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異世界チート勇者が教える異世界チート勇者の作り方・前半

本小説はhttp://ncode.syosetu.com/n3948cp/を1・2話にすえた連載作品です

「まず水35リットル、炭素20キログラム、アンモニア4リットル、石灰1.5キログラム、リン800グラム、塩分250グラム、硝石100グラム、硫黄80グラム、フッ素7.5グラム、鉄5グラム、ケイ素3グラム、その他少量の15の元素を用意します」


「それ絶対やっちゃダメなやつーー‼」



 テポルシ季、茶月・わかの日。

 窓は黒のカーテンで閉め切られ、集会所の中は青い蝋燭の明かりだけがポツポツと灯っている。狭い室内ですし詰めにされた聴衆は、仮面の下で固唾を飲みながら壇上の人物を熱心に視ていた。


「はいはいみなさん、これはジョークですからねー。本気にしないでくださいねー。腕とか持ってかれたくないでしょー?」


 壇上には二つの人影。一つは、貼りつけたような笑顔で発言をフォローする猫耳の司会(兼・進行役)さん。


「先生、一つ質問がございます!」

 そこで聴衆の一人がビシッと手を挙げた。


「先生が真に『かの者』(と言って壇上のある一点を指差す)だというなら、そんな材料をいちいち用意する必要があるのでしょうか!」


「こらねーキミ、先生を全知全能と勘違いしてるんじゃ――」

「失礼、司会さん。質問に答えるのはボクの役目ですから」

 と言って、壇上にいたもう一つの影――そしてこの集会の主役である人物が司会(兼・萌え要員)からマイクを取り上げた。


「その質問に答える前に一つ。あなた今、ボクを疑うような発言をしませんでしたか? ボクの勘違いであればいいんですが……いえ、糾弾するつもりはありません。まだ講義は始まったばかりですからね。初めにこれだけははっきりさせておくべきでした」


 彼――背中に大剣を背負った長身の若者。凛々しい鼻立ちに切れ長の瞳。密室なのに何故かなびくサラサラパツキンロング――は、すぐ傍の壁に吊るされている垂幕を手の甲でコツンと叩いた。


「いかにもボクは、異世界チート勇者その人です」



【異世界チート勇者が教える異世界チート勇者の作り方】



「早速タイトル回収したところで、えー……この異世界チート勇者先生はですね、一年前、黄月おうづきからの日に、ウェイミンヘグ非分割中立区西南部にある草原に、謎の魔術的効果のため異世界からワープしてきたとのことです。まあここらへんは、皆さん予習してきてるでしょうから簡単にね」


 司会(兼・解説役)が手元の資料を読み上げていく。聴衆の一部は羽ペンで必死にメモをとっていた。別に個人の勝手だが……暗いぞ、目悪くするなよ。


「その後、ブカリア季の終わりまでをジウィック王国の村で暮らし、モンスター討伐において自身の秘められた能力を開花。赤月せきづきに入ってから王国の騎士団に入団し、異例のスピードで近衛兵まで昇進。えー、姫君と仲を育みながら王国の不正を暴き、前国王ルイス失脚の影の立ち役者となる。騎士団長、かっこもちろん女騎士かっこ閉じ、の推薦もあって国王に。王政を廃止し、王という名も捨てて代わりに……」


「民の導き手『ディルクリード』ッ」


「頼んでもいないのに説明ありがとうございます」

 聴衆の中から拍手があがる。それが勇者に対してなのか、それとも司会(兼・ツッコミ)に対してかは分からなかったが、おそらく五分五分であろう。


「そこだけは自分で言いたかったんですね。続けますよ……えー、スドルビィ季の終りまででしたね。昨今では隣国との同盟締結や経済緩和、産業の分業化に古代文明遺産の発掘。それらの様々な功績を持つ異世界チート勇者先生ですが、忙しい中、今日はこうして我々のために来ていただき本当にありがとうございます。今はどのような使命についているのでありますか?」


 司会(兼・インタビュアー)は解説だけでは聴衆が飽きると思ったのか、露骨すぎる強引さで勇者にバトンを渡した。勇者は、フッ・・・、とわざわざマイクに向けて微笑し

「なにを冗長に。今日ボクがしにきた話はそんなことじゃないでしょう、司会さん? いや、なにもせっかちになったわけじゃなくてですね、聴いてるみんなが退屈になりはしないかと不安でして……まあ正直に言わせてもらうと、褒められっぱなしというのは存外疲れるものなんです。そのへんでご勘弁願えませんか?」

 と、ニヒルに口角を上げた。


 お前の喋り方が冗長だよ。


「(なら『ディルクリード(キリッ)』なんて言ってんじゃねーよ)

そうですねー、今日のテーマは【異世界チート勇者が教える異世界チート勇者の作り方】ですから」


「その異世界という単語ですけど、ちょっと引っかかりませんか? 果たしてボクの立場から『異世界で活躍する勇者』なのか、みなさんの立場から『異世界からやってきた勇者』なのか。……フフッ、自分で自分のことを勇者だなんて言うと、恥ずかしいどころじゃありませんね」

 破顔とともに顔を朱に染める勇者。


 どっちでもいいわ! ……司会(兼・二重人格)は沸々と感じていた。


「ええと、つまり、言葉の解釈次第によって『異世界チート勇者』といえども複数の種類があると言いたかったんですね。なるほど深いなー」


「え? いや別に、ただ気になっただけなんですが……」

 司会(兼・人畜無害)は怒りに拳を固めた。


「司会さんって、ちょっと早とちりなとこがありますね。フフ、なんか可愛いな」


 勇者の顔は講習の開始時に向けた鋭い目つきとは打って変わって、無邪気な子供っぽい笑みを湛えていた。それは、かのジウィック騎士団長『完璧主義者ミカゲ』の冷たい心を溶かし、冷徹な軍事国家を瓦解する先駆けとなった微笑みであったが、当然司会(兼・非処女)はうろたえない。むしろ苛立ちを増すだけだった。

「それは褒め言葉と受け取らせていただきますねっ」

 しかし、心とは裏腹にこんな晴れやかな顔をするものだから、いやはや女とはまことに怖い生き物である。


「それじゃあ前置きも長くなったところで、先生」

 司会(兼・不慣れな進行役)は勇者に向かって頷いた。勇者もウインクをして頷き返した。やっとこちらの言いたいことを分かってくれたか……と司会が安堵したとき

「それでは不肖このボクが。……まず『ディルクリード』の語源はボクの世界のドイツという国の言葉からとっていて――」


「さっさと始めんかーーーー‼」

 司会(兼・バイト)は堪らず絶叫したのだった。




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