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ろば耳  作者: 楠木あいら
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デートではない2

『バトル申請が受理されました。バトルをスタートします』


 と、いつものようにメッセージが出て、互いの相棒たちが肩から地面に飛び降りる。


「………」



 今回のバトルフィールドは駅前で相棒のサイズは俺らと同じだった。

 マロンは変わらずアイドルのステージ衣装に、ヘアピン武器。今回は50センチほど巨大化させたヘアピンそのもの。

 金色で太陽の飾りがついたもの。打撃武器の『メイス』と言ったところだろうか。それが2本、左右に一本ずつ握りしめている。

 そして恵凜先輩の武器、相棒はというと……


 銀髪に赤い目をした中性的な美少年。黒い柄の刀という……すごく見覚えがあった。

 バトル申請するため恵凜先輩の情報を目にした時から『erin/(ムグラ) 』の文字が気になっていたが、やっぱりそうだ。琴子さんの相棒、ムグラと同じ姿をしている。正確に言えば琴子さんのムグラより目が細くつり上がっていたり微妙に違うかもしれないが、どっちが本物の葎に似ているのかはわからない。


「恵凜先輩、あのう……」

「待ったなし、始めるわよ」


 俺の表情に恵凜先輩『あれ、もしかして相棒の姿を知っている?』という焦る表情が読み取れた。


『バトルスタート』


 相棒たちの重なった声の後、武器を構えるやいなや間合いをつめた葎は刀を振り上げ、マロンは棍棒をクロスして振り下ろされた攻撃を受け止める。


『不夜城の宴』


 バトル開始宣言同様に2人の技名も重なった。

 マロンは刀を押し上げて離すと、そのまま二合ほど打ち合う。


「………」


 まさかこの単語が出てくるとは。俺は少し動揺していた。

 どうしてマロンの技名になったかと言うと、琴子さんとの話題づくりになればと検索していたのだ。


「………………」


 少し動揺している俺の横で恵凜先輩は物凄く動揺していた。

 葎はBLが好きな人にしかわからないキャラクターである。まさか男の俺がそのタイトルまでも知っているとは、考えていなかったのだろう。


 動揺するゲーム主達に関係なく、マロンと葎はロータリーに止まっていたバスへ軽いジャンプで戦闘場所を変えていた。

 バスロータリーには、2人のいるバス以外に2台。タクシーが3台。同じ高さのある停留所前に設置している屋根が3つ。

 2人はそれらをぴょんぴょんと飛び移りながら次の攻撃を伺っていた。


 葎がタクシーの屋根に飛び移った時、車体の高いバスにいたマロンがメイスをクロスして衝撃波を飛ばす。


『駅周辺のグルメスポット』


 ……ヘアピン購入同行のお礼にと検索していた言葉だった。


『受験生でもできるダイエット』


 オレンジ色の衝撃波を葎は何とか刀で切り裂いた。

 真っ二つになった衝撃波は葎とタクシーの横、同じく停車していた2台のタクシーを破壊した。

 今回も派手だな。

 それにしても『ダイエット』って恵凜先輩、あれ以上痩せる気か?


「ここまで派手に壊れるとは、ストレス発散になるわね」


 同じ事をぼそりと恵凜先輩の口から漏れた。受験生ストレスがかなりきているらしい。


 マロンと葎はバスロータリー内の屋根を飛び移り軽く打ち合っていたが、ロータリーど真ん中に停車中のバスに飛び移った。

 マロンは左端、葎は右端に着地すると互いに駆け寄り武器を振り上げる。


『こうして私はNo.1になった』

『デートと遊びの境界線』


 マロンはオレンジ色、葎は紫色の光が武器から生まれぶつかり合う。

 光りと爆風が辺りを巻き込んで俺と恵凜先輩は目をそらしていた。


『うっぃーん』


 光と風が収まった時、ボロボロになったバスの屋根にはマロンだけがいた。

 勝ったようだ……勝ったのだが、俺の心はバスのようにボロボロである。

 マロンにあれだけ否定していたのに『デート』という言葉に意識してたのがバレバレじゃないか。マロンにからかわれないように家のパソコンで検索したのに。


「…………」


 これをもし琴子さんに知られたら最悪だ。

 いや大丈夫だろう。バトル観戦はフレンド登録した者同士ではないと観られないハズだから。

 因みに恵凜先輩のはどう見ても本のタイトルだな。生徒会長を打ち負かすための。


「それはそうと最初の技名。どうして、知っているの?もしかして、キミ……」

「違います。あれは……」

「飾磨、くん?」


 変な誤解を招かれそうなので説明しようとしたら、新たなる誤解の種が来てしまった。


「琴子さん」

「早めに到着したと思ったら、飾磨君の方がもっと早かったんだね」


 えへへと笑っていたが、琴子さんの視線は恵凜先輩に向かっていた。

 恐れていた事が起きてしまった。


「えっと琴子さん、違うんです」


 何を言っているんだ俺。どう考えて、浮気がバレた男の第一声じゃないか。

 そうじゃなくて。今回はお礼の同行でデートではなく。ましてや恵凜先輩とは、ただの先輩。


「飾磨君?」

「えーっと……」

『うふふふ。マスター、マロンが良いことを教えましょう』


 この状況を楽しそうに見ていたマロンが助け船を出してくれた。


「………。琴子さんと恵凜先輩。何も聞かずバトルしてみてください」


 クエスチョンマークだった2人だったが、バトル申請画面を見た瞬間、驚きの声があがった。バトルは2人の歓声がバスロータリーに響き周りから変な視線を浴びることとなった。

 恵凜先輩ともフレンド登録したのでムグラVS葎のバトルを観戦することができた。通常のバトルは5分くらいなのだが、30分もかかるほど、白熱した物凄いものだった。俺とのバトルは何だったんだ? と思ってしまうほど……

 すっかり意気投合した2人だったので。『どうしようとない急用ができた』という嘘をついて今日は引き下がることにした。

 とてもじゃないけれども、2人の間に入ることはできない。

 後日、聞いた話だと2人はファミレスで3時間語り、カラオケで2時間熱唱したという。



『hmw』をやらなければなかった友情。今日は『それ』を素直に喜んでおこう。

 とは言え、疲れた。


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