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第33話 中層再突入

 クライシスはウンザリしていた。

 宿の離れ屋から窓の外をみると、そこにはエリクセルで元気になったダリアの姿があった。


「マスター。あの人、また来てますよー」


「はぁ。困ったものですね」


 もう既に三日目になる。

 彼は自分たちも共にダンジョンに連れてってくれと、このようにしつこく懇願していたのだった。

 とうぜん初日に断りを入れているが、それでもダリアは一向に懲りる様子がない。


 その間、クライシスの中層後略作戦もほぼ完成が見えていた。

 あと少しで、再びダンジョンに挑む予定だったのだ。


「どうするんです? もし、あの人がマスターの障害になるようでしたら、私が今すぐにでも倒してきますよ」


 そういって、ペペロンチーノはヤる気満々で鎖鞭を取り出してみせた。


「……うーん、いいえ。それは少し待ってください」


「あ、はいっ。分かりました」


 攻略を優先するなら殺してしまった方がきっと良いはずなのだ。しかし、公の場であんなに苦労して加減した事もあり、なんだかとても勿体ない気もした。

 とは言うもののの、正直このまま居座られるのはかなり困る。

 それに再びダンジョンに挑むとなったとき、そのまま跡をつけられて、せっかく練った陣形などを崩されるなんてことになったら本当に最悪だ。


「クライシスさん。別にいいんじゃないすかぁ、パーティーに入れても。だって、あと少し人手が欲しいところだったんスよね?」


「まあそうなんですが……」


 彼らの加入を認めればパーティーメンバーが5人になってしまうし、陣形や連携などに色々な問題が出る。

 だがしばらく考え込んだ後、おもむろに立ち上がりクライシスは離れ屋の外へと出て行った。



 ダリアは朝からずっと門の前で土下座をしていたが、クライシスの姿に気づくとすぐさま顔を上げた。


「クライシス!! やっと、その気になってくれたのか?!」


「…………」


「オレっちはあんたと戦った時に、なんていうかビビッと来たんだ。コイツは他の冒険者とは別格なんだって! 笑われるかもしれないが、オレとラザルスにはマリーブ村を出た時から夢がある。いつか、オトギ話に出てくるような最強の英雄になりたいんだ。そのために、村を出てきた。でもまだ、オレ達はぜんぜん弱い。でもあんたとダンジョンに行けばっ、もっと必要な強さが分かる気がするんだ!だから頼む。オレ達とダンジョンに行ってくれ!!!」


「そんな話は一ミリも興味が沸きませんね。とにかく同行を認めても良いですが、条件があります」


「ほ、本当か?! それは?」


「まず、ワタシ様の命令を必ず聞くこと。秘密を守ること。もしあなた達を邪魔だと判断したら、狂気状態にしてダンジョンに置きざりにしてもかまわない。これに納得できるならいいですよ」


