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ろば耳  作者: 楠木あいら
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海でのバトル1

「世の中、そんなに甘くはないか」


 タブを閉じてネットを終了させると、さっそくマロンが頭の中に語りかけてきた。


『ヘアピン男子ですか? マスターもチャレンジしたらどうです?』

『却下』


 ヘアピン男子。検索ワードに、この単語が出てきた時、俺は『とうとう同じ趣味の仲間がいるのかもしれない!!』と、心躍らせて、調べてみたのだが……


 ヘアピンをするおしゃれな男子の事だった。


「渋谷や原宿を自分の庭のように歩けるレベルじゃなきゃ『キモイ』の一言で片づけられてしまう……」


 ゲームの相棒、マロンと会話するときはスマホを耳に当てて通話するフリをする。その行動も慣れてきた。


『マスター、ヘアピン購入ミッションが終了したら、海に行きましょうよ。マロン、海と言うものを見てみたいです』


 スマホゲームのキャラクターだが、外の世界が見えて、周りに興味を持つことができるようだ。


「無事に買えたらな」


 そんな今日も1個のヘアピンを手に入れるため、長いこと電車に揺られやってきた。

 今回は海沿いにあるアウトレットモール。海沿いだけあって遊覧船や地元の海産物屋があるが、有名なブランドも並んでいた。

 残念ながら俺が愛する『サラ・マロン』はないが、掘り出し物のヘアピンがあるかもしれない。

 休日のアウトレットモールなので、人も多い。

 

「とはいえ、まさか、こんな遠い所に知り合いなんて……」


 人間、口にしてはいけない。


 通り過ぎようとした店から誰かが出てきた。

 切れ長の目をした長身の男。手には不似合いなピンク色の袋を持ち|(後で黒のビニール袋に入れてから、バックにしまう)店の外に知り合いはいないか伺うところだった。


「………」


 恐めな顔をした、バルバニアファミリーを愛する男、瀬斗谷(せとや)隼兎(はやと)。店は、やはりバルバニアファミリーの店で、かわいい動物の人形が展示している。

 奴とは互いの『秘密の好きなもの』をしゃべったら相手も暴露するという。秘密を人質に持ち合っている仲。

 その数秒後に奴も俺の存在に気づくはずだ。

 どうする? 気づかないフリをして通り過ぎれば、まだ間に合う。


「おう、飾磨(しかま)じゃないか。お前も買い物か?」


 悩む俺に対し、隼兎はさわやかな笑顔で話しかけた。


「俺もだよ。年の離れた妹の誕生日プレゼントを買いにきたんだよ」


 そして、こっちの返事よりも早く、重要な話を進めた。

 『俺がここにいるのは、妹のプレゼントのためで、自分のためではない』と、周りにアピールするために。


「腹、減ってないか?飯にしようぜ」


 そして男2人の方が心強いと考えたのか、強引に俺の腕を引っ張り、目的地の店とは真逆の方向を歩き出した。

 奢ると一言も含まずに、だ。



 肉自慢のハンバーガーショップに連れられて。まあ、分厚くて、肉汁たっぷりで美味いが、値段も良かった。


「飾磨、お前も買い物か?」


 肉汁たっぷりのハンバーガーを胃に収めて空腹を満たし。バルバニアファミリーを買い。ついでに周りの目は大丈夫そうだという、自分の身の回りが完全に安全だと確信してから、瀬斗谷 隼兎は聞いてきた。


「まあな」

「付き合ってやるよ。2人の方が心強いだろ」

「いや、1人の方がさっさと進められる」


 隼兎は不満の視線を送ってから抗議した。


「俺の買った所を見た以上、お前のも見ないとフェアじゃねぇだろうが」

「だったら店の外で待ってて。その方がより公平だろ」

「それはそうだな。まあ、そうだな、自分の神域に誰も入ってほしくないな」

「神域って……」


 まあ、こいつも自分だけの買い物に他人の声、存在がない方が良いらしい。ちょっと話がズレてしまうが、電気屋とかでちょっと止まっただけで、話しかけてくる店員も何とかしてほしいと思うのは俺だけなのだろうか……頼むからレジまで見守るだけにしてほしい。


「飾磨、フレンド登録しとこうぜ。この前のアップデートでできるようになった。お前となら、大丈夫だ」


 この前のアップデートはかなりの大型だったようだ。


 さっそく、スマホを取り出し設定の項目から『フレンド登録』のタップする。

 と、スマホの画面上から二頭身のマロンが出現した。マロンは浮遊し、同じく浮遊してきた隼兎の相棒シャルムのいる前で止まった。

 2人ともにこっと笑みを向けて握手をした。

 そして互いのスマホの中に戻って行った。


「………」


 他のスマホゲートなら『決定』した時点で『フレンド登録しました』という無感情な文字が出てくるだけだが、こういう効果はフレンド登録感がある。ネットの先にある知らない奴ではなく、目の前にいる奴なら尚更のこと。



「あれ?服、変わってないか?」


 登録が終わり、隼兎の情報画面を見て気がついた。

 あんまり、キャラクターを細かく覚えていないが、二番目にバトルし、しかも主がこいつだったので、うさ耳のシャルムはなんとなく記憶していた。確か、この前は、ピンクで花柄だったはず。今は淡い水色に青のドット柄になっている。


「そうなんだよ。この前は『春の始まりワンピース』で。今回は新商品の『海のおめかしセット』なんだ。検索したら変わったんだ。もちろん、買った」

「……?買ったって?」

「もちろん、妹のシャンテ用だ」


 …………


「妹?」

「家には、箱の外に出られないシャンテがいる。彼女のために服とか買っているんだ」

「シャンテ?

 そう言えば、前のバトルで『グレーのうさぎの女の子だけが特別』だって言ってたな。その子がシャンテなのか?」

「おう、そうだ、心の友よ」


 勝手に隼兎からの称号が仲間からアップしている。 心の友か。某アニメの影響もあるから、素直に喜んでもよいものか……

 えーっと……少し整理しよう。ゲームの相棒はシャルム。家に厳重に保管している人形がシャンテ。2人を勝手に姉妹設定にしているってところか。

 そんなグレーうざきの女の子、シャルムの妹|(設定)シャンテのために、バレたら大変じゃすまされない程、リスクの高い買い物をしているのようだ……


「大変だな…」

「お前もそうだろ」


 ……そうだな。



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