ラストエピソード・太陽
「真紅兄さん、なんかそれっぽい感じのが!」
「ああ!」
100m5秒ほどのヒーローに合わせていた集団はその速度を維持して、瞬く間に現代ダンジョンを蹂躙した。
そして三百層ほどを攻略すると、明らかに様相が違うそこらのビルよりも巨大な門が現れた。
それは鎖で幾重にも覆われ、強大な錠前までぶら下がっているが、現れた宝箱の全てを無視しているヒーロー集団は鍵など持っていない。
ただし、マスターキーは持っている。
「ぶっ壊れろおお!」
遠距離攻撃を得意とするヒーローから、煌びやかな光が迸って鎖が破壊される。
近距離線が得意なヒーローが錠前を攻撃して砕く。
そして昭和ヒーローの強力なノックが、軋んでいた門を粉砕した。
「ここは⁉」
門が壊れた先には驚きの光景が広がっていた。
真紅と平成ヒーローにとって、忘れたくても忘れられない連中。
今まで彼らが打倒してきた昭和・平成の怪人が干からびたようなミイラの姿であちこちに倒れ伏し、小刻みな痙攣を繰り返しているではないか。
『おのれ! おのれええええ!』
そして最奥には渦巻く暗黒の靄が罵り声を発していた。
『この星の怪物を欲の力で復活させようとしたらこの様だ! 聖人でも気取っているつもりか貴様らあああああああ!』
罵る暗黒の渦。
異なる世界でダンジョンコアと呼ばれる存在は、財宝や貴重な物を体内に生み出して得物を招き、欲や倒れた者の絶望、更には希望を見出す者の生命エネルギーを糧にする寄生生物だった。
そして揺蕩っていた様々な怪人の魂を絡み取ると、奪い取った生命エネルギーを与え復活させようとしたのだが……。
その手のことに慣れているヒーローたちの推測によって、金銀財宝は持ち出されるどころか放置され、怪人は不完全極まる復活しか出来なかった。
尤もそんなことはヒーローたちには関係ない。
「消えろおおおおおおお!」
怪人共がいるのだから問答無用。
先手必勝とばかりに令和、平成の攻撃が迸りダンジョンコアと怪人たちに向かう。
しかしである。
『な、なんだこれは⁉ ち、違う! せせせ世界征服⁉ 世界を我が手にいいいいい! おおおおお愚かな人類を抹殺して選ばれし我らのみがガガガガが⁉』
バリアのような物で攻撃を無効化したダンジョンコアは、昭和世代の宿敵、悪の秘密組織の目的を口走る。
『せ、せ、せ、世界をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
怪人を利用して便利な駒を入手するつもりだったダンジョンコアは、中途半端ながらも復活した怪人の怨念に染められ、ダンジョン怪人と呼べる存在に変化してしまう。
そしてアリジゴクとチョウチンアンコウが混ざったようなダンジョン怪人は、長い顎を開閉しながら誘引突起を蠢かせ、蘇った怪人に号令をかけた。
「行くぞ皆!」
「はい!」
逆にヒーローたちは真紅の号令で応戦する。
深い深い地の果てで、蘇った様々な怪人と三世代のヒーローが激突した。
「リベンジマッチじゃあああ!」
「甘く見ないでいただきましょう!」
『やってやるワン!』
『行くニャー!』
大幹部に痛い目を見た令和ヒーローが心身共に完全一致した力を放出。
「通算五度目とかいい加減にしろ!」
「いつものことさ」
頻繁に復活した怪人と戦っている平成ヒーローも、悪態を吐きながら一斉に攻撃を開始する。
「物理は俺!概念ほにゃらら攻撃はそっち!」
「承知しましたわ!」
「付いて来いよ後輩!」
「腰痛めないでくださいね!」
遠距離系のヒーローが弾幕を形成し、それを潜り抜けてきた怪人を近接系のヒーローが迎え撃つ。
物理に対する耐性?
ならば令和ヒーローが攻撃する。
概念に対する耐性?
