同級生2
あの日の事、覚えてますか?
放課後、学校の近くにある青い看板のコンビニで待っています。
「…………」
いつもの流れなら¦(?)これが逆に吹田が書いて入れた手紙という展開になるのだが……
今回は違うかもしれない。なぜなら、手紙の折り方がハートなのだ。明らかに女子からの手紙になる。
しかし……あの日? あの日って?
いつ? 俺、何かした?
「…………」
俺の人生、女子、女性が関わった出来事なんて僅かで『hmw』でバトルした琴子さんか副生徒会長か踝フェチのOLさんしか思いつかない。
靴入れに手紙を入れられる人物は副生徒会長しかいないが、彼女の場合『hmw』内のメッセージ機能が使えるから、こんな回りくどい事をする必要はない。
「………………」
吹田ミッションはキレイに忘れ、授業も上の空のまま、放課後まで長い時を過ごした。
学校近くのコンビニで青い看板という事は、駅前にある、この場所に以外にはなく、俺は必死に平静を保ちながら辺りを見回したが、それらしき人は見あたらなかった。
早かったのだろうかと、スマホを触るフリをして5分くらいだろうか。
背後から腕を捕まれた。
「何も言わず、そのまま歩け」
命令する声は静かに鋭く、男のものだった。
言われるがまま、コンビニの隣にある建物の2階のカラオケ屋。
「…………」
テーブルを挟み向かい合わせに座っているのは、どう見ても男で、同じ制服を着ていた。どう考えても、こいつが靴入れに手紙を入れたに違いない。
店員が飲み物を運びドアを閉めるまで無言が続いた。
「…………」
いや、店員がいなくなっても無言だった。
向こうは口を開く様子がないのでこちらから質問することにした。
「靴入れにハート型の手紙を入れたのはお前か?」
「ああ」
とりあえず返答はしてくれるようだ。
「何でハート型なんだ?」
「男からの手紙だと無視さ
れるだろう」
「……。じゃあ、手紙に書いてあったのも、俺を騙すため?」
相手はギラッと睨みつけた。
「覚えてないのか?」
「……。まず、お前は誰だ? 名前すら……」
物凄く睨みつけられた。
「俺は吹田新だ。忘れたとは言わせねえからな、飾磨理央」
そんな気はしていたが、こいつは吹田新だった。それに俺の名前を知っている。
「ここはカラオケだから、誰にも盗み聞きされる恐れはない。
だから、徹底的に言わせてもらう」
と、豪語したものの、吹田、何も語り出す事はなく、視線をテーブル前にあるコーラーに落としたまま、動きはなかった。
困ったこっちが話題、ミッションだった話を進ませてもらうことにした。
「吹田って『hmw』やっているんだってな」
俺の言葉に吹田はまたしても睨みつけた。
「何で知っている?」
「友達の友達からの情報……実は俺もやっている……」
それを耳にした吹田は睨みつけたまま、スマホを取り出した。
「だったら手っ取り早い、俺とバトルしろ」
『hmw』のアプリを起動させた画面を俺に向けて。
「……わかった」
まあ、ミッションが進められるから良いか。
普段『hmw』を隠しているという事は『ひみつの好きなもの』を持っている可能性があり、そういう人ならば俺もバトルしても良いと思っている。
「こうなったのも、すべてお前のせいだからな」
その後に言った言葉が耳にひっかかったが。
今回も周囲にバトル申請可能な者は『オリオン/arata』しかない。
『バトル申請が受理されました。バトルをスタートします』
いつものメッセージが流れ、マロンが現れる。
カラオケの部屋中なので二頭身かと思いきや人間サイズだった。部屋中でどう暴れるのだろうか? 武器を振り回す以外のバトルも体験しているので、もしや歌でバトルか?
と考えつつ、吹田の相棒オリオンを見た。
オリオンの姿に体の全ての機能がフリーズした。
「……………………」
目の前に俺がいた。
鏡を置いたのか、ドッペルゲンガーかコピーペーストか。
とにかく、吹田の相棒オリオンは俺の姿をしていた。
「全てお前のせいだ」
もう一度、吹田は言った。
『hmw』の相棒は自分で作成できない。今まで自分が打ち込んだ単語、クリックしたページに書かれている言葉により姿が変わっていく。
「どういう事だよ、何で俺の姿をしているんだよ」
そうなると吹田は俺の事を打ち込んでいたのか?
「何で俺の姿なんだ?」
「お前と話をするため、靴入れやら、行動パターンやら打ち込んでいたから、こうなったんだ」
「何で調べる必要がある?」
「全ては、あの日だ」
「あの日?」
吹田の睨み目が最高角度まで上がり、伸ばした手は俺の胸ぐらをつかんでいた。
そして低くドスの利いた声で言った。
「オリオンの胸ポケットにある物を見ろ」
胸ポケットには可愛いクマのヘアピンが挟まれていた。
「……………………」
記憶が蘇っていく。
幼少の時、女と間違えて二度にも渡りヘアピンをプレゼントした男。
こいつ、全ての始まりを作った男だ。
「それはこっちのセリフだ」
俺は掴まれていた手をつかみ、引き離した。
「お前のせいで、俺の人生が変わったんだからな」
あの時、ヘアピンを貰わなければ、俺はヘアピンコレクターになることはなく、人の視線を気にしつつの行動や言葉を選んでの発言しなければならない、そんな日常を送る必要はないのだ。
『あのー、マスター。修羅場的な場面、悪いんですが』
重苦しい空気を感じることのないマロンが中断する。
「わかっている」
ぼそりと吹田が答えた。同じ事をオリオンが発言したのだろう。
「…………」
俺は息を吐き出した。
「まあ、バトルするか」
「は? この状況でか?」
「たからだよ。
このままだと殴り合いの喧嘩になって、店員が駆けつけ、カラオケ屋を出禁にされるだけ。
その話を耳にした誰かが尾ひれをつけて学校中に広まるだけだ」
「……わかった」
吹田はまだ怒りの感情がフツフツと沸いて、ぶちまけたいようだが。俺の意見に耳を向けてくれた。
俺も吹田も『騒動』と言う言葉から避けていきたい人間なのだ。
騒動は嫌い。
誰にも知られず騒がれず、静かに日常をおくりたい。
だからこそ、こっそり手紙を靴入れに入れて、周りに聞かれる恐れのない。カラオケに連れてきたのだ。
でも、どこかでぶちまけたい。
誰にも知られずにぶちまける事ができるのがバトルだった。
「…………」