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ろば耳  作者: 楠木あいら
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再来2

 バトル観戦できるため皆でフレンド登録した。

 衣聖羅さんの肩にいる相棒はオレイユ。後で聞いてみたらフランス語の『耳』とのこと。

 色白の長い黒髪。横髪は耳の後ろに回し鎖骨あたりに金の髪飾りで束ねている。そう、耳が良く見える髪型。よく見るとオレイユの耳、琴子さんの耳に似ているような気がする。

 中世時代の僧侶を思わせる少し独特な衣装を着ていた。


「せっかくだから、新しいバトルしてみる?」

「新しいバトル」


 ちょっと前、大型アップデートがあった。

 相棒との会話はそのままだったが、フレンド登録した者同士なら、複数バトルが可能になった。

 フレンド登録できる仲なら技名がバレても大丈夫なのだが……ちょっと不安である。

 グラビアアイドルの技名が出てきたら……バトル後の女性の方々の冷たい視線が怖い。

 そんな俺の不安はよそにバトルは始まる。


 4人の肩から相棒たちが地面に向かって飛び降りた。今回はサイズは変わらない二頭身のままのようだ。

 まあ、そうなるのは当然なのかもしれない。

 俺たちは椅子に座り、テーブルの上には水の入ったコップや薬味の入れ物やらが置いてある。

 面白いバトルが見られるというhodakaさんの話で俺らは、そば屋に入った。あくまでも映像だけなのだが。注文を頼んだばかりなので、食べ物が巻き込まれる事はないだろう。


『マスター、今回のバトルは球技|(?)です』


 テーブルの上に着地したマロンは俺を見上げてルールを教えてくれた。


「何でクエスチョンがつくんだ?」

『正確な球技ではないからですよ』


 よく見るとマロンだけだはなく皆、武器を持っていない。


『今回は1個のボールを4人で奪いながら、ぶつけて、最後の1人になった人が勝ちです』

「ドッチボール?」

『みたいなものです。ボールに当たったら、退出、肩に戻ります』


 4人の視線がテーブルから離れた。皆、同じルール説明を聞き終わったらしい。


『バトルスタート』


 4人の声が同時に重なり、バトルが開始された。


「おっ」


 テーブル中央から白いピンポン球が表れて落下していく。相棒たちはピンポン球を取るためダッシュを始めた。

 皆、ほぼ同時にたどり着きジャンプしたが、1番高くジャンプできたのは赤いドレスを着たhodakaさんのカリーヴィアだった。

 ピンポン球を両手で受け止めて着地。

 残り3人の取り合いを想像したが、カリーヴィアの口が開く。


『ネチネチ魔王』


 カリーヴィアの持っていたピンポン球が破裂した。いや、壊れたのではなく小さなボールになり、あらゆる方向に飛んだ。

 こうなると奪おうとした3人は不利な状況に一転。小さくなったボールに当たらないように四方八方に飛び散る。


「取り合いで固まっているのを逆に利用したのは、なかなかの考えね」


 衣聖羅さんはカリーヴィアの動きを関心していたが俺は技名の方が気になってしかたなかった。


「ところで、ネチネチ魔王って何ですか?」

「あぁ……仕事関係でね。取引先にやっかいな人がいて……」

「こっそりあだ名をつけているやつね。いるんだよね、逆らえないけれども嫌な人って」


 社会人は大変そうだ。


 プレーヤーが会話している間もバトルが続いている……のだが、テーブルには盛り髪とスリットの入った赤いドレスを着たカリーヴィアしかいない。肩に退出したキャラクターもいないから、どこかに隠れているのは確かだ。

 カリーヴィアも警戒して辺りを見回していたが、カリーヴィアの背後、頭上高く飛び出したキャラクターがいた。

 相棒、マロンだった。

 俺の頭から、さらに飛び上がったマロンは手にしていた小さなボールを両手で頭上高く上げた。

 カリーヴィアが散らばした小さなボールが一気に膨れ上がった。ピンポン球を超えて野球ボールを超えてバレーボールサイズになったところで、カリーヴィアに投げ落とす。


『サラ・マロン』


 カリーヴィアの悲鳴が聞こえ、当たったようだが……

マロンは気づいていない。

 マロンからさらに高いところにいたムグラが、ボーリング球を投げ落とした事に。


『深紅の冷子爵』

『あれ?……わひゃあ~』


 マロンの間抜けな声と悲鳴が聞こえ、ボーリングの球がテーブルの上に落下した。

 深紅の冷子爵、琴子さんの好きなワールドなのは、わかるのだが、深紅だけれども、冷静、もしくは冷酷な子爵って事か?


