高万 邸
「なんだよ、メイドの衣装じゃないじゃん」
桃世がぶつぶつ言っていた。
「当然でしょ、学校の授業の一環なんだし、やっぱ・・・」
「君たち、職業体験できたって言うけど、手が動いてなくて、口が動いてるんじゃないか」
ちょっとムッとした口調のおじいさんであるここ高万邸の主、高万力が学校のジャージ姿の私と桃世に庭ぼうきを持ってきた。
私と桃世が住む「新金谷」駅から電車に乗って一駅の「古金餅」駅で降り、駅前の古いさびれた商店街を山手のほうに上がっていく。商店街を過ぎ、市道沿いの住宅地に入っていく。これでもかという結構急な坂で、20分くらい歩き続けるとモミジとイチョウが交互に植えられ、赤と黄色、ところどころ黄緑の葉がまぶしいばかりの街路樹が500メートルくらい続く。そうこうしているうちに、赤く色づき、落葉してきている桜並木がまた500メートルくらい。
桜並木を抜けたところに、高万家の表札があった。
桃世が言うところ、たいそうなお金持ちだというので、執事が応対し、あとで社長さんが出てくるのかと思っていたら、ここ町種市に古くからある高万デパートの社長、高万力その人だった。
「今日は、デパートの体験でなくて良かったの?」
やせて神経質そうな銀縁メガネの高万社長とは正反対で、見るからにふくよかでやさしそうな雰囲気の社長夫人、福美さんが主に尋ねた。
「いいんだよ、デパートは従業員の足手まといになるから、うちの庭の掃除と動物の世話をしてもらったほうが」
高万デパートは不景気と世の流れの節約志向で、経営が悪化しているという話をうちのお母さんが隣のおばさんと話しているのを聞いたことがあった。
庭の掃除は高万家の街路樹、桜やモミジ、イチョウの大量な落ち葉だった。
「何なんだ!!この落ち葉の多さ!!」
桃世が悪態をついた。
「あんたが、話、通したんでしょ。なんとなく察しなかったわけ?」
1時間この落ち葉と格闘している私もいい加減うんざりしてきた。