3人の薬毒師
御久し振りです。ドラキュラです。此方の作品は傭兵王物語に出て来る「三毒」の話です。
私は熱烈な仏教徒ではないですが「哲学としての仏教」には興味がありまして、傭兵王物語では三毒を出した感じです。
特に考える事もなく気軽な気持ちで読んでもらえると幸いです。
サルバーナ王国の然る地方に在る村・・・・・・・・
その村の外では密やかに葬儀が行われている最中だった。
黒い棺に両手を組んで眠るように目を閉じている老人を周りの人間達は哀悼の意を示すように目を閉じたり、花を添えていた。
その人数は村の人口を優に超えていたが、花を添えたり、哀悼の意を示す者の数は絶えない。
この理由は老人が亡くなる前日まで「如何に生きて、如何に死ぬか」という人生最大の「問題」について身を挺して教えていたからとも言えるだろう。
老人の出自などは不明だ。
しかし、愚かと言えるほど誠実な生き方をしたと誰もが口を揃えて言っている。
それを証明するように花を手向けた者達の手には老人の教えを纏めた書記を持っている者達が何人も居た。
そんな老人が如何なる生き方をして・・・・死んだのか?
老人を知る者達は間もなく閉じられようとする棺の蓋を前にして言葉を紡いだ。
「・・・・"無知"を放置するな・・・・でしたね・・・・ありがとうございます」
「・・・・不正に対する"怒り"を忘れるな・・・・この御言葉を胸に・・・・あと数年は・・・・頑張ります」
「・・・・何を学ぶにも"貪欲"となれという教え・・・・しかと後世に伝えます」
手記を手にした者達は口々に「罪」とも言える台詞を発したが、この言葉こそ老人の生き様を現したとも言える。
というのも老人は「この世には3つの毒にも薬にもなる存在がある」と口ずさんだからだ。
その3つは「無知、怒り、貪欲」であるが、言葉だけ聞けば眉を顰めるだろう。
しかし、この3つを老人は以下の言葉で説明した。
『無知ならば学ぶ事が沢山ある証拠。怒りは不正等に対し公然と訴訟などを起こす原動力となる。貪欲は無知である事を自覚し、そこから様々な知識を学ぶ原動力となる。逆に言うなら何もしなければ罪となる』
言い得て妙とも思える台詞だが、それを実践し続けるのは至難の業だ。
もっとも老人は死ぬ前日まで・・・・この毒にも薬にもなる3つと向き合い続け、そして後世を生きる者達に教え伝えた。
だからこそ遠方からも・・・・その死を聞き・・・・駆け付ける者が居る。
そんな遠方から来た者達と言うべきか?
3人の老人が間もなく墓穴へ埋葬されようとしている棺を遠くから見ていた。
『・・・・・・・・』
3人の老人は目を閉じる老人の亡骸をジィッと見つめていた。
ただ、3人の内1人が「良い死顔だ」と呟いた。
すると残る2人も「初めて会った時と変わらないような・・・・赤子のような寝顔だ」、「良き人生を歩めたようで・・・・満足だ」と呟いた。
そんな3人の老人を見つけたのか、棺近くに居た一人の少女が光の如く3人の老人に駆け寄って「ねぇ」と声を掛けた。
『!?』
声を掛けて来た少女に3人の老人たちは驚いたが少女は下から見上げる形で3人の老人は視線を向けて声を掛けた。
「あの・・・・もしかして・・・・お爺ちゃんが話していた・・・・"3人の薬毒師"?」
自分の言葉に不安を抱きながらも期待を胸に声を掛けた少女の言葉に3人は「薬毒師か」と声を揃えて呟いた。
しかし、1人が「ここに来る事を・・・・両親の許可を得たのか?」と問い掛けた。
それに対して少女が「えと・・・・」と言葉に詰まらせた。
「今後は、キチンと両親に声を掛けなさい」
「それが自衛の一歩だ」
言葉を詰まらせた少女に残る2人の老人は諭すように言葉を掛けた。
すると少女は顔を下げて小声で謝罪した。
「・・・・ごめんなさい」
頭を下げて謝罪の言葉を口にする少女に対し長身の老人は「気にするな」と優しく言葉を掛けて少女の頭を撫でた。
「謝る事は決して悪い事ではない。しかし・・・・"過ぎたるは猶及ばざるが如し"と言うように・・・・さじ加減が必要だ」
「それって・・・・何事も"やり過ぎちゃ駄目"って事?」
「あぁ・・・・その通りだよ。聡明な婦人」
少女の「明確な回答」に長身の老人は異様に長く・・・・先端が左右に割れたV字型の舌を一瞬だけ出して見せた。
それを見て少女「やっぱり薬毒師なんだ」と確信を持って言ってきた。
「・・・・フッ・・・・我等を薬毒師と・・・・あの幼子は言っていたのか?」
長身の老人が少女の言葉を「肯定」するように笑みを浮かべながら問うと少女は首を縦に振った。
「うんっ。お爺ちゃんが言うには御酒が好きな"蛇"・・・・読書好きな"豚"・・・・働き者の"鶏"だって言ってたの」
「フッ・・・・よく我等の性格を言い表しているな」
「おい、嬢ちゃん。恥ずかしいから他の大人達には言わないでくれよ?」
「我等の役目は・・・・寧ろ"真逆"だ」
