1話 家族の温かさ
「高穂ー!学校遅れるよ!」
いつもの朝。
高穂というのは、私の弟分。
風間高穂。1つ下の男の子で、今年で中一だ。
「亜美姉、待ってよ…」
高穂が重そうなリュックを背負うと…
「亜美、お前なぁ…」
そう言って、高穂の分も靴をとってるのは、高見沢雄飛。
雄飛は、私と同い年で今年で中二だ。
「なによ。雄飛」
「お前、また、トマト残したろ!」
ギクッ…。
実は、トマトが大嫌いです…。
毎朝でるんだけど…残してます。
「まぁまぁ…雄飛だってピーマン嫌いでしょ?」
そう言って、私の頭を撫でるのは、私のふたつ上の男の子波貝咲夜。
「咲兄はまたそうやって亜美を甘やかす…」
「じゃ、雄飛は今日の夕飯から、ピーマン食べてやらないからね」
「えっ…」
雄飛はそのまま顔が引きつった。
「ご、ごめんー。ピーマンだけはお願い食べてー」
「じゃ、亜美のトマトも見逃せよ?」
「分かった…」
普通の兄弟じゃありえない温かさ。
これも、家族のいない悲しみを知ってるからこそできること…。
「あーちゃん、ゆーくん、たーくん、さく、いってらっしゃい」
「いってらっさい」
そう私たちを見送るのは、まだ5歳の双子、桜木真由子と桜木泰陽。
「泰ちゃん、真由ちゃん。行ってきます」
そう言って、私は、雄飛と咲兄の手を繋ぐ。
4人横に並んで仲良く中学と高校へ…
◇◆◇◆
「本当に仲がいいんですね」
「はい…」
「本物の家族より、こっちのほうが楽しそうだ」
「あっ、でも…」
「また、来ますね」
◇◆◇◆
私にとってこの温かさはいつものことで、もう慣れたのかも知れない。
この温かさが後に奪われることになるなんて、
誰が考えたことだろう…。