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第五章




 港町に入ると周りがもうすでに真っ暗だったので、馬鹿を説得して宿に泊まる事にした。

「おい。なんで止めるんだよ」

 叶岾が睨んでくる。けれど俺にとっては醜い顔でしかない。

「さっきいったろ。この暗闇じゃ土地感のある相手のほうが圧倒的に有利だからだよ」

 戦うにしても、船で逃げるにしてもな。

「仕方ないですよ。叶岾様。佐藤様のいうとおりですよ」

「さま? 様って聞こえた気がしたなぁ〜」

 誰が様だって。

「さん。佐藤さんでした。あははは……。はぁ」

 案内人は笑ってごまかす。

「いやなら、いやって口で言ったらどうだ」

「いったはずだが」

 たぶん。いってないかも。

「そんなことより、これからどうしようか」

 独り言とも質問ともとれることを叶岾がつぶやく。

「まずは、休め。危険人物、じゃなくて魔王の部下とやらがいても、神様じゃねぇんだ。俺たちがここにいるとすぐにわかるわけがない」

「そうかなぁ」

「それにもしバレてたら、王様が俺たちに魔王を倒させる計画はもう破綻してるだろう」

「どうしてですか?」

 本当にわからないと案内人が訊いてくる。

「まだ俺たちは何もしてないだろう。その状態で俺たちに目をつけてるんだったら、計画がどこからか漏れてるだろうからな」

「確かにそうだなぁ」

 完全には納得していないようだが、どうやら説得に成功したようだ。

 そして、今日の疲れを取る事ために眠りについた。叶岾は。

「おい。案内人。待てよ」

 部屋に向かう金髪の背中に声をかける。

「なんですか? 佐藤さ、さん」

「訊きたい事がある。色々とな」









 案内人の話によると魔王がこの国に現れたのが今からおよそ四年前、それから一年で軍隊を作り上げる。そしてニクス国を名乗り攻め込んできたらしい。二年間の戦いの後、魔王軍からの提案で休戦協定を結ぶことになる。

「そのまま戦ってたら相手の圧勝だったんだろう。なんでそんな提案したんだ?」

 これがご都合主義ってやつか? 皆殺しにしたほうが反逆されることも俺たちが被害をこうむることもなかっただろうに。

「それはわかっていませんが。もしかしたらカロン国のせいかもしれません」

 案内人は考え込んでいる。

 また新しい設定が出てきやがったか。仕方ない。訊くか。

「カロン国のことも含めて説明してくれ」

「カロン国というのはヒドラ国の隣国です。大きな国でこのメイオウ大陸のほとんどを支配しています。そして、ボクの見解というのはそのカロン国を警戒してではないかと思います。姫様が人質に連れて行かれたという話はしましたよね」

「ああ。確か聞いたな。そういえば、王族とはいえ人質としては物足りないよな」

「物足りないというのは賛成しかねますが、ただの王族ならおかしいかもしれませんね。跡取りでもないですし」

 案内人が意味ありげに言う。

「ただの王族じゃないならなんなんだ?」

「姫様は前回の勇者様の娘なんです」

「えっ。てぇことは王妃が勇者だったんだよな。王妃が魔王を退治すればよかったんじゃないか」

「そういえば言ってませんでしたね。王妃様はもうお亡くなりになりました。ついでに言うなら今回のことは極秘ですから王族が直接動くことはできません。勇者様のお子さんを人質にしているんですから」

 勇者の子供が人質だとまずいのか。そりゃもし怪我させたら国民になんか言われそうだが。

 考えてみたら案外すぐにわかった。

「つまり危険だからだろう。姫が。姫の命ではなく姫そのものが」

「まあ、そういうことになりますね。勇者の血を継いでいるのだから、特異な能力を持っていて当然です。それをもし魔王に悪用されたら、大変です。だから油断しているうちに討伐しなきゃならないのです」

 案内人は途中から感情的になっている。

 しかし、やっかいだな。相手には姫兼兵器がいやがるとは。でも、俺には関係ないか。明日にゃ帰る目処がつきそうだしな。

「ありがと。よくわかったよ。もうずいぶん時間がたったしそろそろ寝るよ」

「お役に立ててなによりです。おやすみなさい」

 俺は案内人に背を向けて部屋に向かう。

 この時、俺は自分の計画がこの港の船とともに沈没することを知る由もなかった。



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