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5話

「うひゃ」


 思わず変な声が出たのはご愛嬌。

 だって乙女なら想像したことはあるであろう手の甲にキス!キスされたんですのよ!しかもこんな見目麗しい王子様チックな男性に。


 いやぁ。異世界コミュニケーション。いいね!

 いきなりそうした理由はわからないけど。


 伏せていた顔を上げ、戴くように取った手はそのままに、タレ目君はおもむろに口を開いた。


「いかがだろうか?」

「すごくイイです」

「は?」

「え?」


 タレ目君が困惑の面持ちでこちらを見上げてくるのだけど……。

 すごく様になっていてとてもいいものをみたと思ってますけど?

 自分で聞いておいて訝しげな反応とはどういう事でしょ?


 そんな噛み合ってない私達のやり取りにクスリと笑い声を漏らしたのは黒髪美人さんだ。

 私達が同時にそっちを向いたので、その様子がまた面白かったのか、くすくすと上品に笑っていた。


「失礼……お姫様、私の言葉が理解できますか?」


 未だ笑いを含んだ声でにこやかに話しかけて来る。

 

 え?その直前の行動にびっくりしたせいで気が付かなかった。

 そういえば、黒髪美人さんだけじゃなく目の前のタレ目君にも言葉が通じてる?


「えっと……あの、はい……?今話している言葉は、さっきとは違うんでしょうか?」


 私からしてみたらさっきも今も日本語を話しているつもりなのだけど。それに、黒髪美人さんが話しているのも日本語に聞こえる……と思う。


「はい。現在我々が話していますのはネヴィ語と呼ばれておりまして、このアルディオスの他、ほぼ全ての国での共通語です。そして先ほどの言語は古語と分類される言語でして、現代において使用する国はありません」

「ほぇ~」


 日本語ってここでは古語だったのか。ちょっとびっくり。

 でもなんでいきなりその古語からネヴィ語に切り替わってしまったのだろう?


「あの……でも私にとっては、さっきも今も同じ言葉を話していると思うんですけど」

「いえ。先ほどと違い、ネヴィ語を話されておりますよ」

「えぇっ。ほんとですか?」

『はい。こちらが古語になります』


 おぉ。そう言われてみれば、確かに違うような気がする。

 ふむむ……意識的に聞いてみれば、古語は日本語、ネヴィ語というのは私からしたら日本語に聞こえていてもまったく別物だと言うことがわかった。

 唇の動きとかを見ているとわかる。音声は日本語に翻訳されているけど、口の動きとは合っていない。

 例えるなら外国映画に日本語で声を当てているような感じかな?


『これが……古語で合ってますか?』

『はい』

『なんでいきなり言葉が分かるようになったんでしょうか?』

『それはですね―――』

「すまないが、俺にも分かるように会話をしてもらえないだろうか?」


 おっと。

 除外感を感じたのか目の前のタレ目君が口を挟んできた。


「ああ、これは失礼しました。ではこれからはネヴィ語で会話致しましょうか――。それで、言葉についてでしたね。それは先ほど彼が行った行為。祝福の恩恵ですね」

「祝福?」

「その者が潜在的にもつ能力へ働きかけ、効果を高めるといったものです。怪我をしていた場合は自己治癒を高めたり、己の筋力などの能力をほんの少し上昇させる、という位のモノなのですが。祝福を使えるものはそう多くはないのですけれど」


 ほほぅ。ここではそんな便利な事が出来るのね。

 だけど、その説明だと言葉が分かることになるとは思えないのですけども……。

 疑問を感じ取ったのか、黒髪美人さんはにこやかに答えてくれた。


「本来は言語を覚えるという真似は出来ません。ですが、もしかしたら貴方の魂には言語が記憶されているかもしれない。なのでその記憶に働きかければ言語を理解できるのではないか?と言うことで、ものは試しとおこなってみた次第です」


 なるほどなー。


 て、あれー?その理屈だと、私がそもそもネヴィ語を知っていたということになる。

 けれど私は覚えがないんだけどな。日本にいたときに覚えていたのだろうか?

