同級生1
『マロン、聞きだいことがある。フレンド登録した人バトルは観戦できるって言ったな。あれは対戦相手がフレンド登録してなくても観戦できるのか?』
前回の副生徒会長とのバトルを琴子さんに万が一にも見られたら……と思うと、恥ずかし過ぎて顔も見られなくなるので、ゲームルールを完全に把握している相棒に聞いた。
『フレンド登録してない対戦者が含まれている場合、観戦は不可能です』
良かった。
『ただ、kotokoさんとerin¦(副生徒会長)さんはリアルフレンド登録しているから、マスターの技名はバレるかもしれませんね』
「………」
ファミレスで2時間語った仲なら、もしかしたら技名がバレたかもしれない。
いやいや、考えすぎだろう。2人は『不夜城の宴』を始めとするBLワールドの話で楽しみ、その前にやったバトルなんて気にかけることなんてない。
だよな。誰かそうだと言ってくれ!
「………」
と、心の中で叫んでしまったが、時計を見た俺は冷静さを取り戻した。
『hmw』のアプリを終了して学校に向かう。これが平日の朝、いつもの行動。
『いってらっしゃい、マスター』
アプリを終了前、マロンはそう言葉をかけてくれる。
『今日も良いバトル相手を探してきてくださいね』
ゲームの相棒らしい言葉が続くのだが……。あと、スマホは持ち歩くのだから、正確には『いってらっしゃい』ではないような気がする。
ヘアピンコレクターで『hmw』をプレイしている事を完全に隠している学校内生活。
自分の平穏は守るため、言葉を選びながらの会話となってしまうので、どうしても聞き役になりつつある。
今日も今日とて教室移動中に情報通のどうでも良い会話を耳に入れるつもりだった。
「1組の吹田。ろば耳ファイターらしいよ」
「ろば耳……」
「飾磨、知らないのか? 『hmw』っていうすんげーゲームがあって、その中で強い奴の事をろば耳ファイターって言うんだ」
「そうなんだ」
聞き慣れた言葉を耳にし、危うくオウム返しで口にしてしまったが、相手は知らないと認識して教えてくれた。
『ろば耳ファイター』という言葉を作り広めたのが、この学校の生徒会長までは誰も知らないようだ。
しかし、もう、ここまで広まっていたんだ……生徒会長、恐るべし。
「どうして吹田がろば耳ファイターなんだ?」
仲間の1人が話を進めてくれた。
「たまたま、大谷が話しかけたついでにスマホを見たらしいよ。『hmw』の画面になってて、吹田は慌てて画面を隠したって。
吹田は『hmw』やっているなんて聞いたことがないから、もしかしたらろば耳ファイターじゃないかって」
「ふうん」
ろば耳ファイターと呼ばれる者は、誰にも言えない秘密の好きなものを持っている。誰にも打ち明けられず心に閉まっておきつつ、スマホで『好きなもの』について打ち込む。打ち込む時に何らかの力となり、ゲームに影響される、と、マロンが言っていたっけ。
秘密の好きなものがバレないようにろば耳ファイターはめったな事がない限りバトル申請 可能状態にしない。
「………」
吹田がろば耳ファイター……生徒会長は知っているのかな?
『何? 1年1組の吹田 新ろば耳ファイターだと( ̄人 ̄)』
『hmw』内でできるメッセージ機能を使って生徒会長から送信されたのが、これである。
顔文字好きだが、吹田のフルネームを知っているのはさすが生徒会長。
『もし、そうならば我が校3人目のろば耳ファイターの誕生ではないか(≧∀≦)』
どうやら生徒会長も知らないらしい。
因みに他2人のろば耳ファイターは、俺と副生徒会長。生徒会長はろば耳キング、という事になっている。
『早速、調査したいものだが、あいにく生徒会の仕事が山積みで、動くこともできない(;´Д`)
なので、ろば耳キングが、君に重大ミッションを与えよう(▼∀▼)
吹田新が、ろば耳ファイターなのか調べ、そうだとしたら、是非とも ろば耳友の会 に入会させるのだ!(*´ω`*)』
「………」
俺が……
それはそうと『ろば耳友の会』って……新たなるワードが増えている。
吹田がろば耳ファイターかのか調べる事になって2日たったが……全然、進んでいない。話しかけてもいない。
今まで最低限の友達環境を作り、それなりにコミュニケーションしていけば良いやと考えていた者にとって、難問でしかないのだ。
クラスが違う奴に、まず、どうやって話しかけたら良いんだ?
『学校コミュニケーションと言えば、教科書を借りるという技がありますよ、マスター』
「それはある程度の仲にならなければできない」
『いっそのこと、hmw画面を見せて『俺とバトルしようぜ!!』というのは?』
「却下」
通学の時間になったのでアプリを終了させる。
いつもの挨拶前にマロンはもう一つ提案してきた。
『お手紙作戦というのはどうでしょう? 下駄箱にこっそり入れて、こっそり接触を図るのです』
…………
うちの学校の靴入れは扉付きで、うまく入れれば吹田以外に手紙の存在もバレない。もちろん、誰にも見られる事なく入れればの話だが……
その前に吹田の靴入れがどこにあるのか知らない。
「どうやって調べるべきかな……」
思わず独り言が出てしまった。マロンとの会話癖をどうにかしなければと、考えず自分の靴入れを開けた。
手紙が入っていた。




