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ろば耳  作者: 楠木あいら
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海でのバトル2

「飾磨、すごいな。他の奴と外バトルしているなんて」


 無事にヘアピン購入ミッションが終了した俺に、店の外でフレンド画面を見ていた隼兎が驚いていた。

 フレンド登録画面にはキャラクターの横に対戦数も載っているが勝敗の結果までは出てこない。


「そうだな……考えてみれば結構やったな。

 色々とあってバトルするしかなくてな。皆、同じ秘密を抱え込んでて助かったよ」

「ろば耳ファイターっていうやつか? 俺らもそうなんだろうけど」


 俺は耳を疑った。


「ろば耳ファイターって……」


 前回のバトルで『顔文字をこよなく愛する』生徒会長が広めると言ったが、もう広まっているのか?


「ああ、これだよ」


 隼兎は、それが書かれている画面を見せてくれた。

 画面には『hmwの噂』というタイトルがつけられている。



 幻のプレイヤー『ろば耳ファイター』が存在する!!

 彼らは秘密の隠し事があるので『バトル申請モード』にはしない。見つけるのは困難なので『幻』と書かせてもらった。

 彼らは人には決して言えない『秘密の好きなもの』を隠して日常を過ごしている。

 唯一、うち明かせる相手がスマホであり、それを毎日、スマホに打ち込んでいる。

 『hmw』の強さはスマホ愛。

 よって、うちに秘めた想いをスマホだけに打ち込むという強い思念により、キャラクターは格段に強くなってしまうのだ。

 『秘密の好きなもの』を技名にしてバトルする。

 王様の耳を暴露する床山のように。

 彼らも、どこかで打ち明けたいのだ!!

 その『秘密』をバトルとして使うのだ。だからこそ強い。

 私はそんな彼らの事を『ろば耳ファイター』と命名する。


 しかし、幻のファイターは、それだけではない。


 なんと、それを牛耳る『ろば耳キング』となるプレーヤーが存在するのだ!!


「……」


 これが書き込まれたブログタイトルが顔文字になっている。

 間違いなく生徒会長だ。しかも、それを牛耳る『ろば耳キング』って……盛り過ぎだろうが。






 買い物を無事に済ませた俺達は自然と海に向かっていた。

 せっかく来たのだから海に行ってみるかのノリである。


「夏だったら良かった」

「そうだな」


 海水浴に適さない時期は露出度ゼロのサーファーしかいない。しかも ほとんど男。

 とはいえ寄せては引いていく波をぼーっと眺めるのは良い。砂浜を歩くとぐにゃりと柔らかった。砂の感触なんて幼少期の砂場ぐらいか?

 そう言えば、家族で海水浴に行った時、ヘアピンをプレゼントした家族と会った。海パン姿の俺を見て、あいつは言葉では表せないほどの衝撃的な顔をしていたな……トラウマにならなければ良いのだが。


 海をしばらく眺めてから、どちらとも言わず、スマホを操作する。

 せっかく海に来たのだからバトルしようというノリだった。


 マロンとシャルムは肩から砂地に飛び降りながら、変形するので今回は普通サイズのようだ。しかも


「水着だ」


 マロンはフリルのついたピンク色のビキニ。

 シャルムは胸元に大きなリボンがついたワンピース型だか黒一色。両肩は露出して細いリボンが首の後ろに結んである。右の太ももにも同色のリボンが結ばれていて、清楚だけれども大人の雰囲気が出ていた。

 もちろんシャルムなのでウサギの耳も尻尾もある。


「海って良いよな」


 服装が変わる時もあるようだ。前回はそのままだったから、特定の場所にだけ変わるのか?よくわからないが、ありがとう異世界から亡命した魔法使いさん。

 心の中で感謝してから隣を見ると…表情が複雑だった。


「あぁ、わかっているよ飾磨。水着美女は心の癒しだ。現代社会のオアシスにいる女神だ。なんといっても俺はリムリム派だ。

 だけど、純粋無垢なシャルムが水着となると、別なんだ。何か心が痛むというか」


 シャルムに対して下心を出したくない、そういう考えだろう。意外と繊細のようだ。


「……」


 隼兎はばっとシャルムを見つめた。


「そう言ってくれるか、シャルム……」


 シャルムが何か語りかけてくれたらしい。

 何を言ったのかは わからないがシャルムが純粋無垢設定ならば『シャルムは海が楽しいです。素敵な水着で嬉しいです。だからご主人様も喜んでください』だろうか……下心という言葉を知らない純粋な笑顔と共に。

 ……だとしたら、そんなシャルムにリムリムネタを技名させるのは矛盾というものだが……

 それはそうとキャラクターの性格は違ってくるのか?


