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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【和志倭人伝】第35.999話 New Year Special:和志倭人伝的お正月

作者: 野竹不味
掲載日:2026/01/01

新年初めのご挨拶を申し上げます。

本編の予告を含む内容となっております。

作者の愚痴も含まれておりますので、ご注意下さい。


時は令和八年正月ーー


伊勢の社では、もう一つの戦いが始まっていた。



「……むむむ……んんん……」


伊勢の大巫女は神棚に祈った。


社殿の前の広場には、大勢の群衆が詰めかけていた。

集団ごとに左右に分かれ、皆、膝をついて構えている。

御簾の向こう側にいる大巫女を、固唾を飲んで見守っていた。


社殿の縁にはイセエビとクジャクが左右に別れて座り、群衆と向き合っていた。

イセエビは、伊勢の民たちを無言で見つめながら、思った。


(正月早々、イセエビとは……我はめでたい名をもらったものじゃ……)


クジャクは別のことを考えていた。


(毎年あの円らな瞳を見ると食べそびれるのだ……今年はさっさと頂いてしまおう……)



そうする間にも、年初の祈祷は続いていた。

大巫女の判じる神意が、その彼らの運命を決するーー



「ーーでました! 今年は〜」



イセエビが大巫女の言葉を伝える。群衆が腰を浮かせる。



「ーー豊作です〜!」



うおおおおおお!

やったああああ!

大巫女さまああ!



左手の群衆から、歓声が上がった。

拳を上げる者、諸手を上げる者、叫ぶ者、隣の者と抱き合う者もいる。

涙を流す者もいた。


一方、右手の群衆は、一同に肩を落として静まり返っていた。

膝を叩いて悔しがる者、喜ぶ者たちを黙って見つめる者もある。

項垂れながら愚痴る者、それを励ます者の姿もある。


「なんで豊漁じゃないんだよ……」

「……まあ、そういう年でも大漁の日はあるから……」



儀式が終わると、イセエビとクジャクは社殿の奥へと引き上げた。

クジャクが先に口を開いた。


「今年は、正始四年になったら帯方郡へ朝貢に行かねばならぬ」

「うむ。早く中華に行って、漢字の名前をもらいたいのう」


イセエビがこぼした。

クジャクは尋ねた。


「気に入っておらぬのか? 汝が登場すると、いちいちAIが面白がるしの」

「いや、そうではないが……漢字変換の都合での。書きづらいんじゃわ……」



伊勢も新たな年を迎えようとしていたーー


    ※


同じ頃、香取ではーー


すっかり雪化粧をした富士の高嶺が、山並みから顔を覗かせている。

香取の海に、巫女たちの声が響いていた。


「えい! やあ!」


ウヅも腰まで水に浸かり、木剣を振った。


(……うう……寒い……)


寒稽古である。


香取の大巫女は叫んだ。


「まだまだ! あと百回振るのじゃ!」


ウヅは思わず計算した。


(五分で百回振るには……三秒に一回ね!)



ビュンビュンビュン……!



その後はーー

香取の社では、新年の祝賀が執り行われた。



その席で、弥馬獲支(みまかくき)がおもむろに口を開いた。


伊支馬(いきま)殿は申しておりました。『歴史に学ばなければならぬ』……と」


香取の大巫女は、眼光を鋭くして弥馬升(みましょう)を睨んだ。


「やはり、伊支馬(いきま)を呼び戻せ。

 これから羽越方面に出陣じゃと申すに、香取のキャラが足りぬ」


弥馬升は両手をついた。


「しかしながら、大巫女様……。我が党は総・総分離はいたしませぬ」

「当たり前じゃ。分離して如何する?小手先のことばかりいたすな」


そう言うと、香取の大巫女は一気に盃を空けた。


「……ああ、熱い……」


ウヅは、寒稽古の寒さよりも、

大巫女の気迫の方が身に沁みた。


    ※


阿蘇の社ではーー


功臣たちが集まり、年始の儀を執り行っていた。


阿蘇の大巫女は難升米を見やった。


「クマタカ改め難升米よ、余興に今年の抱負を述べよ」

「はっ。本年は戦続きにござりますれば、まずはインフルに気をつけたく存じまする」

「良い心がけじゃ……」


そう言うと、阿蘇の大巫女は、膳の茄子漬けに箸をつけた。

ぼりぼりとかじりながら遠くの空を見上げる。


「……ふむ、よく漬かっとる」


傍らの巫女が笑った。


「大巫女様、戦のことが気になられますか?」

「あの子らのことか。……心配はしておらん。人は、漬かって強うなる」


傍らの火鉢から、火の粉がひとつ、舞い上がった。


    ※


その頃、アヤメの邑ではーー


「みかさやま〜ふりさけみれば〜かすがなる〜」

「はい!」

「お兄ちゃんばっかり、ずるい……」


子供たちの声が響いていた。


取った札を得意満面に見せびらかすマサカド。

チドリはアヤメに泣き顔を向けた。


「アヤメさんもやろうよ……」

「読み手が取ったら、ズルになっちゃうよ?」

「……そうなの?……じゃ、ばあちゃんでもいい」


とにかく兄マサカドに取らせたくないチドリであった。

イワネは布で濡れた手を拭いながら、アヤメに近づいた。


「じゃ、ばあちゃんが読み手をやるから、アヤメがおやり」


その様子を見ながら酒を飲んでいたカイは呟いた。


「そう言えば、儂ら本編では名前を出し忘れられたのう……なあ、ばあさんや」

「そうでしたねぇ……前もって決めてあったのに……」


そう答えると、イワネは次に読む札を見つめた。


その時ーー

ちょうど家に戻ってきたハルエが、イワネに声を掛けた。


「お義母(かあ)さん、私がやりますよ!」

「いいよ、ハルエさん。お正月くらいゆっくりおし」


タケノオは雑煮の中から里芋を探している。


「そう言えば、義理弟(あいつ)どうしてるかな……?」

「………………」


アヤメは黙したまま、足元の札をじっと見つめた。


    ※


その頃ーー


金玄基(キム・ヒョンギ)は、戰場(いくさば)に赴く馬上にいた。

ふと、アヤメの顔を思い浮かべた。


(お正月といえば……ああ……)



そんな金玄基に、久米が横から声を掛けた。


「この四本足(うま)は、なんで言うことを聞かないんでしょうね?」

「それは……今年の干支だからですよ」

「……?」


しばらく経ったのち、金玄基はようやく自分を見つめる久米の視線に気づいた。


「大丈夫! 今年は大活躍、間違いなしです!」

「そうですか! そう言われると、元気が出ます!」


その時ーー

伊都国の水軍隊長・潮音のスイは目を細めて顎をさすった。


「おかしいな? 久米は、いつも元気じゃないか?」

「うるさいな。 汝がいつも冷めてるだけだ」

「我は冷めてはいないよ。 今年は特に、ね!」


二人の言い合いは、永遠に続くかのように思われた。


    ※


台与は、社殿の広間に現れると、その中央で膝を折った。


背後には金玄基とウヅが控えていた。

久米とスイは彼らの両隣に控える。

さらにその後ろには、本作の登場人物たちが連なっていた。


台与は前方を見据えると、笑みを浮かべながら両の手を着いた。



「本年も、よろしくお願い申し上げまする」



その場にいた全員が一斉に深々と頭を下げた。



本年も和志倭人伝を、どうぞよろしくお願い申し上げます。



お読みくださりありがとうございました。

本編の再開は 1月5日(月)となります。今しばらくお待ち下さい。

本年が皆様にとって良いお年でありますように。

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