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初めてのダンジョン

「えーっと、それではお願いします」


 厳重に封鎖されているダンジョン入り口で、探索初心者の真紅が平成、令和ヒーローに頭を下げる。

 基本的に現れた巨悪を倒すだけの人生を送ってきた真紅は、一般の人間が持つゲームや映画の知識も乏しいため、帰国後に講習を受けるまでダンジョンの具体的なイメージが無かった。


「そんじゃ俺らも“適度”に安全第一で」

「おーう」


 真紅の近くにいる平成ヒーロー二人が、鎧のような装備を身に纏い、慣れた様子で声を発する。


「……」


 そして六人ほどいる令和ヒーローは、女性はふりふりとした服や宝石。青年は王子様のような衣装を身に纏っており、もろに素顔が露出していた。


(これも時代ってやつかあ)


 美青年。美少女の令和ヒーローに、真紅は時代を感じた。

 昭和・平成のメディアへの露出を考えなくていいヒーローは、全身を何かしらで覆っている者ばかりだ。しかし令和世代は逆に、大衆への映りを意識する世代であるため、酷く軽装かつ装飾が多かった。


(ついでに戦闘に関しちゃ、彼らの方が色々出来るらしい。俺には経験があるとはいえ、やっぱ頭が固いと時代に付いていけないな)


 真紅は自分の老いも感じる。

 令和世代は、極論を言えば殴る蹴るの肉弾戦しか出来ない昭和世代に比べて手札が豊富で、劣っている点があるとすれば経験の浅さだけだろう。


「態々俺のためにごめんね」

「いえ、仕事ですから」

「お気になさらず」

「いやあ、流石に若い君達に付き合ってもらうのはねえ……」


 申し訳ない気持ちでいっぱいな真紅が謝罪すると、令和ヒーローたちは特に気にせず返答する。

 今日彼らが集まっている理由は、初めてダンジョンを訪れる真紅の慣らし運転のような物に付き合うためだった。


「先輩。ここが第一層です」

「事前の説明通りゴブリンとか犬みたいな、雑魚モンスターしか出てきません」

「明るいね。不思議なこともあるなあ」


 ぞろぞろと昭和・平成・令和のヒーローがダンジョンの門を潜ると、そこには十数人が楽に通れる石の通路が存在していた。

 しかもご丁寧なことに石の壁がかなりの明るさを放っていて、暗いから探索が出来ないということもない。


「後はあちこちに、宝石だの武器だの、よくわからない金属だのが入ってる宝箱が出ます」

「ふーむ、なるほどねえ。サトルが封鎖する訳だ」

「うっす」

「徳川埋蔵金伝説を利用した小判怪人を思い出すな」

「発見された小判を長く持ってたら洗脳される奴っすよね?」

「そうそう。君らの世代も、ウィルスとか種子型の怪人が色々持ち帰るように仕向けたよね」

「うっす」

「その経験があったんで、研究するために持ち帰ろうとした連中を止めようとしたら、随分揉めましたわ。今も上に常駐してる仲間が目を光らせてますし」

「まあ学者や政治家先生たちの気持ちは分かるけど、怪物の巣窟の中にある金銀財宝と武器なんて、触らない方が吉さ。ダンジョンの生存戦略で、持ち帰ったものが根を張ってまた別のダンジョンになる。なんてことになったら笑えない」


 平成ヒーローが、ダンジョン関連で最も揉めていることを話すと、真紅はダンジョンを一般に開放しないことを決めた弟分。現総理大臣の判断に納得した。

 様々な組織と戦ってきた真紅、平成ヒーローに言わせると、未知の領域から物を現代日本に持ち帰るのは悪手も悪手だ。

 そして、どうぞ探索してください。持って帰ってくださいと言わんばかりのダンジョンは、彼らの経験から言えば怪しさ満点で、今すぐになんとか破壊したい存在だ。


「ついでに俺の敵って自分達でもよく分かってないものを利用して、とんでもない事故を起こす連中だったからなあ。サトルもそれを見てるし」

「あー……エジプトとか」

「そうそう。これは古代エジプトの秘宝で制御すれば宇宙の力がー! あ、失敗した! ギャー! って……もうアホかと。アホだったわ。若い皆は、よく分かってない奇跡の力を使うときは容量用法を守ろうね。じゃないと爆発四散しちゃうぞ。ははは」

