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第50話 脱法魔法術師

 時遡ること、およそ一時間前。

 ザクロ村では、ちょっとした騒ぎが起きていた。


 村の中心にそびえ立つエルダーツリー。その木の洞の中にあったダンジョンへと続く転移門が、忽然と消失していたのだ。


 転移門が無ければ、いつものようにダンジョンに入ることも出来ない。

 なのでエルダーツリーの周りには、行き場を無くした冒険者たちがたむろしていた。


「クソが。いきなりダンジョンから追い出されちまった。こりゃどうなってんだ!」


「チッ、オレ今日まだ、魔石の回収してねーよッ」


 また、姉のお使いで宿で出す食料の仕入れに来ていたプラムも、その騒ぎに気づき彼らの元に駆け寄る。


「あれ、どうしたのみんな」


「お前は……、いつもダンジョンの近くでフラフラしてるガキだな」


「どうしてダンジョンに行かないのさ。みんな冒険者だろ?それとも揃ってお休み?」


 プラムが戦士の男にそう聞くと、別の盗賊職の冒険者がこう言った。


「馬鹿野郎。行かないんじゃなくて、行けないんだよっ! ほらよ、あれを見てみろ」


 盗賊職に背中を押されながら、プラムはエルダーツリーの洞の前まで歩み出る。

 すると、普段ならそこにあるはずの青色のマナ膜は、たしかに跡形もなく消えてなくなってしまっていた。


 そして、代わりにマナの転移門があった場所には、古代文字による謎の警告文が浮かび上がっていた。


「ほんとだ! 不思議だね、なんでだろう」


「さぁな。どっかの酔ったバカが、夜中にション便でもかけたんじゃねーの?それできっと、バチが当たったんだ」


「ハハハ、そんなの有り得ないよ。ねえ、ここになんか書いてあるじゃん。それ読めば分かるんじゃないの?」


 しかしザクロ村の冒険者の中に、古代文字を読める者は一人も居なかった。

 それどころか、大陸文字の読み書きすらギリギリの者が大半なのである。


 なので、彼らは村始まっての異常事態を前にし、揃いもそろって困惑しきっていたのだった。



 だがそこに、騒ぎを聞きつけたザクロ村の村長レフリー・バイゼルが、ペットのカーバンクルを伴ってやって来た。


「おお、レフリー爺さんじゃないか」


「まったく、これは一体なんの騒ぎじゃ! 貴様らがうるさいせいで、落ち着いてキティちゃんの毛づくろいも出来ないじゃろうて」


 年老いたカーバンクルを腕の中で撫でながら、レフリーは迷惑そうにそう抗議した。


「どうしたもこうしたもねえよ、ジジイッ! とにかくコイツを見てみろ」


「うむ?どれどれ……」


 村の冒険者たちに連れられ、レフリーはダンジョンの入り口へと案内される。

 しかし、マナの転移門が消えてなくなっているのを見ると、とたんに彼は眉間に大きな皺を浮かべた。


「ムムムッ! まさかッ、これは!!?!?」


 若い頃に冒険者として世界中を旅していたレフリーは、幾度かダンジョンの完全攻略に立ち会ったこともあった。

 よって、ダンジョンの入り口の消失が何を意味するかも、全て知っていたのだ。


「ど、どうしたんだよ村長。そんなに驚いた顔をしてさ」


「……ついに、現れたのかっ! エルダーツリーダンジョンをクリアする者が!」


「なんだって??」


 するとレフリー村長は、懐から剣闘技大会でも使っていたお気に入りのマイクを取り出した。

 そして、集まっていた冒険者たちの方へ向きなおると、彼らに向かってこう宣言した。


『冒険者諸君!!!喜べ!今日はこの村にとって、記念すべき日になるだろう!』


 突然、マイク片手に上機嫌にしゃべりだした村長の様子を見ると、冒険者たちはざわざわと騒ぎだした。


(うん?レフリーさん、どうしたんだ?)


(ありゃダメだな。ついにおかしくなっちまったのかな)


 だが村長は、彼らの反応など気にも留めずに話をつづけた。


『実に長かった。このダンジョンが見つかってから50年間。儂が村長になっての40年。その間一人も、ダンジョンの踏破に至る者は現れなかった。……じゃがしかしッ、今日この日、エルダーツリーダンジョンは初めて完全攻略されたのじゃ!!!!』


「ええっ! そ、それは本当なのか?!」


『うむ。ダンジョンの転移門が消えているのが何よりの証拠。再生成が始まっておる。これからは、もっとランクの高い素材も採れるようにもなるぞ!』


(そりゃすげえな!)


