8話
あぁ……リスちゃんに逃げられてしまった……。
しょぼーんとしながら名残惜しくリスちゃんが出て行ったを睨んでいると、あまり間をおかず再びノックの音がしたかと思うと、返事を待たずにびくびくしながらリスちゃんが入って来た。
お、怯えられている!!目にうっすら涙を浮かべて。心なしか頬が染まっている……!!
その様がほんとに小動物的可愛さが。
もうぎゅーってしたい。頭ナデナデしたい……ッ!!!
悶々と自分との戦いを行っていると、びくびくしたリスちゃんが近づいてきてなにかを差し出してきた。
「服?」
コクンと頷くリスちゃん。
身振りからすると、どうやら私に着替えろということらしい。
うん、さすがに昨日と同じ格好のままでは彼らに会うのは失礼だとはおもう……けれど。
「ごめん、手伝ってもらえる?」
そう、今着用している服は自分で着た覚えもないし脱ぎ方がわからないのだ。
一瞬コテンと首を傾げる素振りをしたが、すぐにコクコクと頷くリスちゃん。なんとなくだけど、元々手伝うつもりだったようだ。もしかしたら、今の服を着せてくれたのもこの子かもしれない。
つまり、裸を見られてしまった!!!
全く問題はないけれどね!その前にジェイドに見られてるし!!アハハ……。
それに別に今の体型をみられたところで……ヘッ。
どよーんと落ち込みそうになる気分をなんとか立て直そうとちらりとリスちゃんを見ると、既に私の服に手を伸ばし、背中でなにやらもぞもぞと紐を解いている。
やっぱり背中で結ぶタイプのようだ。これ一人じゃ着れないよ……。ていうか寝間着でこれだと無理ー。
ストンと、自分が着ていた衣服が落ちた。
どうやら背中の紐を解くと一気に脱げるらしい。脱げた寝間着を手にとってみると、自分が知らない作りになっている。というか背中部分どころじゃなく何故か分解されてます!
これ、次どうやって着たらいいんですかね……。
謎衣服だ。
そして先ほどリスちゃんが持ってきてくれた服を着せてくれる。
この服は内側がやわらかい布が何層にもなっているみたいに、着ているととてもやわらかくて気持ちいい。
動きやすいし軽くて着心地抜群。ぱっと見は水色のワンピースみたいな感じ。
うん、これなら一人でも着れそうだ。
服を着せ終えるとリスちゃんがじっとこっちを見、ドアを開け放ってペコリと一礼した。そしてなにやら手振りで「どうぞこちらへ」とやっているみたい。
促されて部屋の外に出ると、またも身振りでリスちゃんがついてきてといっているような気がする。
部屋の外に出てもいいらしい。
どこにいくんだろ?と思いつつ黙ったままリスちゃんについていくのだけど。
通路にはこれまたお高そうなアレやコレがあったので、できるだけ近づかないようにしながらもついつい物珍しさにキョロキョロとしてしまっていた。
それにしても。
このお屋敷、相当広いみたいだけどさっきから誰ともすれ違わないんだよね。
普通はこういう広い屋敷には定番というか。
メイドさんとか!執事さんとか!!いるんじゃないですかね?