『バトルスタート』


 そう考えている間にバトルは開始され、水着で忘れていたがマロンは金色にコーティングし赤いハートの飾りがついた拳銃、二丁を両手に持ち技名と共に撃ち放った。


『シルバークレセント』


 マロンから発射された『それ』は水で、今回の武器は銃ではなく水鉄砲のようだ。

 しかし、ゲームなので明らかに水の量は水鉄砲を遥かに越えている。消防車から噴射される威力までとはいかないが、かなり強力だ。

 技名は、その名の通り三日月型の飾りがついたシルバーのヘアピン。

 それに対してシャルムは後方に数メートル跳んでから手にしている武器を前にかざすのだが、彼女が手にしているのはレモンだった。それも薄切りにした。


『みんなでティータイム セット』


 技名が武器の説明をしてくれた。やはり紅茶に入れるレモンで、それが魔法道具らしい。

 持ちづらいであろう薄切りレモンは光を一瞬だけ放つと、シャルムの数10センチ前から砂が盛り上がり、それは壁となった。

 砂の壁はマロンの水鉄砲を防いでいる間、シャルムは次の攻撃を仕掛ける。


『魔女っ娘リムリム』


 薄切りレモンから光が現れた後、マロンから驚くような悲鳴みたいな声がした。


 慌てて視線を向けると……

 マロンの頭上に巨大カニが落ちてくるところだった。カニは人間サイズで可愛い容姿をしている。多分、バルバニアファミリーで店や家具セットの一つとして売られているのだろう。


『ナース DE きのたん』


 慌てながらマロンは、水鉄砲で撃ちまくり、カニを水の力で海の方に飛ばした。


「………」


 技名はグラビアアイドル対戦となった。魔女の帽子をかぶったリムリムだが、それ以降はご想像に任せよう。

 一方、きのたん のナース姿は、スカートの丈は短すぎるのだがそれ以外は普通のナース服。しかし、肌を露出していないとはいえ、ボデイラインくっきりとわかる布地で何よりも きのたんの上目づかいの顔がヤバイ。

 ……少し語りすぎてしまった。



『フェーブ南が丘店』


 きのたん について語ってしまった主に関係なく、マロンは二丁の水鉄砲を同時に放つ。

 今度はアクションゲームで出てくる顔のついた水の砲弾、こちらも人間サイズだ。


『海の おでかけセット』


 シャルムは、薄切りレモンを頭上高くあげた。


 ざっばーんと高め波が砲弾とマロンに落ちた。


『冷たーい』


 砲弾は今の一撃で姿を消した。びしょ濡れになって、攻撃の手が緩んだ隙にマロンにシャルムはたたみかける。


『フェレットファミリーの女の子』


 ダッシュしてマロンに接近したシャルムは、薄切りレモンから出現させた これまた人間サイズ並みの巨大な二枚貝を開いたかと思ったら、それでマロンを挟んだ。


『わきゃー』


 マロンが二枚貝に閉じ込めたところでゲームは終了した。もちろん勝者はシャルムと隼兎。

 それはそうとフェレットの女の子って……長い胴をどうやって人形化できたのか? 正直、調べたくなった。




「シャルムは自然の力を利用してたな。やっぱりバルバニアファミリーの影響があるのか?」

「あったら良いよな。飾磨の方はブレないな」

「まあ、それだけ『好きなもの』だから」


 負けたのだが、何かスッキリした。普段、誰にも言えない言葉をマロンが技名にして吐き出してくれたからだろう。

 相手も同じ隠し事を持ち、それを安心して暴露できるのだから。


「さて、帰るか」

「あぁ」


 海沿いのアウトレットモールから家までかなりあるが、俺らは2人で帰路に就いた。

 電車に揺られながら、俺らは技名の解説やら色々と話した。

 会話というものは時間をあっという間に進めるものだと始めて知った。

 俺らは互いの秘密を人質とした仲だが。バトルをするたびに親密になっていると言っても良いと思う。

 今まで『友情』やら『友達』という言葉に冷めた視線を送っていた者にとって、秘密の好きなものを知っているこいつなら、その言葉が有効に見える。

 まあ、隼兎はどう思っているのか。わからないが。


「じゃあな、相棒」


 駅の改札口を出た時、隼兎から出た言葉はそれで、俺も同じ言葉で返した。




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