ならば平成ヒーローがこじ開ける。
「疲れてるんじゃないか?」
「若いとそんなの感じませんね!」
刃が斬り捨てる。
光の力が打ち砕く。
「はっはー! 弾幕薄いよ何やってんの!」
「大雑把なのは時代だけにしてくださいまし! 大事なのは精度ですわ!」
銃が破砕する。
魔法が撃ち貫く。
「デカいのそっち流すぞ!」
「はい!」
培った技術で攻撃を躱す。
若さが攻撃を防ぐ。
「ちょっと合わせてみようぜー!」
「やってやろうじゃん!」
即興で攻撃を合わせ薙ぎ払う。
『食らえワン!』
『ワンワンワンワンストライーク!』
新旧それぞれが己の役割を全うし、不完全な怪人たちを駆逐していく。
『きさま、真紅ううううううううううう!』
「おおおおおおおおおおおおおお!」
そして怨念の依り代となったダンジョン怪人と、真紅が拳を交わす。
「ごほおっ⁉」
胸に拳を受けた真紅が吐血する。
昭和のヒーローに明確なダメージを与えたダンジョン怪人は、様々な次元でエネルギーを蓄えていた寄生虫だ。
そのパンチ力は昭和の大幹部と比べても見劣りせず、実力は迷宮の主に相応しいものだった。
『ガハアッ⁉』
とは言えダメージはダンジョン怪人も同じだ。
なんの遠慮もない昭和ヒーローの拳を腹に受けて無事で済むわけはなく、怪人の体から火花が弾け飛ぶ。
「おりゃああああああ!」
『キギャアアアアアアアアア!』
続いて真紅とダンジョン怪人の拳が顔面に炸裂。
がくんと頭が後方に弾けた真紅はマスクが欠損して目の一部が露わになり、ダンジョン怪人の顎は片方が欠損する。
『こ、この光を見ろおおおお!』
ダンジョン怪人の頭部で揺らめく誘引突起が妖しい光を発する。
欲を増加させて意識を奪い、本能的な動きしか出来なくなる光に誘われると、待っているのは死だけだ。
「今更惑わされるかあああ!」
『ゴギャア⁉』
小細工極まる。
五十年以上も戦っている真紅に、今更精神攻撃をして何になると言うのだ。
なるほど、若い日の彼になら父母の姿が幻影として現れたかもしれないが、実行したのはダンジョン怪人の顔面に拳を叩きつけることである。
「おらあああああああ!」
『ギャッ⁉ ゴバッ⁉』
まともに打撃を受けているように見えて、僅かに逸らしていた真紅の経験値と、碌な実戦経験がないダンジョンコアは早くも差が露呈し始めた。
容易く戦車の正面装甲をぶち破れる真紅の拳が嵐のように吹き荒れ、躱す技術が無いダンジョン怪人の体が粉砕されていく。
『ウ、ウギャアアアアア!』
ダンジョン怪人は苦し紛れに噛み付こうとしたが、結果は残っていた顎が引き抜かれるという無残な形で終わる。
「とどめだ!」
『こ、これで終わったと思うなよおおおおおおおおおおお!』
真紅の全身から僅かな炎が漏れ、周囲を明るく照らす。
そして渾身の力でダンジョン怪人の顔面を殴りつけると、炎が一瞬で纏わりつき、ダンジョン怪人はダンジョン最奥を揺らすほどの大爆発を起こした。
そうなると、主を失った地下施設がどうなるか……。
「あ、これヤバイかも」
「崩れてるじゃん!」
「退避ー!」
「やっぱいつもの流れだよねー!」
悪の組織を倒すと必ず爆発や崩壊に巻き込まれるヒーローたちが、やっぱりなと叫びながら退避する。
「真紅の兄さん⁉」
「お前達は先に上へ上がってろ! ちょっとやることが出来た!」
「分かりました!」
ただ一人、真紅だけは例外だ。
彼はダンジョン怪人が爆発した瞬間に起こった異変を見逃さず、後輩達に一声をかけると生じていた僅かな切れ間。次元の裂け目に飛び込んだ。
「お前は必ず仕留める!」
飛び込んだ途端に次元の裂け目は閉じたが、最重要の目標を定めた真紅は気にしない。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
次元を渡ってきたダンジョンコアの本体。
様々な世界で欲を吸い取り、どこかの大陸にも匹敵しそうな超巨大エネルギーの塊が叫ぶ。
そんな本体に怪人のデータが渡り、悪の秘密組織の怨念が宿っているなら、これを放置すればどれだけの世界に被害が及ぶか分からない。
「ぐがっ⁉」
ただ、人間が勝てる存在ではない。
コア本体が吸い上げてきた欲望はまさに星の数ほどで、身動ぎしただけで発生した衝撃波を受けた真紅は木の葉のように吹き飛ばされる。
故に地球上では絶対に切れない切り札を使う。
「三速最大出力ううううううううううううう!!!!!」
くべ続けていた燃料が心臓に埋め込まれた宝玉に反応して全身を、異なる次元すら炎が覆う。
なんでもかんでも核エネルギーで解決しようとした時代に、覇権を握ろうとした悪の秘密組織がその程度で満足するはずがない。
世界を統べ、永久の支配を目指した彼らが手を出したのはその更に上。
最終目標。
核融合。
しかも単なる炉ではない。
