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ろば耳  作者: 楠木あいら
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同級生3

『今回はマスター達がバトルしてもらいます』

「え? ……ここで殴り合いの喧嘩をしろと」

『違います。バーチャル内でバトルするんです。マロンがやっているバトルをマスター達がやるのです』


 マロンは、俺を手のひらに乗せて笑った。

 は?手のひら?

 いつの間にか、マロンが巨大化した。というよりも、俺が縮んでいた。

 自分が小さくなったと判断できたのは、周りの背景も巨大化したから。激安をうたうカラオケ屋の少人数用の狭い部屋が、開放的、いや、それ以上に広くなっていた。


『さあ、マスター、武器を持ってバトルスタートです』


 マロンから見ればつまようじサイズの槍を渡され、右手を俺をテーブルの上に移動する。

 さっきまで当たり前のようにあった専用のリモコンやマイク、コップまでも、今は障害物でしかない。


「このサイズでコーラー飲んだら、腹いっぱいになるんだろうな」

『実体化してないから、お腹には貯まりませんよ』

「…………」


 槍はいつの間にか手にしていた。と言うよりも両手に磁石か接着剤でくっついている感じ。感触も重さもない。

 槍の柄は金色で、飾りには赤い星がはめ込まれていた。今回もヘアピンからできた槍と考えることができる。

 何となく槍を持っているように振り回してみると槍も同じように動いてくれた。

 ジェスチャーしているようにすれば良いのか?とわかった時、上から剣が向かってきた。

 振り下ろしてきたのはもちろん、吹田。


「飾磨理央、お前のせいだ!」


 きぃぃんと、音をたてて火花が散った。

 振り下ろしてきた剣に気づき、冷静に槍を横にして受け止めていた。武術なんてやったことのない人間が。

 もちろん吹田の攻撃にも剣の重さなどもない。

 受け止めている槍をぐいっと上に上げると、簡単に剣を押し上げ吹田をのけぞらせることができた。


「それは、こっちのセリフだ」


 まるで技名を言うようなタイミングで、こっちの言いたい事が口から出ていた。

 槍を構え真っ直ぐ吹田の腹部に突き出したが、吹田は体を回転させて剣で槍先をなぎ払うというアクロバティックな動きを見せた。

 格好いい動きを見せる吹田であるが、剣の柄は水色で 飾りはクマ


「………」


 可愛い剣を目にした時、俺は思わず笑ってしまい、吹田の怒りを買ってしまった。


「いつもいつも、いつもだ。お前を女と見間違えてから、俺の恋は、お前のせいでいつも失敗するようになったんだ」


 素早い斬り込みが何度も入ってきたが、槍で防いでいた。体がいつの間にか動いていた。


「なんだよそれ。3度しか会っていないのに」

「小学校も中学校も一緒だった。しかも4年は同じクラス」

「そうだっけ?」


 吹田の攻撃が強くなり、槍で受け止めたものの、体が後方に飛んだ。

 気がついたら背中はコーラの壁に当たっていた。痛みはないので気がついたら背中に巨大コーラがあったという感じ。


「飾磨っ」


 吹田が剣を振り上げて、こっちに突進してくるので、慌ててコーラの後ろに隠れる。

 吹田は俺のいた巨大コーラそのものを斬りつけた。

 巨大コーラがスッパーンと斜めに切れ目ができ、きれいにコップとコーラが重力に従い落ちていく。

 マロンたちのバトルを見慣れていたが、目の当たりにすると、なんて凄いバトルなんだと驚いてしまう。

 しかし、そんな暇はなかった。

 コップが壊れ、こぼれるリアルな映像よりも、吹田は俺を倒したいようだ。


「俺の恋はお前のせいで、すべてだめになる、責任をとれ」

「何だよそれ」


 無茶苦茶に振り回す吹田の攻撃を避ける。


「小2の時、ショートカットの子が好きになったのに、また、性別を間違えたら嫌だと近づくこともできなかったし。

 4年の時に好きになった子に告ったら、お前の事が好きだって言われてフラれた」


 俺は吹田の攻撃を受け止める。


「4年? 誰だよ、それ」

「奈原さんだよ、長い髪でいつもワンピースを着ていた」

「………」



 そのまま吹田の攻撃を受け、また、後方に飛ばされた。カラオケのリモコンに当たり、ゴロゴロと転がったが、ショックの方が大きかった。

 奈原さん……可愛くて気になってた。告白してたら両思いだったんじゃないか!