『負けちゃいました』


 俺とhodakaさんの肩に相棒たちが到着した。

 後は琴子さんのムグラと、衣聖羅さんのオレイユになった。耳問題の直接対決となる。


「うふふふふ」


 それを確認したのか、衣聖羅さんはにやりと笑い舌なめずりをし、琴子さんは、ぴくっと僅かに震えた……


 バトルに視線を戻すと、テーブルにはボーリングでへこんだテーブルだけ、ムグラはボールを片手に高速移動していた。

 2頭身サイズのラグビーボールを抱え、プレーヤー達の肩や頭をぽんぽんと跳んで行く。

 そう言えば、オレイユの姿を1度も見ていない。

 ムグラもテーブルにたどり着くたびに辺りをきょろきょろするが、オレイユの姿は見当たらない。

 ムグラがもう一周、肩や頭を跳びテーブルにたどり着いた瞬間、ようやくオレイユが姿を現した。

 割り箸入れの蓋が開き、どうやって入っていたのか……隠れていたオレイユは高速移動でムグラにタックルをかます。

 割り箸入れが背後にあっただけに、ムグラは体勢を崩し、ラグビーボールをあっさりと離した。

 ラグビーと違い、ボールを取る仲間はいない。ラグビーボールはぽーんぽんとテーブルを転がっていった。

 タックルを解除したオレイユ、解放されたムグラの順にボールを追いかけて行く。

 スタートが早かった分、ラグビーボールを手にできたのは、オレイユ。

 オレイユは手にしていたラグビーボールを2頭身サイズの野球ボールに変えて、一緒に出現させたグローブと共に1球を投げつける。


『蝸牛|(耳の中にある感覚器官) 』

『オルレアン』


 オレイユが投げた剛速球をムグラは出現させたバットで打ち返す。

 技名の方は、蝸牛(かぎゅう)カタツムリではなく耳の中にある感覚器官で、オルレアンは……フランスの中部にある都市の名前だが、彼女の技名の場合、キャラクターの名前の可能性も高いだろうな。

 野球的に考えればバットで打つのだが、バトルルールはドッチボール。打ち返したら不利になるなでは?と、考えていたが、大丈夫なようだ。

 オレイユもグローブからテニスラケットを出現させ、打ち返した。


『コオロギの耳|(耳は前足にあるという雑学』

『スイートムース4巻』


 ムグラもラケットを出現させ打ち返す。


『マスター、ちょっくらお手伝いに行ってきます』


 と、マロンとhodakaさんのカリーヴィアも肩から飛び降りて、テーブルに向かった。

 よく見ると2人の腕に『審判、準備係』と書かれた腕章がついてた。

 2人は、あれからずっと打ち合いしているムグラたちの邪魔にならないように、テニスフェンスや審判が座る高い椅子を設置し、さらにジャンケンしてカリーヴィアが座っていた。

 マロンはと言うと、本来のテニスの試合ではいないが、チアリーダーが使うポンポンを出現させ、応援するようだ。


 そんな中でもテニスの打ち合い、いや、試合が続いている。

 プレーヤー達も固唾を飲んで? 試合を観戦していた。

 準備が整ったところで勝負にでたのはオレイユだった。

『正しい耳掃除』

『1週間で3キロ痩せる方法』


 サイドライン スレスレに打ち込んだが、ムグラも間に合った。

 しかし、それは狙いでオレイユは真逆に打ち込む。


『耳の専門医になるには』


 今度もサイドラインスレスレ。ムグラも走るが間に合わない。


『汚れなき乙女の聖域』


 技名を唱えたムグラから、何かが出現した。

 ムグラと同じ顔だちをしていたが銀髪は長く、その背中には白く小さな翼があった。

 ムグラから出てきた双身の者は一瞬でボールに追いつき、打ち返した。

 打ち返した一撃はオレイユに。ぱっこーんと気持ちの良い音がオレイユのおでこに命中し、オレイユは後方に吹っ飛んだ。


『ゲームセット、勝者、ムグラ! 』


 ムグラの勝利により、琴子さんの耳を守ることができた。


 琴子さんは衣聖羅さんに勝利し、俺もhodakaさんに勝ったということで、ソバをおごってもらった。


「それはそうと…いせ。耳の専門医になるにはって……」


 店を出てから、hodakaさんでも聞き捨てならない技名を口にした。


「だって一日中、耳を見られるんだよ。ハナだって一日中、踝が見られる職種があったら考えるでしょ」

「まあ……」


 下心たっぷりの転職を考えるのは、やめてください……と心の中で突っ込むことにした。


「それはそうと、琴子ちゃん。ダイエットなら耳ツボダイエットがオススメよ。良いお店を知っているから、行かない?」

「いせ、往生際が悪いわよ。汚れなき乙女の聖域に踏み入れちゃだめ」


 hodakaさん、諦めの悪い衣聖羅さんを引きずり去っていった。


「………」


 2人の姿が見えなくなってから、琴子さんは息を吐き出し。表情を緩ませる。


「琴子さん、大丈夫?」

「うん、まあ。それにバレてはいなさそう」

「バレる?」

「最後の技名ね、純粋無垢なキレイな言葉のイメージがあるんだけれども……」

「……」

「実は、女装して女子高に通う男主人公の話でね。しかもほとんどの生徒が女装していてね。凄いラブラブなストーリーなの」


 えへへと笑う琴子さんに、笑みで返すことにした。


「お腹も膨れたことだし、そろそろ行こうか」


 琴子さんに言われ、俺たちも歩きだした。2人での買い物がこれから始まる。




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