表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ろば耳  作者: 楠木あいら
16/48

ゲーセンとスマイルとバトル1

 テスト開けの週末ほど心弾む時はない。

 同じ高校で行動を共にする者達とゲーセンに誘われ、高校生らしい |(?)放課後を楽しんだ。

 しかし、使いすぎた。

 どうしよう……今月のヘアピン購入ミッション代、ちょっと足らない。

 バイトでもしようかな。しかし、バイトしたら土日はなくなる。『いつかサラマロンのヘアピンを買うための貯金』を崩そうか……

 などと考えながら、仲間たちの話を適当に相づちを打ちつつ、ゲーセンから出た。


「ん?」


 店の外を出た視線はまず暗くなった空に向かい、次に歩く方向に移動するのだが、無意識に何かを見つけた俺の目はいつもとは違う方向を向けていた。


「悪い、急用ができた。じゃあ」


 行動をともにしていた仲間たちに別れを告げて、俺は走り出した。


 見覚えのある子に、見知らぬ男が手首をつかみ引っ張ろうとしていた。


「何か用ですか?」


 気がついたら、男と琴子さんの前に割り込んでいた。

 スーツ姿の男を見上げる琴子さんの表情は不安なものだった。


「…………」


 困った顔をしていたから、悪人と思いこんで割り込んだのだが……あれ?

 ……もしかしたら、スーツを着た男、実は琴子さんが通う学校の教師だったのかもしれない。という言葉が頭に浮かんだ。

 それどころか父親とか親戚だったり? 知り合いとか?

 そもそも、琴子さんの顔をちらっと見ただけなので、不安な表情と思いこんでいただけかもしれない。


「……」


 ……あ、もしかして俺、マズいことをしたのか……と、汗が吹き出した。


「…………」


 きゅっと腕に何かが触れた。

 琴子さんの手だった。


「用事があるので失礼します」


 スーツ姿の男は何か言っていたが、琴子さんの手をつかむと、とにかく走り出した。

 いや、間違いではない。 琴子さんは助けを求めていた。

 とにかく今は、走った。

 琴子さんの手の感触と、同じリズムで聞こえる足音を耳にしながら。



 逃げる場所。とっさに思いついたのは駅ビルだった。

 店の中だから、警備員とかいて、万が一追いかけられても何とかなるのでは?という安易な考えなのだが。

 日の沈んだ外を走ったせいか、明るい照明は不安という名の闇を消してくれる。

 店内に入った所で琴子さんの手を解放し、駆け足は止めてたが、もうちょっと落ち着ける場所の方が良いと思い、エスカレーターに乗って上の階に移動した。


「どこか座る場所に……」


 催事場の階で移動式階段を降りると、広い空間とちょっとした休憩スペースがある。琴子さんに座ってもらおうと考えていたが、催事場の買い物を終えたおばちゃんたちが大量に買い込んだ紙袋と共に占領していた。恐るべし『北海道物産展』

 仕方なく広いスペースの端に移動した。ガラス張りの壁で階下の広い歩道橋が見下ろせる。

 暗くなった階下を行き来する人の動きは落ち着いていて、さっきの男が追いかけてきたとか、その辺を捜していているなんて様子はなさそうだ、多分。男の姿なんてチラリとしか見ていないから、本当に大丈夫なのかと聞かれたら『絶対』とはいえないが、何となく大丈夫な気がする。

 落ち着いた所で、ようやく琴子さんの様子を見ることができた。


「大丈夫ですか?」

「…うん」


 琴子さんは不安な表情のままだけれども、走る前よりは回復している……と思う。


「えーっと、あれ、逃げても良かったんだよね。学校の先生とか、知り合いの人とかじゃなくて」

「先生? あはは」


 琴子さんは俺の不安に気づいて笑った。


「そうだよね。学校の先生とか生活指導の先生に注意されていたとかじゃないから。大丈夫」

「良かった。琴子さんの学校の先生なんてわからないから、もし、そうだったら大変な事になってたかも」

「あー、それは大変」


 大変になった状態を想像したのか、琴子さんの表情は和らいでくれた。


「全然知らない人だよ。キャッチセールスかもしれない。

 友達と2人でゲームセンターのプリクラを撮ったりして遊んでたんだけれども。友達の彼氏とバッタリ会ってね。その友達と別れて1人で帰ろうと歩きだしたら『君、おこづかい足りてる?モデルにならない?』と、声をかけられたの」

「え、モデル?やっぱり逃げちゃまずかったかも」

「ううん『モデルにならない?と声をかけて、知らない所に連れてかれて、高い登録料を払うまで帰してくれないという噂が出回っているから、そっちだと思うよ。

 高校生だから持っていないって言ったら、変な写真を撮られるとか……」

「じゃあ、逃げて良かったんだね」

「うん、ありがとう 飾磨君。手をつかんで走ってくれた時、ほっとして嬉しかった」


 琴子さんの笑顔にどきりとした。琴子さんは『BL絡み』のマイ暴走をして笑う顔は目にしていたけれども、今日の笑顔は、いつもと違っていた。


「……」

「飾磨君?」

「えっと、あ、ほっとしたついでにバトルでもする?」


 視界に琴子さんの相棒、ムグラが目に入ったから、慌てて話を切り替えた。

 琴子さんとはフレンド登録しているので『バトル申請状態』にしなくてもムグラやマロンは見えているのだが、慌てていたせいか、気づけないでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