング』に戸惑う隼兎だが、同じ学校の生徒会長になる俺と吹田は恥ずかしさがある。

 生徒会長は更に話し込みたいのだが、申し訳なさそうに運転手が説明を始めたいと言ってきたので、口を閉じて、俺たちを座席に着くのを待った。


『本日は、アルモニー特別イベントにご参加いただきありがとうございます。

 バスはこれから特別空間に入ります。特別空間内はこちらの世界の時間はと時間の制限がありませんので、お帰りになられた時は今の時間になります。

 いつでも退出は可能です。アルモニー内にいる店員に声をかけてください。ただ、一度退出されると二度と入ることはできません』

「何か、ペナルティとか罰金とかはあったりするんですか?」


 俺の問いに運転手は、ぷるぷるぷるっと首を振った。


『そういう事は全くありませんのでご安心してくだしい』

「特別空間内に時間制限はあるのかね」

『はい、生徒会長様。翌日の正午までとなっております』


 生徒会長様というのは、生徒会長のゲームID名も『生徒会長』になっているから。因みに相棒の名前は『生徒会書記』


『アルモニーの中でのお食事やお買い物は、ご招待様の負担はかかりません。その代わりお買い物した商品をこちの世界にお持ち込みすることはできません』


 アルモニーは買い物、食事ができるって事は店がある。遊園地とか?と考えていたら、隼兎が次の質問をしていた。


「? 買い物とかタダになるけれど、持ち帰れないって事か」

『さようでございます。

 アルモニー内でのバトルは様々な仕掛けを仕組んでおります。皆さま是非、バトルをお楽しみください。

 そして……』


 運転手は1度口を閉じてから、少しだけ音量を上げた。


『そして。アルモニーの空間には、Hand mirror warriorの運営者であり魔法使いがおります。魔法使いを見つける事ができた場合、魔法の杖を一振りしてくれます』

「運営者……」


 Hand mirror warriorの生みの親であり、異世界から亡命してきた魔法使い。

 ITと魔法を融合し、相棒がスマホから飛び出し迫力あるバトルを可能にした。

 その張本人がいる。


「魔法使いにお目にかかれるという、スペシャルなイベントはわかったが。魔法の杖を一振りするというのはどういうことだい?」

「何か願いがかなうとか?」

「私から、それをお答えする事はできません」


 生徒会長と隼兎の質問に、運転手はにこやかに断った。


「あのう、その魔法使いの名前はなんていうんですか?」


 吹田の気になる問いにも運転手は笑うだけだった。



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