少女の言葉に3人は口々に苦言とも言える台詞を発したが、少女を見る目は何処までも優しかった。
「・・・・あの少年は・・・・実に良い人生を送ったと見受けたが・・・・そなたから見ては・・・・どうであった?」
長身の老人の隣に居た、やや太った体形の老人が少女に問うと「自分の人生に悔いなんて無いって何時も言っていたよ」と答えた。
「だけど自分が悔いの無い人生を送れたのも"3人の薬毒師"が居たからって言ってたよ」
『・・・・・・・・』
少女の言葉に3人は無言となったが、少女は3人の老人に自分の祖父が生前に言った台詞を口ずさんだ。
『私は、幼い頃に薬にも毒にもなる3人と出会ったんだが・・・・その3人は自身を"毒"と称したんだよ』
「自分を毒って言うのが解らないんだけど・・・・お爺ちゃん達は解る?」
「・・・・我等が"司る物"が毒だからだ」
長身の男の右隣に居た「鶏冠」のように固めた髪型が特徴の老人が少女の問いに消え入りそうな声で答えた。
だが、少女は聞こえなかったのだろう。
「なんて言ったの?」
改めて問い返してきたが、それに対して長身の老人はこう答えた。
「いや・・・・きっと・・・・毒ではなく"薬"と称したんだろう」
しかし、記憶が曖昧となったから「薬毒」と何方でも通じるように教えたんだと長身の老人は続けた。
「そうかな?だけど・・・・お爺ちゃん・・・・こう言っていたの」
『この世には、完璧な薬など無い。必ず"副作用"が在る。だから・・・・常に考えて注意深く行動しなさい』
「・・・・良い台詞だな」
「・・・・良き祖父を持ったな」
「・・・・良い形見の言葉だな」
少女の言葉に3人の老人は少し間を置いて称賛の言葉を投げた。
すると少女は「自慢のお爺ちゃんだもん」と答えた。
「それなら・・・・我等3匹も・・・・最後の別れを許してくれるかな?」
嘗て・・・・あの少年を助け・・・・行く道を「僅かに照らした身」として・・・・・・・・
長身の男が代表して少女に言うと少女は何かを言おうとしたが、背後から聞こえてきた声に反応して振り返る。
「あ、お父さん!お母さん!」
少女は駆け寄って来た男女を父と母と言い、自ら駆け寄ると「何も言わずに動いてごめんなさい」と謝った。
それに対して両親は「心配したんだぞ」と言いながら3人の老人に「祖父に葬儀に参列される方ですか?」と問い掛けてきた。
対して3人は「えぇ」と短く答えた後に少女の両親に浅く頭を下げた。
「遠い過去となりますが・・・・かつて交流した者でして・・・・・・・・」
「儂等と交流した時から片鱗は既に見せておりましたが・・・・・・・・」
「良い孫娘を持たれたようで羨ましい限りです・・・・・・・・」
3人の言葉に少女の両親は「それなら是非とも最後の別れを・・・・・・・・」と言い、3人は棺の方へ足を運んだ。
そんな3人に左右から手を掴まれながら歩く少女は顔を振り向かせて何かを聞きそうな表情を浮かべた。
対して3人の老人は人差し指を口元へ運んだ。
やがて棺の所まで着くと3人の老人達は、眠るような死顔を見せる「出会った時は幼子」だった者を見た後に・・・・静かに両手を合わせて冥福を祈った。
そして3人の老人は最後まで葬儀が終わるまで居たが・・・・かなり印章に残る人物だったのだろう。
土を被せられる棺桶を少女は見つめながら祖父の言葉を言うと長身の老人が舌を鳴らしたらしい。
やや太った体形の老人は頻りに参列者が持つ手記などに目を向けたりしたらしい。
鶏冠のような髪型の老人は忙しなく周りを見ていたらしい。
しかし、3人の行動によって参列者たちは老人からの教えを思い出したり、学んだ事を他の者と共有したりした。
ただ、不思議な事に・・・・葬儀が終わると3人の老人は誰にも気付かれずに去っていたのだ。
それ以後3人の老人を見た者は誰も居ないが・・・・それから10数年後に然る本が世に出た。
題名は「3人の薬毒師と少年」というものだった。
その本を読んだ者達の中には葬儀に参列した者も居たのか、あの葬儀に出た3人の老人が薬毒師ではないのかと語り合った末に「もしや・・・・」という仮説を立てる所まで着いた。
何故なら長身の老人と目を合わせた者達は一瞬だが体が動けなくなった点・・・・やや太った老人に見られた手記を持つ者達は背筋を伸ばした・・・・鶏冠を思わせる髪型の老人に視線を向けられた者達は後回しにしていた事を直ぐに片づけた等・・・・・・・・
本に書いてある薬毒師の特徴を明確ではないが・・・・似ていたので仮説を立てる所までは辿り着く事が出来たのだが・・・・本人が居ないので明確な答えは出なかった。
もっとも3人の薬毒師との出会いによって、あの老人は人生を豊かにした・・・・そして自分だけが豊かにならず他人にも豊かになる教えを広めた事は・・・・確かな事である。
また、この本が世に出た事で老人の教えが更に広まる事は・・・・何ら疑いようがなかった。
3人の薬毒師 完