リスちゃんはメイドさんっぽい服を着ているけど、彼女以外の人がいないのですよ。寂しい……。
しばらく歩いていると、どうやら目的地についたらしくリスちゃんが大きな扉の前で足を止めた。
私をちらっとみて、軽くドアをノック。すると、向こう側からドアが開かれた。
応接間のような広い部屋の中に居たのは、予想通り金髪イケメンのジェイドと黒髪美人さんなシドだった。
―――――――――――
「昨夜はよく眠れましたか?」
「はい。おかげさまで」
柔らかすぎて身が沈みそうなソファに腰掛けながら、そう答えた。
ふかふかすぎてお尻がなんだかとっても落ち着きませんけども。
部屋に入るなりニコニコとしながらシドが出迎えてくれた。
入室の際ドアの影になっていたけど、背の高い壮年のおじさんが柔らかい表情で私を見ていたのに気付いた。きっちりと整えられた白髪と、その顔には丸い片方眼鏡。更には燕尾服のような黒い服を着てたのを見て、私は思わず「セバスチャン!」と叫んでしまった。
それに対して、びっくりしたかのようにジェイドが「なんだ、セバスを知っているのか?」とか言ってきたので「いいえ、なんとなくそんな名前かなって」と言いながらも執事がセバスチャンなのは世界共通なのだと納得していた所、シドが席を薦めてきたのでそのソファに座っての感想である。
「それはよかった」
ふわりと微笑むシドさん。
私の向かいにはジェイドさんとシドさんが座っているけれど、部屋には案内してきてくれたリスちゃんと、セバスチャンさんがいる。セバスチャンさんは扉の前に控えていて、リスちゃんはいつの間にやら紅茶を用意してくれていて、私達の前に出してくれた。
そして私はその紅茶に控えめに砂糖を3個とミルクをたっぷり入れた。
「これも食べるか?」
「はい」
いつの間にかリスちゃんに用意されていたのであろう美味しそうなクッキーたちをジェイドさんが差し出してくる。
さっきパンケーキを食べたばかりでさほどお腹は空いていないのだけれど、クッキーを見ていると食べたくなってきたのでコクンと頷くと、クッキーが入った結構大きめのバスケット(多分3人分だとおもう)をまるごとこちらにずいっと押してくる。
……さすがに、多いよ?
とは思ったものの、何も言わずにひとつとってバクリ。
「……おいしい!!」
朝に食べたパンケーキは激甘だったがこのクッキーはほんのり甘く、くるみと苺のような少し甘酸っぱいものが入っていて、とても美味しい。
やっぱり、甘いモノがそんなに好きじゃないだなんて気のせいだったのだろう。
私はものすごく甘いモノを求めている。
「気に入っていただけましたか?」
「はい!」
「よかった。そのクッキーは僕が作ったんです」
「そうなんですか?」
嬉しそうに笑うシドさんを見て、驚いてしまう。
そして私は何故かピンク色のチェック柄のエプロンをつけてお菓子を作るシドさんを想像する。
に、似合う……!
うっとりとしながら見詰める私をなんと思ったのか
「料理も趣味なんです」
照れてれとしながらもシドさんが、自身も先に取り分けていたクッキーを食べていた。
幸せな気分でクッキーを味わい、紅茶を何杯かおかわりしている様子を微笑ましく見られてたのだが、目の前の誘惑に逆らえずにパクついていたので気づかない。
満足いくまでクッキーを食べて、紅茶を飲んでほっと一息ついた所で
「もういいのか?」
「あいー」
幸せでほくほくした気分のまま返事をしたら、舌っ足らずな話し方になってしまった。
これ以上は食べれませ……いや、食べれる気はするけどこれ以上は乙女的にタブーだ。
既に手遅れレベルで食べている気はしないでもないけども。
「そうか。ならこれからの今後についてと、君との“契約“について話しあおう。そのために、此処に現れたのだろう?まさかあのような場所にいきなり現れるとは思わなかったがな……」
「“契約“……」
「そう、“契約“だ。君は色々と規格外なようではあるが……な」
目配せするように隣のシドをちらっとみて、お互い頷きあっているが。
はてな。私はどうしてここにいるのかもわからないのに、契約とはいかに。
それに規格外とはどういう事でしょ?
ハッとした
……体型か。体型なのか!!凹凸のない寸胴に文句をつけようというのかー!!
そんなわけないか。当然こちらがわかっているというような態度だけれど、私にはさっぱりだ。
「えっと……それは」
「俺が知っている一般的な妖精とは随分違うようだ。人並み以上に知能もあり、古語を話し、更には祝福によってネヴィ語を理解する妖精というのは初めて聞く。もしや以前に仕えていた記憶を失っているのかもしれないが、一度自分に与えられた名前までも失うということは考え難い……。不確定な存在である以上、君には“名前“と“契約“が必要だろうと思う」
「妖精……?」
今の私はさぞマヌケな顔をしているに違いない。ぽかーんと開けた口と、驚きに目をまんまるにしているだろう。
頭が考えることを放棄してしまう。
精霊?契約?名前……。
……この人は、一体なにを言っているのだろう……?
「君は、信じられない事だが……精霊の泉で生まれた特殊な妖精なのだろう」
……どうやら私は、人間じゃないらしいです。
読んでいただき感謝です!ようやく話に進展が。