 そもそもちゃんとした記憶がないだけになんとも言えない。


(日本語だって古語としてこちらで使用されている以上、向こうにも同じ言語があって、それを忘れているだけかもしれないし)


 そこまで悩むこともないかと思ってあっさりと納得してしまう。


「それで……」


 ちらと顔を正面へと向けると、目の前に未だ私の手を開放せずに跪いたままのタレ目君がいる。

 わざわざ直視せずに黒髪美人さんと話して意識から外そうとしていたのだけど、そろそろ離してくれないかなぁ……。

 目の前にイケメンの顔があって、それを堂々と身近で眺められることが悪いことでは無いとは思うのだけど、相手もこちらを凝視してくるのでなんともいたたまれない気持ちになっているのだ。


 こちらの視線に気づくと、タレ目君はにこりともせずに、


「ジェイド」

「え?」

「俺の名前。ジェイドだ」


 あぁ、うん。まぁいつまでも私の内心だけとはいえ、タレ目君と呼び続けるわけにはいかないし名前は聞いておきたかったんだけども。唐突ですな。


「はぁ、ジェイドさん。宜しくお願いします……?」

「さん付けする必要はない。だが、宜しく」


 先ほどまではむっつりとしていたのが嘘のように嬉しそうに顔を綻ばせるジェイド。

 そして握ったままの再び手の甲に口づけを落とす。


「……ッ」


 いきなりは驚くからヤメテー。


 ……。

 

 えと、さっきより長く無いですかね?

 

「あの……今度のコレはどんな意味があるんですか?」

「いや。なんとなく?」


 意味ないんかーい。

 と、内心で突っ込みを入れておく。にしてもなんとなく見た目に反して硬いイメージを受けていたのだけど、結構お茶目さんなのかもしれない。


 ちなみに現在の彼の格好はカッチリとした裾の長くて白い衣服に身を包んでいる。

 この下にあの腹筋が隠されているんね……うふふ。


 なんて想像に内心ニヤニヤしてしまう私。どうしてもソッチに思考がいってしまってすみません……。


 そんな風に無言で見つめ合ってた私達を微笑ましそうに見守っていた黒髪美人さんが笑いを滲ませた声をかけてきた。


「お取り込み中のようですが……。よければ、貴方の名前を聞かせて頂けませんか?それと、申し遅れましたが私はシードヴィルと申します。どうぞシドとお呼びください」

「名前……」


 名前と言われても、覚えていないのだけれど……どうしよう?

 でもさっき「記憶が~」とか何とか言ってたから、もしかしたらそのまま伝えても大丈夫かな?

 誤魔化す理由もないしね。


「ごめんなさい。名前、わからないんです」


 しかし告げられた二人は「やはり……」とか「そうか」とか呟いているけど別段驚いている様子はないみたいだ。

 ふむむ。ある程度は予測済みなのかな?

 ならある程度はこちらの状況を話してみても大丈夫だろうか。


「私がここにいた最初の記憶はお風呂で……目の前には筋に……ジェイドがいた所からなんです。ソレ以外はなにも解らなくて。どうしてあそこにいたのかもさっぱりなんです」


 危ない危ない。ついつい思ったことを言いかけてしまった。

 だってジェイドって、細身なのに結構がっしりとした体つきをしていて、無駄な筋肉も脂肪もない理想的な体なんだもの!!また拝める機会があったらいいなぁ。

 

 ……また話が脱線しそうになった。話を戻そう。幸い二人共気付かなかったようで、こちらの話をじっと聞いてくれていた。


 私のここにいた以前の、異世界云々は今は言わないでおこう。

 というのも、記憶自体確かなものではないし、あやふやで記憶にも穴だらけである。ならば最初から何もわからない事にしたほうがいいのかもしれない。

 それをどう解釈したのか、目の前ジェイドが気遣うような視線を向けてくる。

 

 えっと、見られるのはもう諦めたけど。

 

 いい加減手を!手を離してくれないかな!?

 そう視線で訴えかけたのに、ジェイドは安心させようというのか、手をきゅっと握りしめてきた。おぉぅ……。

 拘束されているわけではないので、振り払えるのではあるけど……そこまでするのは躊躇われる。いい加減どうしようかと悩んでいると


「大丈夫だ。安心しろ」


 そういってジェイドは未だ握ってた手を今度は両方の手で包み込んだ。少しゴワついた大きな手のひらは暖かくて、彼の視線はこちらを気遣う様子が見て取れる。

 体温とともにジェイドの優しさ伝わってくるようだった。


 自分では今の状況をそれなりにちゃんと受け止めていたつもりだったのだけど。

 彼に、そう言われるとどこかほっと息をついて肩の力が抜けたのは確かで。


 そうと意識せずに緊張していたようだ。


 いきなり自分の常識やらが通用せず、記憶もなく放り出されている今の状況なのだ。混乱して取り乱しても当たり前なのだけども、どこかであまり考えないようにしていた。

 けれど自分の内面を素直に出すのもなんだか恥ずかしく。


(うぅん。イケメンは内面までイケメンなのね!)


 私は照れくささを隠すように茶化すのだった。

やっと名前を出してもらえた人たち。主人公はいつ名前が出てくるのでしょう……。

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