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第42話 深層への侵入

 炎の中に一瞬見えた謎の光る物体。クライシスは、それがダンジョンの中に点在するオーパーツの可能性があると思ったのだ。


 オーパーツはそれなりに低い層でなければ見つかることはあまりない。だが、魔物が多く存在していたこのエルダーツリー中層であれば、見つかる可能性も多少は考えられた。

 それに戦闘に役立つ物であれば、深層のボス戦に備えておくためにも獲得しておく価値はある。


 ……決して、オーパーツ欲しさの好奇心に負けたわけでは無い。


 しかし、その光を見た場所に戻ると、そこにあったのは見知らぬ冒険者の白骨死体であった。

 着ている鎧がかなり劣化していた事から、幸いにも自分たちの作った炎で焼け死に骸骨になったわけではなさそうだった。


「なるほど。オーパーツに見えたのは彼の身に着けていた装備品でしたか……」


 ふと、冒険者の遺骸が何かを強く握りしめているのに気が付いた。それは何らかの金属片のようだった。

 もしかしたらと思い、クライシスは死体の手からそれを抜き取った。


「あっ、マズイ! バフ効果がもう切れてしまう!」


 慌ててクライシスは、すぐに転移門の所に戻ろうとする。

 だがその事に気づいた瞬間、クライシスは全身を炎に包まれた。

 実際にはまだ1秒ほどの猶予はあったが、熱耐性上昇(ヒートバリア)の効力は徐々に薄れていっていたのだ。


「くっ! ……間に合うか?!」


 出口はすぐそこにあるが、もう時間が無かった。

 クライシスは渾身の力を両足に込め、一気に地面をけった。


 まるで撃ちだされた弾丸のごとく、一直線に飛び出したクライシス。

 だが、それでも速さが足りないと、転移門まであと少しの所で悟ってしまった。


 そこでクライシスは、マナを消費し更なる加速を行った。

 当然0から限界を超えての付与魔法(エンチャント)だ。オーバーゼロに陥ったクライシスは、その瞬間に気を失った。


 しかし、後は勢いのままに真っすぐ進むだけだった。

 そのままクライシスは凄まじい速さで中層を突っ切ると、転移門をくぐり、その先にある深層の壁に大激突した。


 ちなみに後から聞いた話では、深層で待っていたマルティ達の視点からは、とつぜん門から炎の塊が飛び出してきたかと思うと次の瞬間、壁にぶつかって大爆発した。というように見えたという……。


 ─ズドンッ!!


 その衝撃で、彼は意識を取り戻した。


「あいタタタっ。 いやぁ、危なかったですねー」


「マスターーーっ!!!」


「…ッ、ペペロンチーノ?! 良かった。目を覚ましたのですね」


「マスターこそ!! 一時はどうなることかと思いましたよぉ! (スンスン……」


「うん?」


 彼女は嬉しそうにこちらに駆け寄ってくると、思い切り抱きついてきて身体の匂いを嗅ぎ始めたのだ。


 クライシス自身は無事だったのだが、彼の身に着けていた魔法耐性のある花柄ローブは炎で燃え尽きてしまい、ちりぢりの灰と化し消えて無くなってしまった。


 なので現在、クライシスはすっ裸だった。


「ハァ…ハァ…、クライシス様のフェロモンの匂いがするぅ~。いひひひっ、ハハッ!」


「……ペペロンチーノ。ワタシ様の予備の服を出してもらえますか?」


「…ええっと。…それってぇ。今すぐじゃなきゃ……」


「今すぐですッ!」


 ペペロンチーノはクソデカため息をついた。

 そうして渋々収納魔法を起動すると、そこからザクロ村で手に入れていたリネン製の服を一式取り出した。

 事前にクライシスは、服が燃えてなくなる可能性も考慮していたのだ。


 彼はそれらを身に着けた。元々は村人が普段着に着るような物なので、特殊な効果はもちろん防御力だって皆無だ。


「着替え、終わったっスか?」


 反対側を向いていたマルティは、耳を赤らめながらそう尋ねた。


「ええ。お待たせしました」


 そう言いながらすっくと立ちあがる。


「もぅ、たくっ」


 すると、ダリアがこう言った。


「クライシス。ここが深層ってことでいいんだよな? ってことはよ、この先に本当にダンジョンボスがいるのか?」


「ええ。ワタシ様の予測が正しければね」


「マジかよ」


 周囲の景色は、これまでの階層とはやや趣きが異なっていた。

 ギードヌの樹木らしきものは見当たらないが、ダンジョンの壁の表面が木の根のような物でびっしりと覆いつくされているようだ。その根の間には白い水のような物が流れており、それにより階層も白く見えた。