「俺の人生を返せ」


 リモコンの上に仰向けになっていた俺に吹田は跳んで剣を叩きつける。

 リモコンは派手に砕け飛び散ったが、そこに俺の姿はない。

 剣を振り下ろした吹田に、俺は槍をなぎ払う。


「お前ばかり、被害者ぶってんじゃねぇよ」


 俺だって言いたい事はある。


「奈原さんのショックは大きいけれども、俺だってお前のせいで人生狂っているんだからな」


 後方に跳んで攻撃を避けていた吹田に駆け寄り、縦に振り下ろす。


「お前がヘアピンを2度にもプレゼントしたせいで、俺はコレクターだよ」


 きぃぃんと、火花が散った。

 吹田が剣で受け止めていた。


「…………」

「おかしいだろう、男がヘアピンを集めるなんて。

 あぁ、おかしいよ。バレたら学校生活は終わりだ。親の目も変わる。

 それを恐れて日常の何げない会話でさえもバレないようにする。気の抜けない日々だ。毎日、爆弾を抱えて生活しているようなもんだ。

 お前が女と間違えてプレゼントしたせいでな」


 剣を押し離し、横になぎ払う。吹田はふっ飛んでいた。

 吹田と同様に俺も駆けだしていた。

 吹田が飛ばされた方向は障害物はないが、テーブルの端。そこから落とそうかと考えていたら、吹田の奴、体を回転させて着地し、足に反動つけて跳びだしてきた。


「だったら、俺のゲームキャラは、どうなるんだよ。バトルできないじゃないか」

「知るかっ……って、何で俺の姿になるんだよ」

「お前が俺の恋を邪魔する、とんでもない奴だからだ。

 いつかは負かしてやろうと高校も一緒にして。近づけるまで色々と調べてたら、こんなのになったんだ」

「こんなのって言うな。それってストーカーじゃねぇか」

「冗談じゃない、何でこんな奴をストーカーしなければならないんだ」

「だから、こんな奴って言うな。

 こんな手紙を靴箱に入れるとか、回りくどいことをするのも、ストーカーそのものじゃないか」

「堂々とやったら、周りの目が変に見られるだろうが」

「俺の目から見れば、十分に変な目だ」


 斬り合っていたというよりも、言いたい事を吐き出していたに近い。

 ここから先はさらにくだらない内容の売り言葉に買い言葉で言い合い、ついでに斬り合っていた。


 それがどれぐらい続いたのかだろうか……体に負担がかからない分、バトルはずっと可能だったが


『もう、マスターいい加減にしてください』


 マロンの堪忍袋が切れた。

 吹田とのバトルで説明している暇はなかったが、マロンとオリオンはテーブルフィールドから一歩離れたところに巨人の置物のように立っている。


『今日は引き分けにしてもらいます』


 そして、どこから出てきたのか |(映像だから何でも可能か)頭上高く持ち上げていたタライから大量の水をテーブルにぶちまける。

 その水が俺らを巻き込み、テーブルの外に押し出され、リングアウトしたところでバトル終了。

 この映像、吹田の場合、オリオンになるのか?




「…………」


 バトル終了した俺と吹田は無言のままカラオケ屋を後にした。

 長いことバトルした気がしたが、30分ぐらいしかたっていない。まあ、時間が余っているとはいえ、この状況で吹田と歌う気などしない。


「バトルってこんなに疲れるものなのか?」

「いや、何度かバトルしたことがあるけれども、こんなに疲れたのは、はじめて」


 体力は使わなかったとはいえ、何か疲れた。

 その代わり、言いたい事をぶちまけたからか、心はすっきりとしている。


「バトルしたことがあるのか?」

「まあな」


 とはいえ吹田も俺も、琴子さんと副生徒会長のように意気投合、親友になれたわけではない。

 長い間、自分たちの人生を狂わせたのだから、簡単にリセットはできないのだ。


「帰るか」

「そうだな」


 俺らは駅に向かって歩きだした。吹田も同じ方向を進んでいる。


「電車通学か?」

「2駅先」


 とはいえ、良い方向になりそうな気がする。


「ゲーム、やりたいなら生徒会長に会うといい」


 忘れずに自分のミッションを進める。


「は?生徒会長?」

「行けばわかる」


 俺と同じ姿の相棒なので、本当はすすめたくないのだが、他の誰かと関わりを持ち、心境に変化があれば相棒の姿が変わるかもしれない。という願いがあった。



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