ぼくのルビー

作者：めん坊

　まっしろがよかった

　まっくろはいやだ

　でも、まっくろだ

　「ねぇねぇ、くものむこうにはなにがあるとおもう？」

　「そんなのしらないよ」

　「ヘンリーはきょうみないの？」

　「まったくないよ」

　「なんで？」

　「そんなのどうだっていいよ」

　まっしろな　はとのむれ

　そのなかにいる　くろいかれ

　まっくろな　かれはカラス

　「いまから、くものむこうにでかけるんだけど、いっしょにいかない？」

　「いかない」

　「そうかい」

　くものそとへ　たびだった

　ぼくをのこして　たびだった

　くもにかこまれたのは　ぼくだった

　「はぁ～」

　「なんでぼくは　まっくろなんだ」

　「ん！？」

　「なんだあれは？」

　くものなかに　キラキラひかる

　みえないひかり　キラキラひかる

　ぼくのための　にじいろだ

　「あぁ～、すご～い」

　「宝石だ～」

　「くものなかに宝石があるなんて」

　「ちょっと、はめてみよ～」

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　オレンジいろの　カラスだよ

　「まっくろじゃない！？」

　「ぼくはまっくろじゃない！？」

　「うれしい…」

　「あっちの宝石はなにいろになるんだろ？」

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　みどりいろの　カラスだよ

　「こんどはみどりいろ！？」

　「なんかたのしいなぁ」

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　むらさきいろの　カラスだよ

　「ちょっときもちわるいなぁ」

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　あおいろの　からすだよ

　「かっこいい～」

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　…………

　「あぁ～、たのしかった～」

　「でも、ぼくがほんとうになりたいのは…」

　「まっしろなはとなんだ」

　くものなかに　まっかにひかる

　まぶしいひかり　まっかにひかる

　ぼくのための　赤いルビー

　「すっごい、きれい…」

　「ほかの宝石とぜんぜんちがう」

　「ぼくはまっしろになれるかな？」

　ぼくのからだが　いれかわる

　ぼくのけなみが　いれかわる

　ドス黒い　カラスだよ

　「そんな…」

　「まっくろになっちゃった…」

　「ぼくはまっくろになっちゃった」

　「けっきょく、ぼくはまっくろなんだ」

　くものなかに　やってきた

　くものあるじが　やってきた

　まっくろな　フクロウだ

　「おいおい、ぼうや、そこでなにしてるんだい？」

　「あっ、すみません…」

　「ここはぼくのいえだよ」

　「すみません、かってに宝石をはめてました」

　「宝石？」

　「はいっ、くものなかにあった宝石をはめてました…すみません…」

　「きみには宝石がみえるのかい？」

　「はい、みえますけど…」

　「そうかい、そうかい」

　「みんなにみえるんじゃないんですか？」

　「ホーホーホー」

　「どうされました？」

　「いやいや、なんでもないよ」

　「そうですか」

　「おきにいりはどれだい？」

　「おきにいり？」

　「おきにいりがあるだろ」

　「それは…」

　ぼくはまっくろなカラス

　ドス黒いカラス

　ゆびにひかる　赤いルビー

　「このルビーです」

　「ほぉ～、ルビーかい」

　「はいっ…でも…」

　「どうしたんだい？」

　「おもったのとちがいました」

　「そうかい」

　「すきだけど、おもったのとちがいました」

　「きみはどうなりたいんだい？」

　「えっ…なんですか？」

　「どうなりたいんだい？」

　「どうなりたい…」

　「そう、どうなりたいんだい？」

　「ぼくはまっしろなはとになりたいです」

　「ほんとうにそうかい？」

　「えっと…」

　「きみはほんとうにそうなりたいのかい？」

　ぼくはまっくろなカラス

　ドス黒いカラス

　ぼくはぼくでありたかった

　「いいえ、ちがいます」

　「そうかい」

　「ぼくはぼくがいいです」

　「そうかい」

　「はいっ」

　「そのルビーはきみにあげるよ」

　「えっ、いいんですか？」

　「あぁ、いいよ」

　「ありがとうございます！！」

　「なくすんじゃないよ」

　「はいっ！！」

　「きみがきみであるためにね」

　くもをとびだった　フクロウさん

　まっくろな　フクロウさん

　とおくにきえた　フクロウさん…

　「あぁ、こんなじかんか…みんなはまだだろうか…」

　「お～い、ヘンリー」

　くものそとから　はとのむれ

　かえってきた　はとのむれ

　きずひとつない　はとのむれ

　「みんな～」

　「いや～、たのしかったよ～」

　「そうなんだ」

　「やっぱり、くものそとはさいこうさ」

　「そうなんだ」

　「こんどはヘンリーもいっしょにいこう」

　「そうだね、いきたい」

　「あれ、くものそとにいってくれるの？」

　「うん」

　「あんなにいきたくなかったのに？」

　「うん」

　「かわったね、ヘンリー」

　「そうかな」

　「うん、ぼくはうれしいよ」

　「ぼくもうれしい」

　「そのゆびわ、どうしたの？」

　「これは、フクロウからもらったんだ」

　「フクロウ？」

　「うん、まっくろなフクロウ」

　「へぇ～、かれにであえるなんてラッキーだね」

　「そうなの？」

　「うん、めったにであえないからね、かれとは」

　「そうなんだ」

　「ぼくもそのルビーほしいなぁ」

　「くものなかにあるよ」

　「くものなか？」

　「うん、くものなかからみつけたから」

　「ぼくもさがしてみよう」

　くものなかに　キラキラひかる

　みえない宝石　キラキラひかる

　ぼくのための　宝石ひかる

　「ヘンリー、どこにもないよ～」

　「ほんとうに？たくさんあったけど…」

　「みてごらん？どこにもないよ」

　「ほんとうだ、どこにもない…」

　「ほら、いっただろ？」

　「うん」

　「いいなぁ、そのルビー…」

　「いいでしょ」

　「きみにピッタリだよ」

　「そう、ぼくのルビーだからね」

　「ぼくも宝石みつけられるかなぁ」

　「いつかみつかるよ」

　「そうかなぁ」

　「うん、ぜったいみつかる！！」

　まっくろな　くろいかれ

　まぶしくひかる　赤いルビー

　そとをたびする　フクロウさん