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第45話 2月の青森編①(弘前市 青森市 十和田市)

 2月になり弘前市にある契約施設から訪問依頼があった。青森県は、弘前市と青森市、十和田市を中心に9施設とユーザーが多いエリアになっている。契約更新程度の営業でも、修一は可能な限り全県の施設を周るようにしている。ピンポイント営業で飛行機や他の高い交通費を使うのはあまりにも勿体ないと思っている。

(若者か、らユーザー訪問なんて昭和営業の典型と言われそうです……)


 やはり、青森空港利用だけの日帰りで営業を済ませるのはやりきれないと思っている。昨今は、成果主義で余計なことには時間を割かないという風潮が常識になっている。修一は、そんな形を否定する訳ではないが、訪れた地域を移動して感じとれる時間は大切な癒しの一部になっている。Z世代の若者が注目するタイパなんて言葉はそんざいしないのだ。

若い人達にとっては、そんな時間を取って歩きまわるユーザー訪問などは以ての外のようだ。ましてや、靴底を擦り減らすような昭和の営業などは共感される筈もない状況だった。普段から車を運転しないこと以上に、レンタカー営業が好まれない一つの理由になっているのかもしれない。

(修一も、そこまでではありませんが、営業タイムでの散策好きは『窓際』たる所以なのかもしれません……)


 そんな事で、1泊2日の青森出張旅のプランを立て上申した。往路では羽田空港から青森空港まで飛行機利用、復路は八戸駅から東京駅まで新幹線利用だ。青森空港から弘前・青森・八戸エリアまでは、いつものレンタカー移動だ。楽しみな出張プランだが、雪が降った後の車移動なので少しだけ心配になっていた。空路は短い時間の利用になるが、八戸からの新幹線は長時間になるので車内晩餐が今から楽しみになっていた。


 羽田空港は朝7時15分発のJAL便なので、搭乗まで余裕があり空港内で軽い朝食を済ませていた。搭乗しても今回は特にすることも無い。CAさんから、コーヒーの機内サービスをいただき窓の外をぼんやり眺めていた。出発して1時間ほどが過ぎると、飛行機はシートベルト着用サインが点灯して着陸態勢に入った。高度が下がってくると、青森空港周辺の山間部には真新しい雪が残っているのが分かる。青森県内の路面は雪の予感があった。青森空港には、予定通り朝8時半に着陸した。


 到着してから、空港内にあるTレンタカーの青森空港店に移動して受付カウンターに進んだ。


「S社の伊藤です。P1クラスで2日間予約しています」

「承っています。八戸駅西口店へのお返しですね。昨夜、雪が降ったばかりですので。お気を付けてどうぞ」


 車の傷の確認をして運転席に座った。今日はナビの経由地が沢山ありセットで時間が掛かった。車を出発すると、最初のコンビニに立ち寄りホットコーヒーを調達した。雪は降ったばかりで柔らかくスタッドレスでの走行は安定していた。まずは、弘前市内の契約更新の施設に向かう。10時前に契約先病院の駐車場に到着すると、玄関先の除雪がされていないため雪が深そうだ。そこまで、職員の手が回らないのだろうと思った。それでも、地元の患者さんは平気のようで中で多数待っているのが分かる。玄関までは雪が深そうなので、足元の革靴にビニールをゴムで止めて車の外に出た。玄関に入る前にビニールを仕舞って受付に進んだ。


「S社の伊藤です。事務長様と10時にお約束させていただいております」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 事務長室に案内され一通りの挨拶が終わると、さっそく会話が本題に移る。


「契約更新はいつも通りにお願いします。実は、院長が病院機能評価を取りたいと言っていてね、うちみたいな中規模病院ではどうかと思って意見を聞きたいと思ってね」

「確かに各病院様で、そんな動きがあるようですね。弊社の方にも問い合わせが時々あるようです。病院様で患者様からの信頼度を上げるという意味では役に立つと思いますが、審査料で150万円以上が掛かりますからね。地域で既に信頼があるこちらの病院様などでは、どう考えるかですが……」

「そうなんですよ。検討段階ですが、仮に審査を受ける際にS社さんのサービスを受けていることで病院機能評価は通り易くなりますか? 何かメリットはありますか?」

「診断の品質向上で、弊社のような『サービス利用で診断品質が高まることが望ましい』と記載がありますのでお力にはなれると思います。その際に必要な情報や他にご相談があればご連絡ください」

 一旦、仕事の話を終了したので、修一は食の話題を聞いてみた。

「弘前市内で何処か美味しいランチが食べられそうなお店は分かりますか?」

「何が食べたいの? 名物とかじゃなくて良いんなら、味噌ラーメンはどう? 地元の人気店があるよ」


 お礼を言って、病院を出ると次の訪問施設に向かった。午前の診療が忙しい時間帯でもあり、各現場は軽いヒアリングのみで、事務長には軽い挨拶程度で、残りの3施設を周り午前の弘前市の営業訪問を終えた。


 時間は12時前になっていて、事務長から教えてもらった場所をセットした。表示された行先は百貨店のような感じだった。中に入りラーメン店を探すと『〇みそ』という教えてもらった店名があった。事務長曰く、その店の味噌ラーメンは、弘前市民のソウルフードと呼ばれているらしい。スープは、ニンニク・生姜がタップリ入っていて身体が温まる感じがする。麺は、修一の大好きな中太タイプで美味しかった。盛られているモヤシとキャベツ、玉葱、人参、豚の細切れを口に含むと甘さが広がる。寒い日で雪が残る日に食べる昼食には調度良かったかもしれない。隠れた人気店があるものだと思った。


