再来1
とうとう、この日が来てしまった。
琴子さんと一緒にヘアピンを買う日が|(正確には同行してもらうだけ)
前回は、待ち合わせの場所になぜか副生徒会長が現れてバトルするハメになり、しかも琴子さんと意気投合し交流を深める2人にヘアピンショッピングを諦めた。
琴子さんは気にしてくれたようで、後日、日程を組んでくれた。
電車での移動。何を話せばいいのか、前日は悩みに悩んでいたが、気にする必要もなかった。
「とうとう、運命の人に会ったんだって? どうだった?」
……。
前回のバトル後、吹田は生徒会長に会ったようだ。
その情報が副生徒会長に入り、そこからリア友の琴子さんに進む。
生徒会長は吹田の実力をするためにバトルしてくるだろうし、生徒会長を追い越したい副生徒会長は、生徒会長と吹田のバトル勝敗がどうなったにしろ。俺と吹田のバトルは引き分けになったから、吹田にバトルしてくるのは明らかだ。
……ということは吹田の相棒、俺にそっくりなオリオンも見てしまったんだろうか……それを琴子さんに知られたらと思うと……いや、まだ、そこまで情報は伝わっていない様子……だと思う。
「どうだったと言われても……恵凜先輩から聞いてないの?」
「えりん姉さま、バトル内容は教えてくれない」
琴子さん。先輩と意気投合してから、話し方が少しくだけたような気がする。
そう考えるとえ先輩との騒動が無駄ではなく、良かったと思う。
「理央君はバトルしたんでしょ? 運命の人と」
あと、名前で呼んでくれるようになった。
俺が『琴子さん』と呼んでいるのに苗字は変かなという事で。
女と間違われて、ヘアピンをプレゼントされ、人生狂わされた名前なのでコンプレックスがあるのだが、琴子さんば別……というか……女性に名前で呼んでくれるのは嬉しい。単純な話。
というより、恵凜先輩の『姉さま』の方が、親近感があるよな。
「俺も教えられない」
俺の場合はなおさらのこと。
琴子さんは、運命の人に会ったまでの情報しか知らないようだ。これで吹田と一緒の所を、琴子さんに遭遇しなければ良いだけの話。
琴子さんという女性同行者がいるので、今日は一目を気にせず安心して見られる。
なので前々から目を付けていた『アレストナーレ』という所にした。
店自体は小さいが、店内にある全ての商品がヘアピンという俺にとってはパラダイスといっても良かった。
「お店までの場所はバッチリ。スマホ地図見なくても覚えてるから」
「あれ、しかま、君?」
今、俺の名を呼んだのは、琴子さんではなかった。
後方からの女性の声、振り返ってみるとキレイなお姉さんが手を振っていた。
「………」
「理央君、知り合い?」
またしても女難の相。
「あれ、覚えてない? この前、バトルしたでしょ」
「……。hodakaさん」
『勝ったら何でもしてあげる』とバトルを誘ってきた踝フェチのコーディネーター穂高華恵さん。この前はスーツ姿だったので気がつくのに時間がかかってしまった。
「理央君……」
「この前、バトルしたhodakaさん。凄く強いよ」
「あの、理央君。そっちの方じゃなくて……」
琴子さんの声の違和感に気づき、視線を向けると。
「………」
琴子さんの真横に新たな女性がいた。しかもかなり接近している。というより顔が触れるぐらい近い。
「いせ、駄目よ。初対面の子に近づいたら」
hodakaさんに注意され、渋々と離れた女性もかなりな美人だった。
「ごめんね。良い子なんだけれども、ちょっと変わり者でね」
「それ、ハナが言う?」
俺も同意見だが、人のことは言えない。
「この子は、聡井 衣聖羅バトルやって、意気投合してね」
愛称同士ので呼び合っているのだから、それなりの仲だというのがわかる。
類は友を呼ぶようだ、外見も中身も含めて。
「それでそれで、そっちの子は?」
衣聖羅さんが言っているのはもちろん琴子さんの事だろう。
「彼女は抑野琴子さん。俺らもバトル仲間です」
「どうも、はじめまして……」
琴子さん、衣聖羅さんの視線に脅えている。
「琴子ちゃん、さっそくだけれども、耳を見ていい?」
そして俺が紹介もないまま、衣聖羅さんは琴子さんに近づいた。
「大丈夫、大丈夫。何もしないから。今のところは」
「いせ、未成年に手を出しちゃだめよ」
硬直する琴子さんの耳に近づきじっくりと、ねっとりとした視線を向ける。
「うんうんうん。耳珠|(付け根にある出っ張り)が可愛いく主張してて。耳輪|(外側のフチ)もちょい細。何よりもキレイな三日月型|(縦長)」
「耳の場所、そんなに名前があるんですか?」
「耳をナメちゃだめよ、少年君。耳は脳の使い方が最も表れる場所。耳を見れば姓名判断しなくても性格がわかる。占いだってあるんだから」
衣聖羅さんが視線をそらす事なく答えてくれた。
「因みに君の耳は残念賞だね」
もうチェックしてたんだ。
「良かった。この子の踝は私のモノだから、取り合いにならなくて」
「勝手に決めつけないでください」
「うんうんうん。あたしの理想的な、いや、これ以上にない耳だわ」
身動き一つできないままでいる琴子さんに対し、衣聖羅さんは極上の笑みを浮かべた。
「ねえ、ちゃんとアルコール消毒するから、その耳、舐めてもいい?」
「……」
衣聖羅さんの発言に、俺らは耳を疑った。
「ちょっと、まって」
「いせ。早まっちゃ駄目」
「え、あたしは本気よ。法に触れないし。琴子ちゃんの耳はあたしが探し続けてきた理想の究極の耳なのよ」
「衣聖羅さんの熱意はわかりますが」
さすがに琴子さんの前に割って入った。琴子さん、衝撃の一言に完全に固まったまま、俺の後ろに隠れてくれた。
「うーん、それじゃあ、賭けバトルしない? 君たちが勝ったらご飯でも服でも何でも買ったあげるけれども、あたしが勝ったら、うふふふふ」
まあ、そうなるよな。