 クライシスは絶対に出来もしないだろうと思ってその条件を伝えたが、ダリアはそれを聞いた途端にとても嬉しそうにこう答えた。


「あ、ありがとう! 感謝するぜっ!」


 思い通りに追い払えなかったために、クライシスは兜の中で渋い顔を浮かべる。

 しかし、素直に喜ぶダリアを見ているうちに、心の中の不快な感情や拒否感などもだんだんと薄れていった。彼はその理由がすぐには分からなかった。



 その後、クライシスは仕方なく出発の日を伝えることにした。


「分かった。すぐにラザルスにも教えに行くよ」


 それを聞くとダリアはすぐに立ち上がり、ようやく宿屋から去ろうとする。

 だが去り際になり、一つ気に食わないことがあったクライシスは彼のことを呼び止めた。


「あなたがどんな英雄になりたいのかは知りません。ですが他人からの嘲笑を恐れるくらいなら、そんな夢は捨ててしまえばいいのだ!」


「っっ! ……おま…」


 ダリアは言い返すことが出来なかった。ただ悔しそうに奥歯を噛みしめるしかなかったのだ。

 すると、クライシスは言った。


「いいですか、己の夢を語るならもっと胸を張るべきです。大衆に媚びる必要などない。我々は冒険者なのですから」


「……ああっ! そうするよ!」


 そうしてダリアは、彼の本来の宿のある村の中央方面へと帰っていた。


 ダリアが去った後、後ろからペペロンチーノが近づいて来てこう言った。


「……珍しいですね。クライシス様が他人にあんな風にお言葉をおかけになるなんて」


「ええ、そうですね」


「もしかして、彼も冒険者としての才能があるのですか?」


 それを聞くと、クライシスはフッと鼻で笑いながらこう言った。


「そんなことはありませんよ。ただ真っすぐなだけの馬鹿です。 どこかの誰かみたいにね」


「ん??」


 彼の言った意味が分からず、ペペロンチーノは首をかしげた。




 ──そして数日後。

 クライシス達のパーティーは再びエルダーツリーダンジョンに再挑戦していた。


 上層の森の中、ふと道端に生えていた奇妙な野草を見つけたクライシスは、それをつまむといきなり口の中に放り込む。


「クライシスさん?! そんなの食べて大丈夫なんスか?」


「モグモグ…… ええ。これは人面花といって、こういった自然地形型のダンジョンでみられる植物魔物なんですよ」


「へぇー……え、魔物?」


 するとクライシスは、近くの茂みからもう一つ人面花を探してきて、それをマルティに差し出した。

 名前の通り花びらが人間の髪の毛のようで、花弁の構造が苦痛に表情を歪ませた人間の顔のようにみえる。


「おえ、気持ちわる」


「そうですね。見た目はインパクトがありますが、味はなかなか美味しいですよ。珍味のような感じで」


「えー、そうなんスか? ふーん」


「はい。まあ、食べると普通は狂気状態になってしまうのですが、ちょうど剣闘技大会で頂いた天界の鈴もありますからね。この機会にぜひ味わってみてはどうでしょうか」


「うへへ… え、遠慮しまーすッ!」


 マルティはハッキリとそう告げると、横で話を聞いていたペペロンチーノと共に、逃げるように上層の奥へと駆けていってしまった。


「うーむ。そんなに嫌ですかね? モグモグ」


 彼女らから試食を拒否されると、クライシスは少しだけがっかりした様子をみせた。

 そして、手の中の人面花を再び口の中に放り込む。

 狂戦士は狂気に関する精神異常にはかからないのだ。少なくとも普通の方法では。


 また、クライシス達の少し後ろからは、ダリアとラザルスの二人組が並んで後をついて来ていた。


「……ダリア。今更だけど聞いていいか?」


「なんだよ。相棒」


「なんでこんな事になってるんだ? あの兜の冒険者って、決勝戦で危うくお前を殺しかけた奴だろ。なんでそんな奴と、ダンジョン攻略なんかに……」


「まあまあ。そんな小さいこと気にすんなって」


「いや。僕はダリアが心配で!」


 大会で大けがをした相棒がその日から姿をくらましたと思ったら、数日後にあまりにも突飛な話を持って帰ってきたのだ。

 一時は脅されているのかとも疑ったほどだ。

 ラザルスが不安になるのも無理はない。


「ラザルス。まあきけよ。きっとこのダンジョン攻略は、オレ達にとっていい経験になるはずだぜ。直接戦ったから分かるけど、クライシスはかなりの凄腕冒険者なんだよ」


「ああ、それは試合を見ていたから僕にもなんとなく分かるよ。 ……でもさ、いきなり中層なんて荷が重いっていうか」


 そういうと、ラザルスは辺りをキョロキョロと見渡した。


「中層には、あのドライアドより強い魔物がわんさかいるらしいじゃないか」


「まだビビってんのかよ。あれはあのクソ盗賊が途中で逃げたせいだって言ってるだろ」


「そうかなぁ……。いつの間にかこんなに深いところまで来ちゃってるけど、やっぱり僕たちにはまだこのダンジョンのレベルは早い気がするんだけど」


 ラザルスは以前の敗北からか、どうにも自信がないようだった。

 それを見てダリアは言った。


「たしかに、この前来た時は無様に逃げ帰ったさ。けどいつまでも石集めばかりしてるわけにはいかねーだろ。それじゃあオレ達が夢みた英雄にはなれない」


「うん……」


「今が前に踏み出す時なんだ!もっと大局をみるんだ。着脱換装っていうだろ?」


「は? いや、意味わかんねーよ。もしかして着眼大局か?」


「ああー!ソレソレ」


「ていうかさっきから気になってたんだけど、この声ってクラちゃんじゃないか?」


「は? お前こそ何言ってんだよ。クライシスがあんな美少女のわけないだろが」


 と、その時。彼らの前方にいたクライシス達が不思議な壁の前で立ち止まっている事に気が付いた。

 パーティーは、中層の入り口へとたどり着いたのだ。


「さあ、皆さん。ピクニックは終了ですよ。これから作戦を開始します。そしておめでとう。今日でこのダンジョンの宝は、すべて我々の物です」


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