最初のヒーロー
『と、父さん? か、母さん⁉』
なぜ真紅は今更昔を思い出すのだろうか。
大学から帰省すると待っていたのは、よりにも寄って酸で全身が溶かされ、それっぽい物体と化していた父母の姿だ。
いつか父母と死別するのは分かっていた。
しかし急に悪党が、意味もなく殺したと言うのなら話は変わる。
ただひたすら復讐を求め、核戦争のために暗躍していた悪の組織を止めるのではなく、怨念故に殺し続けた。
過程で完全に人を辞めても些細な問題だった。
そうでなければ怪人共は、幹部共は、大幹部共は、何より首領は殺せなかった。
まさか悪の組織も、大した意味もなく殺した人間の息子に壊滅させられることになるなど、夢にも思わなかっただろう。
「おおおおおおおおおおお!」
ダンジョンが生み出したゲル状のゴーレムを木っ端微塵に破壊する。
死神のようなモンスターを拳で粉砕する。
死なんか幾度も乗り越えてきた。
もう五十年も前に決着した話。終えた物語。昭和から平成に託した時点で、真紅自身の因縁はピリオドが打たれている。
米ソ両軍を相手取れた悪の組織の完全壊滅と言う形で。
ゴルゴンのような蛇型モンスターの首を握りつぶす。
霧状になって惑わしてくるモンスターの核を破壊する。
子供を潰してしまうのではと恐れて触れない手だ。誰かと握手も出来ない手だ。
だが未来へのバトンは後ろで戦う平成の後輩達に託せた。そして今、令和の後輩達も確かにそのバトンを受け取るのに相応しいヒーローだった。
渡したバトンは復讐から自衛に。自衛から守護に。守護から正義に、次第に変わっていた。
ならば最初にバトンを握っていたこの手にも意味はあった。
「二速!」
温まり始めた体に更なる燃料をくべ、津波のように襲い掛かってくるモンスター達を弾き返す。
子供も、孫も、ひ孫だっていてもおかしくはない年齢になったが家族はいない。
だが友がいる。後輩がいる。そして新たな若者がいる。ならばやって来たことは無駄ではなかった。
「おりゃあああああああ!」
砕き、握り締め、踏み潰し、引き裂き、なぎ倒す。
昭和が六十四年で終えようと。
平成が三十一年で終えようと。
ヒーローに正義を見出した後輩に恥ずかしい姿を晒すことは出来ない。
そして終身雇用こそが昭和の華だと言うならば、いつか眠りにつくその時まで現役なのだ。