(やったぜッ)


 冒険者たちはダンジョンクリアの恩恵が自分たちにも出ると分かると一層喜んだ。


「けど、いったい誰がやったんだ? そんなスゲー奴、この村にいたかぁ?」


 この歴史的偉業を成し遂げたのは誰か。もしかしたら隣にいる相手がそうかもしれない。

 そう思って彼らは互いを詮索するようにジロジロと見つめ合った。


 だがしかし、この場にいた者の中でプラムだけが、ダンジョンを完全攻略した者の正体をはっきりと確信していたのだ。


 ─そうか。きっとクライシスがやってくれたんだ! まさか、本当にクリアしちゃうなんて……!─


 プラムはクライシスの力を信じていないわけではなかったが、子供ながらに最低限の現実は見ているつもりだった。


 ダンジョンを全壊させてでもあなたの父の形見を手に入れてくる。彼はそう言ってくれたが、ダンジョン全壊なんてのは常識的に不可能だ。

 しかしクライシスは、誰も成し得なかったエルダーツリーダンジョンの完全制覇をしてしまった。

 その事実は、プラムに大きな希望を与えた。


「すごいなぁ。冒険者って……」


 目を見開き、思わずこぶしに力がこもる。

 彼は素直に感動していた。



『もうすぐ、奴らも帰ってくるじゃろう。そしたら皆で、盛大に出迎えてやろうじゃないか!』


 レフリーは両手を大きく広げ、冒険者たちを見渡しながらそう言った。


『さあ、皆の衆。記念すべきこの日を祝い、盛大に宴をするのじゃ! フ……、どうせ再生成のせいで、ダンジョンもしばらく使えないだろう。貴様らッ、飲んで歌うぞ!!!』


「「うおぉぉぉぉっ!!!」」



 彼らは、祝いの宴に歓喜した。


 エルダーツリーの前にはすぐに即席の宴会場が作られ、近くの酒場からは大量のエールが運び込まれた。

 仲間同士で肩を組んだり、思い思いに歓声を上げながら、まだ誰かも分からない勇者の偉業を称え、アルコールの入ったグラスを躱したのだった。


「はははっ、こりゃ凄いや! ……姉ちゃんにも知らせてこよ」


 そうして、プラムは急いで、村外れの宿屋に帰っていった。



 ダンジョンがクリアされたという情報は、ものの数分で村中を駆け巡った。

 だがしかし、「私がクリアした」と名乗りを上げる者はまだ現れてない。


 そうなるとやはり気になるのは、自分たちを差し置いてダンジョンをクリアした強者の正体について。

 ついに冒険者たちは、その正体が誰かを当てる賭けまで始めてしまう始末だった。


「なあ、お前は誰だと思う? 俺は筋肉(マッスル)守護者(ガーディアン)S()に賭けるぜ。奴らは曲者集団だけど、武闘家としてはそれなりの実力者だから。なにより、ここに居ないことがその証拠だと思わないか!?」


「…………クックック! やはりここにいたか……ッ」


「は?だから居ないって。 ……お前、なんかおかしいぞ?」


 隣にいた黒ずくめの男を不審に思ったその冒険者は、心配してそっと男の肩に触れようとした。


「触るなッ! 原住民のサルめ!」


 その瞬間、冒険者の首は魔法で作られた巨大な鎌によって胴から永久に泣き別れたのだった。

 周りの冒険者も、その異変に気づく。


「貴様、何者だ!?」


 その場所では、他にも数十人の冒険者が酒を飲んでいた。

 男はあっと言う間に四方を取り囲まれ、剣や斧が突きつけられた。


「クック。偵察に放ったゴーレムが死んだから、まさかとは思ったが……、やはり生きていたのか」


「お前ッ、村の冒険者ではないな?! それにさっきのは魔法だろッ! …さては、国から追われている脱法魔法術師だな!!」


 ウポンドーハの国王が直々にお触れを出した魔法使いの禁止令。

 やや横暴ではあるが、脱法魔法術師を捕らえれば国から賞金が出たのだ。


 その事は冒険者たちも知っていたため、血気盛んな何人かは迷わず男に斬りかかった。


「既に仲間がヤラれてるんだ! 容赦なく斬り殺せ!」


「おうッ!!!」


 だが何人かが同時に斬りかかったにもかかわらず、男に刃は一度もかすらなかった。

 それどころか、その瞬間に男は完全に姿を消していた。


「なんだと。隠密スキルの類か?」


「……オイ、上だ!」


 一人がなにか気づき、冒険者たちは一斉に空を見上げる。


 そこには飛行魔法を使って、男が空に漂っていた。

 さらに、男の背後に作られた謎の亜空間からは、無数の強力な魔物がぞろぞろと這い出してきていたのだ。

 中には属性を操るゴーレムや上位精霊、変異種であるゴブリンキングやオーガの姿もあった。いずれも自分たちには勝てるわけがない相手だ。


 冒険者たちはそれらを見て、深い絶望を感じた。


「早く来いよ、狂気の天災(バーサークバーサーク)。貴様がこの村の原住民共と、ナカヨシコヨシしてたことはとっくに知ってるんだぜ。ククク、急がないと全員殺しちまうぞ。ハーハッハッハ…!!!」


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