推定温度1600万度。
科学と魔術を融合させた唯一の成功例。
真紅を名乗った男に盗まれ、よりにも寄って核となったが。
FIRSTでありながらNEXTの象徴になる筈だった御業。
「The・Sun!」
文字通りの必ず殺す技。
言葉通りの人工太陽が炸裂した。
「日精走!」
『ギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉』
己を燃料にしている真紅の雄叫びと、ダンジョンコアの絶叫が重なる。
なにが異なる次元を渡り歩いて欲望を糧にしている寄生生物。
人を助けられた喜びを知らず、罪なき者が傷付けられた怒りを知らず、大切な者を失った悲しみを知らず、それでも生きる楽しさを知らず。
ただ欲しか貪らない存在が、戦い続けた男の熱に勝てる道理はない。
「 菊ううううううううううううう!」
大輪が咲いた。
花の形をした輝きが馬鹿げた推進力を真紅に齎す。
日精草。即ち菊が象徴するは太陽だ。
それは不死鳥か。
流星か。
はたまた矢じりか。
飛び蹴りの態勢となった真紅は、光となってダンジョンコアを貫く。
太陽そのものと化した弾丸に、いったい誰が耐えられる。
ダンジョンコアが一瞬で存在そのものを消し飛ばされると同時に、命を燃料とした真紅も完全に燃え尽きた。
……。
………。
…………。
『太郎』
『太郎……』
声が聞こえた。
懐かしい父母の声。天国にいるから、間違いなく聞くことはないと思っていた声だ。
『昭和男児が約束を違えるんじゃない』
『そうですよ』
厳しいことだがその通り。
後輩と約束した以上は、それを守らなければならないし、湿っぽい話をするには心の準備が必要だ。
『なにゆっくり話す時間はいくらでもある』
『楽しいことは幾らでも経験してきなさい』
薄れゆく父母の声を聞きながら手に、足に、心に炎を宿す。
「そ、そんな」
「真紅さんはどうなったんです⁉」
何とか地上に戻った令和ヒーローたちの視線の先には、崩れて埋もれてしまったダンジョンの入り口がある。
ずっと下にいたなら真紅だろうと助からないのは明白だ。
「ク、クリスマスにビンゴ大会するって言ってたじゃないですか!」
クリスマスのパーティーで、地獄の特訓について色々言いたいことがある令和ヒーロたちが、帰ってこなかった男に叫ぶ。
その時、太陽が輝いた。
光はみるみる人の体を構成し、赤の装甲服、マスク、そして中身を形作る。
「あー……今度という今度こそ死ぬかと思った。つーか臨死体験してたわ」
「ほえ⁉」
「えっ⁉」
「真紅さん⁉」
その声は最近よく聞く男、真紅の声だった。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です真紅の兄さん!」
「いやあ、心配かけてごめんね」
平成ヒーローがやっぱりなという思いを抱きながら真紅を労う。
体が弾け飛んだり、死んでも復活するというのは比喩でもなんでもないのだ。
「よーしそれじゃあ、クリスマスビンゴ大会の準備をしようか!」
「なんですかそれー!」
「説明! 説明を!」
「訳がわかないんですけどー!」
「ガバガバすぎるー!」
何事も無かったように話を進める真紅に、令和ヒーローから絶え間ない叫びが浴びせられる。
しかし、本当によくある話なのだ。
「はははははは!」
能天気な昭和男の笑い声が、太陽のように明るく響き渡った。
◆
『本日のニュースです。ダンジョンは完全に崩壊したようで』
◆
「あ、こっちのお仕事は終わったので、近いうちに戻りますー。え? 先輩ヒーローたちはいい人ばっかりでしたよー。言いたいことはたくさんありますけど!」
◆
『百獣の王になるワン!』
『にゃーにゃー!』
◆
名無しの平成ヒーローさん
いやあ終わった終わった。
名無しの平成ヒーローさん
香川でうどんでも食いたい気分
名無しの平成ヒーローさん
俺は九州でラーメン
◆
「それでは打ち上げ兼クリスマスビンゴ大会を始めます! 昭和百周年なんで、景品は奮発してるよ! なんせ現職総理大臣もいるからね!」
「諸君、国会には内緒だぞ!」
「それじゃあ皆さん、お疲れ様でした! かんぱーい!」
『かんぱーーーーーーい!』
【昭和百年記念】昭和ヒーロー、後輩達と共に現代ダンジョンをボコボコにする&掲示板
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唐突な特撮熱を解消した作品でしたがいかがだったでしょう。
長引かせることも考えたんですが、全世代が集まるってことは劇場版。ならだらだら長引かせたら変だと思い、このような形で終わりました!
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