「先輩、笑えないっす」

「ははははは。はは……はあ。だね。若い皆には話しておこうか。経験則を伴ってた方が説得力があるからぶっちゃけるけど、俺もそのそのよく分かってない力を使って、何回か体がバラバラに弾け飛んでるんだ。いやあ、自爆技を二、三持ってるのが当たり前の世代とかやっぱおかしいわ」


 肩を竦めた真紅に平成ヒーローが天井を見上げると、真紅は乾いた笑いを漏らすしかない。


「なにかの比喩ですか?」

「いや、それがねえ。本当に言葉通り、体が木っ端微塵に消し飛んで燃え尽きた。なんて経験があるんだよ。なんで生きてるんだろうね俺」


 体がバラバラに弾け飛んだ。これを比喩と捉えた令和ヒーローが首を傾けると、真紅は遠い目になって自身の経験を話す。


「ウギャアアアアアア!」

「グギャアアアアア!」

「あーっと、ゴブリン……だっけ?」

「そうっす」


 突然、ダンジョンに甲高い叫びが響き渡った。

 真紅が後輩に尋ねた通り、ゴブリンと呼称されている人間の肌が緑になったような存在は、粗末な刃物で武装していた。


「さて、どんなものか」


 真紅は軽く。本当に軽く。空き缶でも蹴るような動作をした。

 パンッ。と破裂音が通路に響く。

 人間より若干小さいものの、耐久力はそれほど変わらないゴブリンの胴体が、単に軽く蹴られただけで消し飛び、光の粒子となって消え去った。


「こんなものか。確か、常人が頑張ったらなんとかなるってラインとか言ってたね。やっぱりこのダンジョン、いやらしいわ」

「そうっすね。餌を等間隔で置いて、罠にかかるのを待ってる感じですわ」

「つまり俺らみたいなのがいるのは想定外だったかな」

「50階層くらいまで楽勝でしたから、最大の敵は広さと持ち込める物資になりますね」

「だろうね」


 周囲のヒーロー。平成も令和も、当然の光景に感想を持たない。

 人を軽く超えた者たちにとって、浅い階層にいるダンジョンのモンスターなど敵ではなかった。


「ブギャアアアアアア!」

「ふむ」


 次に奇声を発しながら現れたのは、かなり大柄で全身にたっぷりと脂肪を蓄えた、オークと呼称されているモンスターだ。

 顔や外見は醜悪な人間……と言えなくもない姿で、そこらの女性よりも大きいこん棒を持ち上げたオークは、真紅の頭上に叩きつけ、不遜な人間を床の染みにしようとした。


「なんか、寧ろ驚くな……基準が100tは感覚がおかしくなるか」


 敢えて受けた真紅が、ぱらぱらと砕けたこん棒の破片を見ながら呟く。

 最低でも100t前後の衝撃を想定している昭和ヒーローにすれば、大柄の人型怪物が振り下ろしたこん棒など物の数に入らない。

 それと同時に真紅は軽く殴るつもりでオークの腹に拳を打ち付けると、途端にオークの胴体は破裂して光になる。


(単なる人に俺の力が向いた場合を見せられてるようで、あまり気分がいいものじゃないな)


 モンスターを歯牙にもかけない真紅は人よりも少しだけ優れている程度の相手をほぼ経験しておらず、ほろ苦い感情を抱く。

 五十年以上も戦い続けいい加減折り合いは付けているが、それでも人類社会が想定していない力の全てを受け入れている訳ではなかった。


「よーし。令和のヒーローの力を見せてもらおうかな」


 真紅はそんな思いを感じさせない声で、現役のヒーロー世代の実力を直接見たいと頼む。


「はい」


 その瞬間、令和ヒーローたちから光が溢れた。

 様々な概念。因果律。神羅万象。それらが宿った、昭和にはあまり縁のない力が迸ると、あちこちにいた雑多なモンスターが飲み込まれ、抵抗することなく消え去った。


「計算上では並みの怪人どころか幹部怪人も瞬殺っすね」

「幹部級もかあ。俺いる? 概念的な攻撃が効かない奴が出た場合に、俺が頑張るって話だったし、その説明聞いた時は納得したけど、これを無効にできる奴がいるのかね」

「まあ、何があるか分かりませんから」

「それもそうか」


 平成ヒーローの言葉に、これ直撃したら俺も普通に死ぬんじゃね? と思った真紅だったが、戦力は多いに越したことはない。

 令和世代の自認通り、古い肉弾戦など時代遅れだったとしてもだ。

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