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第46話 刹那の攻防

 エクシードプライムで放出されるオーラの色は、アーツの中で最も強力な真紅だ。

 クライシスは絶対に技を外さない距離まで密着すると、真上に掲げていた大剣を一気に振り下ろした。


 ──ズバァーン!!


 斬りこんだ刃は、首と肩の境目辺りに直撃。その瞬間、フォレストライオターダムドの肉体を覆う硬い表皮はバキバキと割れ、刃は肉のさらに奥深くとへ食い込んだ。


 彼の使うツヴァイハンデットソードには特殊な効果もなく、ましてやオーパーツでもない。

 一般的に、店売りの貧弱な武器などでは、ダンジョンボスに致命傷を与えることは出来ないとされていた。


 だがクライシスは違った。奥義エクシードプライムの高火力と自分のSTRを頼りに、全てを強引に成そうとしたのだ。


「うぉおおおおおおッ!!!」


 クライシスが大剣に力を込める度に、フォレストライオターダムドの体はメキメキという音を立てながら引き裂かれていった。

 腕回りの骨が砕け、大剣の隙間から滝のように血が溢れ出す。


 しかしその時、死の危機に瀕したことで、フォレストライオターダムドの幻惑状態が解除されてしまったのだ。

 意識を取り戻した途端に、ダムドは今にも自分が串斬りになろうとしている現状に気づく。

 そして、激昂をあらわにした。


「シャァァァアッッッァッ!!!!」


 歯をむき出しながら、こちらに対し強烈な敵意を向けてくる。

 そうして反対側の手に持っていた極大剣を大きく振りかぶると、目の前にいるクライシスに対して横から斬りかかろうとしてきた。


「ズシャアアッ゛ッ!!!」


 ダムドの持つ白銀の極大剣が、クライシスに向かって猛スピードで襲い掛かる。

 ツヴァイハンデットソードはすでにダムドの肉の深いところまで食い込んでいた。クライシスは確実にとどめを刺すために心臓を狙っていたのだ。

 それが仇となった。

 今さら深々と突き刺さった大剣を肉から引き抜くような時間的余裕はなく、このままでは攻撃の回避が間に合わない。


 しかしクライシスは襲い来る猛烈な殺意を感じ取ると、いち早く行動に移っていたのだ。

 彼は小さく身をかがめると、それまで縦に斬りこんでいた大剣を無理やり肉の中で90度回転させた。内蔵がえぐられる痛みで、ダムドはおもわず呻き声を上げる。

 そして、ダムドの体内で水平に倒した刃をそのまま真横に振りぬくと、その勢いで身を回転させながら、強烈な後ろ回し蹴りを喰らわせた。


 斬撃と蹴撃の二重のインパクトにより、フォレストライオターダムドはダンジョンの外壁まで勢いよく吹っ飛ばされた。

 ぶつかった衝撃で、ダンジョンの外壁を覆うギードヌの根は粉みじんに炸裂し、周囲の埃や木くずなどが空気中に散乱した。


 生じた白煙のせいで奴の姿は見えなくなってしまったが、ダムドがすぐに起き上がってくるような気配は感じられない。



 クライシスは、今の攻防でかなり歪んでしまったツヴァイハンデットソードを杖替わりにすると、それに寄りかかりながら急いで呼吸を整える。


(ハァッ…ハァーッ…… …ふぅー……)


 そして彼は上目づかいで、ダムドの吹き飛んでいった方向を睥睨した。


 ──思いもよらぬ好機が訪れ、その結果一瞬で激しい戦闘を行うことになった。

 かなりのダメージは与えたはずだが……、なにしろ相手は初めて戦う敵だ。最後まで気を抜くことは出来ない。


「あ、そうだ! マスターっ」


 するとペペロンチーノは収納魔法から三本目の予備の大剣を取りだした。それを持ってクライシスの元へと駆け寄っていく。


「どうぞ、今のうちに。予備の剣です!」


「…ふぅ……、 ……ええ、そうですね。ありがとうございます。ペペさん」


 クライシスは彼女から新しいツヴァイハンデットソードを受け取ると、曲がってしまった方を代わりに預けた。もうストックは残っていない。


 また、ペペロンチーノの様子を見ていた他の冒険者たちも、彼女に連られるようにクライシスの元に集まってきた。


「……なあ、いきなりだったけどさ、僕たちは勝ったのか?」


「クライシスさんが指示を出したから、アタシたちも動いたんス……。でも、何故だかよく分からないうちに、ダンジョンボスの様子が急におかしくなったんスよね?もうっ、何だったんすか一体?」


 事前の作戦では、ボスとの戦いは様子を見ながら慎重に進められる予定だった。

 それがほとんど真逆の結果になり、マルティ達はやや混乱していた。

 クライシスの持つ破魔の兜の力も、彼らはまだ知らなかったのだ。


「ううん。魔法を使ったフォレストライオターが逆に幻惑状態になったのは、マスターの兜の能力だったの。マスターはそれを最大限に生かしたのっ!」


「ほぇ~。そうだったんスか。流石、クライシスさんですね」


 すると、ダリアがこう言った。


「ボロくて変な兜だと思ってたが、けっこう凄い物だったんだな!それ!」


「ええ。だいぶ前に死んだ、師からの授かりものです」


「そうだったのか……。もしかしたら、お前のお師匠さんが守ってくれたのかもナ……」


 そういうとダリアは、おもむろに天を仰ぎみた。

 それを聞いたクライシスは、思わずフッと吐息をこぼした。



 ──ガラガラガラッ……


 突如、白煙の向こうから、瓦礫が崩れる大きな音が聞こえた。


「ッ!! 皆さん、後ろに下がって!」


「は、はい……ッ」


 やがて金属製の重い物を引きずるような物音と共に足音が聞こえると、クライシス達の前に再びフォレストライオターダムドが姿を現したのだった。

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