 昼食代800円を支払って、午後の訪問先4施設を目的地にセットした。これで青森県内の訪問は、ほぼ終わりに近い状態になる。明日の予定は、十和田市の1施設の訪問だけを考えれば良い。自由な時間確保のために頑張ろうという気持ちになっていた。

(仕事をしないで遊びまくるという意味ではありません。自由な時間であることは、間違いありませんが……)


 帰りは、八戸駅が午後4時15分発くらいの『はやぶさ』を予約していた。それに乗れば東京駅には7時過ぎには着く事ができる。出張も2日目になると早めに帰りたい気分になる。新幹線は約3時間弱の旅。明日、お摘み食材とお酒を買い込み乗車することを思うと今からワクワクして心が弾んでいた。


 弘前市から青森市までは国道7号線経由で1時間くらい掛かる。国道などメインの道路の雪は大丈夫そうだったが慎重に運転した。青森市内に到着した頃には、午後2時を過ぎて訪問には調度良い時間帯になってきた。まずは市内の3施設を表敬訪問し、丁寧にヒアリングと使用機器の確認をした。問題なく訪問を終えて最後の施設に向かう。


 最後の施設は、津軽〇〇医院という施設。名前は『津軽』が付いているが青森市の施設だ。この施設の院長は、バリバリの青森弁(津軽弁か……施設の名前も津軽が付いているし……)で、面談をしても何を言っているか分からないという評判のクリニックだった。若い営業はこのクリニックが絡むと寄り付かなかった。今回は、そんな状況ではないが青森市内まで来るのに、周らない施設があるのは申し訳ないという気持ちもあり、最後の施設に津軽〇〇医院をあてた。市内の道路の雪も問題なく、午後4時前には駐車場に着くことができた。受付に訪問の旨をつたえると10分位の待ちで診察室に入るように促された。


「S社の伊藤です。先生、いつもご利用いただきありがとうございます。何かご要望等はございますか?」

「な、これからどこさいぐだ……。わんじゃわじゃ、ありがとうごす。〇✕△ 〇✕△ 〇✕△……」


 最初の頃の言葉は何となく分かったようなつもりになったが、後は何を言っているのか全く分からない。言葉は分からなかったが、先生の言葉を必死で理解しようとして食らいつき頷いていたが……。診察室を出ると看護師さんから話し掛けられる。


「先生のお話分かりましたか? 営業の方の殆どが、分からないで帰って行く人が多いんですよね」

「最初以外は、全く判りませんでした。申し訳ありませんが、先ほどの診察室のお話を通訳して貰えませんか。患者さんは、先生のお話が分かるんですね? すごいというか……よろしくお願いします」

「先生は、機械を見て行って欲しいと言ってましたのでお願いします。利用は問題ないと言ってました。患者さんは、先生のファンが結構いて話が分かる方が多いんですよ。もし分からない時があれば、私達が患者さんに通訳していますけどね。そちらのサービス依頼は、私達が全てやっていますので何かあればどうぞ。先ほどは、診察室で一生懸命、頷いてましたね……」


 看護師さんから笑って言われた。

(後に青森の出張報告書に詳細に記載したので、方言や聞き取り内容を克明に覚えている。)

システムを設置してある部屋で一通りの稼働確認をして、看護師さんに問題ないことを伝えクリニックを出た。ここは日本なのかと思うほど言葉が分からなかった。通訳がいて良かったとホッとしていた。


 時間は既に夕方5時を過ぎて、空は陽が沈み暗くなっている。予約したビジネスホテルに移動してチェックインした。ホテルに荷物を置いてホテルの方に近くのお店を聞いてみる。


「この近くで、海鮮系のお店はありますか? 和洋どちらでも良いです」

「ここから、左に出て間もなく〇〇水産というお店がありますが如何ですか?」

「わかりました。行ってみます」


 50メートルほど歩くとその店はあった。中に入ると平日で時間も早いせいか席も空いていた。中に入って、調理場が見えるカウンター席に座った。注文を取りに来たので、メニューを見ながらお願いした。


「本日の刺身と海苔天かき醤油、やみつき塩だれネギ、日本酒の熱燗をお願いします」

「熱燗は、ぬる燗でよろしいですか?」

「いえ、熱めにしてください」


 そう言えば、社内でお酒はぬるめの燗が良いと言っていた人がいたような気がするが、寒かったので温まろうという発想なのでどうでも良い。修一のバカ舌が、そんな違いを判る訳がない。熱燗が先に運ばれて、一口飲んで身体を温めていると摘みの料理が並んだ。本日の刺身は、カンパチのようだ。特に不満がある訳ではない。ワサビを付けて口に運ぶと甘く新鮮で美味しい。海苔天かき醤油というのは、初めて食べる料理。(牡蠣の天婦羅のことか……)と思いながら口に運ぶと、衣の中にある柔らかい牡蠣の身に味が沁みていて食感もたまらない。そのままで、食べても十分に美味しかった。やみつき塩だれネギは、修一が、あまり食材に詳しくないので何のネギなのは分からないが、小ネギだろうか……。胡麻とタレで味付けがしてあってサッパリと美味しい。箸が進んだ。その日は、ビールは頼まず熱い熱燗をもう一本だけ追加した。


 計算して注文したので、支払いは出張夕食代の調度2,000円を超えた位になっている。領収書を貰ってからホテルに戻った。部屋に戻るとシャワーを浴びて身体を温めた。いつもはシャワーを浴びてから夕食に出るのだが、寒かったので湯冷めをするような気がして真っ直ぐ夕食に出たのだ。シャワーで身体を温めベッドに横になると、ほろ酔いの心地良い気分から、朝までの深い眠りに落ちるのは早かった。



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