誰かの残した手記
ああ、失敗した 失敗したのだ 実験に
あんな失敗の仕方があるものか
殺してやる、あいつは処分してやる
私はどうすればいい
一度機関に戻り、体制を立て直すべきか
それとも最悪のケースを想定して作った作戦を遂行すべきなのか
ああ、もはや部下も上司も私にはいない ころされた、あの少年ごときに!!!!!
いや、今は怒りに我を忘れている場合ではないのだ
冷静にこの事態を切り抜けねばならない
生き残っているのは私の周りでは何人いたのだろうか
――わからない、なにせ一瞬の出来事だった
黒い何かが私たちの周りを覆って、 その間に何人もの研究員が殺された
私はちょうど遠隔操作の機材の壁に阻まれていたために一撃はまともに受けなかったが
しかし全身血だらけだ
このメモもたぶんすぐに血で読めなくなるだろう
だれかこのメモを読んでくれたらうれしい、私はそれを望む
そしてこのメモを受け取ったのならば############をころせ
あいつが首謀者だ、謀りおった、我々の計画を逆転させるために
あいつが生きていては 我々の理想郷は 完成しない
おねがいだ、 たのむ
影だ
か げがせまってきた!
いけない 走らねば
じかんがない ここにわたしのすべてをしるしておく
じっけんは失敗した
いや正しくいうなら 失敗したの
ではない、実験は成功し
た
ひけんたいが 反逆したのだ
かみを 人工的につくりあげた我々だったが そのじんこうのかmに はんぎゃくされた
実験にひつようなかんがえは なにも間違っていなかった
間違っていたのは われわれの かれに対する たい ど だった
しかし我々には 言葉が足
りなかった あの少年を縛るためのことばが
やさしく やさしいことばで 彼を信頼させる
ひ
つようが
あ ったのに
かげがきている
どうして こうなった 阿あああの、 あのkというyつのせい なのk
か げ がせまってきている ここまで
ああ、おとあgすうる! かみよ、いまは阿なたを しんじ まず
ころsあないで けさnあいで
(手記は誤字脱字、損傷、血の跡による汚れが激しく、解読しようにも読めない字がある)
(最後の方の余白には、酸化で赤黒くなってしまったが、血糊のあとがべったりとくっついている)
(少年は血で固くばりばりになってしまった手記を優しく閉じた)
(――皮の表紙を触ると、手入れがされていたのだろうか、気持ちがいい)
(少年はそっと空を見上げた。偽りの空)
(あの遠い遥かな時空に存在する星々は遠すぎるために、今見えている星の光は数百、数十年前の光だという)
(今届いている星の光はもしかしたらこの惨劇をしっているのかもしれない)
(少年は、ふう、と息をひとつして、部屋に戻った)
「セレスティアルの劣等星」