 また、木の根自体がわずかに光を放っているようであり、この階層全体は常に室内程度の明るさがあった。


「う、嘘だろっ? 深層のボスなんて聞いてないって! ……クライシスさん。今からでも引き返しませんか?流石に僕たちみたいな超初心者冒険者には、荷が重いっていうか」


「また泣き言かよ。いい加減、覚悟を決めろよラザルスッ」


「いや、けど。ダンジョンボスだぞ!?そんなの熟練冒険者でも滅多に倒せない相手じゃないか」


「そうかもしんないけどさぁ」


 ダリアはまたかと、呆れながらラザルスを説得しようとした。

 しかし、それを聞いたクライシスは素っ気なくこう答えた。


「まあ、いいですよ」


「え、ほんと!お家に帰れるんですか?」


 彼は兜の中でいじわるな笑みを浮かべた。


「フフフ、もし帰れるのならどうぞ?戻っても中層は炎に包まれていますがね。フフフ」


「ええっ! ああ、そんな……。じゃあ、結局進むしかないのか」


 しかし、すぐにラザルスはあることに気が付いた。


「いや、待てよ? 帰り道が炎で塞がれてるんだとしたら、もしボスを倒せたとしてもどのみち、僕たち帰れないじゃないですか!!!?」


「あれ? そう言われればそうっスよねぇ。何か考えがあるんです?」


「どどど、どうするんですか! 責任とってくれるんですか??!」


 すると、それを聞いたペペロンチーノは彼らをからかうようにこう言った。


「えへへっ マルティったらそんなことも知らないんだね!いいよ、私は先輩だからね。仕方ないから教えてあげるよー!」


「うわうわっ、またこの流れかよぉ」


 ペペロンチーノは口角を上げてにんまりとした笑みを浮かべていた。

 それとは反対に、マルティは離れ屋でからかわれた出来事を思い出して、思わず苦々しい顔になった。


「えー。クライシスさんに、何か策があるとかではないんスか?」


「プププ、ほんとに知らないんだねぇ。うける~」


「……チィィッ。早く、教えるっスッ!!!」


 イラつきながらマルティはそう催促した。


「はいはい。私はね、もう何度もクライシス様とダンジョン攻略してるから知ってるんだ。深層のボスが倒されると、ダンジョンは一回リセットされるの。中にいる冒険者はダンジョンを作り替えるのに邪魔?だからぁ、時間が経てば勝手に外に転移されちゃうんだよっ。 ──で、合ってますよね?クライシス様」


「まあ。だいたいは……」


 マルティ、ダリア、ラザルスの三人は、そんな話を聞くのは初めてだった。


「「ええっ、そうなの!?」「そうだったのか?!」」


 グレイテストランドではそうでもないが、ウポンドーハの、しかも辺境の片田舎などでは、ダンジョンを完全攻略できる冒険者などあまりいなかったのだ。

 知らないのも無理はない。


「それで後戻りができないってことか。なるほど。それなら帰るにしても、ボスを倒すしか方法はないってことだな!」


「でもさ、どうしてそんな仕組みになっているんだ? ていうかリセットって何なんだよ。リセットって」


「詳しいことはワタシ様にも分かりかねます。専門外ですので」


「ええー……」


「まあ、取ったはずのオーパーツが補充されたり、敵の種類が変わったりとかですかね。でもリセットするとダンジョンの難易度も爆上がりしますよ」


 すると、ペペロンチーノは高笑いをしながらこう言った。


「ワハハ!こんなの冒険者の間じゃ常識だよぉ? そうだなぁ。私は先輩なんだから、これからはもっと敬わなくちゃダメなんだからねっ」


「くうっ、悔しいけど、言い返せないッス」


 それを聞くと、ペペロンチーノは一層楽しそうに声を上げて笑った。


「アハハハっ、アハハハハっ!!  ……うう゛ッ」


「ぺ、ペペロンチーノッ?!?」


 突然、ペペロンチーノが苦しそうに腹部を押さえたかと思うと、そのまま地面に倒れてしまった。

 クライシス達は、慌てて彼女の元に駆け寄る。


「ペペ! しっかりしてください。ペペ!!」


「…んん、……あれ? 私、はしゃぎすぎちゃったのかな?」


「本当ですよ。あなたも血を使いすぎているんですから。少し落ち着いてください」


「ゴメンなさい。マスター」


 するとクライシスは、マルティの事を手招きして呼び寄せこう伝えた。


「すみませんが、あなたの血を彼女に分けてあげてくれませんか?そうすればペペさんも元気になるはずですから」


「もちろんですよ。そんなことならぜんぜん楽勝ッスよ」


 輸血を了承すると、マルティは横たわるペペロンチーノの隣に腰を下ろし、自分の手首を彼女に噛ませた。

 ペペロンチーノは吸血鬼なので、血液型による拒絶反応は起こらない。


「なあ、これからどうするんだ?」


 ダリアはクライシスにそう尋ねた。


「ええ、そうですね」


 クライシスは簡単に周囲の気配を探った。


「幸い、この辺りに魔物はいなそうですね。見張りを立てながらになりますが、一時休息を取ることにしましょう。それで、ペペロンチーノの体力とワタシ様のマナの回復を図ります。出来る限りですが」


 中層に入る前に飲んだマナポーションも、もうすぐ効き目が出てくるはずなのだ。


「よし、分かったぜ! なら、最初はオレっちが見張りをするな!まだ体力には余裕があるんだ」


「そうですか。では、お願いします」


 それを聞くと彼は仲間に見張りを任せることにした。自分はゆったりと壁に寄りかかり、心身の休息に努めようとする。


「じゃあ僕も!」


「アタシは気功活性(シェアム)で回復しますっス」


 そうして彼らは、少しの間休んだ。

 この先で待つダンジョンボスとの戦いに備えて……。


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