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第31話 下剋上の剣

 奥義(アーツ)とは、ジョブや適性に関係なく、努力次第では誰にでも身に着けられる戦技である。

 そして、瞬間的に大きな威力の出せる奥義(アーツ)ならば、自分よりもステータスで上回っている格上相手でも下剋上が可能なのだ。


 しかしダリアが奥義(アーツ)を繰り出す度に、クライシスは常にそれを上回る威力の奥義(アーツ)ではね返していた。



 ──二人の間で、互いの剣が幾度もぶつかり合う。

 ダリアは不器用ながらも、積極的に攻めつづけた。一方クライシスは、全ての斬撃を片手で捌き続ける防御的な立ち回りに徹した。

 だが先ほどとは違い、クライシスはどんなに激しい攻撃を受けても、その場から一歩も後退するようなことはしなかったのだ。


 ─ガキィーーンッ


 クライシスがダリアの大振りを受け止め、そのまま両者は鍔迫り合いになる。


「へへ…… お前、結構やるじゃねーか。マリーブ村最強剣士のオレっちが、ここまで苦戦するとはな!」


「……フッ」


 クライシスは小さくため息をつく。

 そして、木刀で攻撃を受け止めていた状態のままダリアの体を持ち上げると、剣を持つ腕を軽く振り払った。


「うわぁあぁ!」


 本気を出すと死んでしまうため、クライシスはかなり腕力をセーブしていたが、それでもダリアはそのままステージ端まで投げ飛ばされてしまった。


「なんて馬鹿力だ。くそっ」


 起き上がったダリアは、すぐに剣にオーラを溜め始める。そして再び奥義(アーツ)を発動させた。


「さっきの倍のマナを込めてやったぜ。つまり威力も倍ってことだ! 今度こそくらいやがれ!オーバースラッシュ!!」


「はぁー、まったく甘いですね。さっきと同じ攻撃なんて安直すぎます」


 クライシスはガッカリしながらそうため息をついた。

 そして今度は三回の弱連続攻撃で奥義(アーツ)の威力を相殺するのではなく、攻撃を防ぐために適した技を繰り出そうと抜刀の構えをとった。


「そんな単調な攻撃では、ワタシ様には一生通用しませんよ!」


 クライシスは、正面から突進してくるダリアに対して木刀を振りぬいた。

 一見すると、何てことない逆袈裟斬りだ。しかも剣を斬り上げるスピードはかなり遅い。

 しかしその分、この王域不可侵(グレイルサーガ)というカウンターアーツの一撃はとてつもなく重かった。


 オーラを纏ったダリアの鉄剣が木刀に触れた瞬間、まるで技の力が吸い取られてしまったかのように、ダリアの鉄剣からマナの輝きは消え失せた。


「あれ? なんで急に」


 同時にそれまでの助走などで増した斬撃の勢いも消失し、思わずダリアは剣を落としてしまう。


「し、しまった」


「隙だらけですよ」


「ッ!!? …ぐふっ!!」


 間髪いれず、クライシスは稲妻のように鋭いハイキックを体側部に浴びせる。ダリアは地面を転がり回った。


「チッ…… ぺッペッ! くそッ!」


 加減したため骨は折れてはいないだろうが、ダリアは右腕を抑えながらこちらを睨んでいた。

 地面を転がったことでダリアの唇は切れており血が流れている。満身創痍のようだ。


 そんな彼の様子を見たクライシスは、純粋な気持ちからこう言った。


「すみません、痛かったですよね。しかしワタシ様にも、弱者をいたぶる趣味はないのです。そこでなのですが、この辺りでそろそろ負けを認めてはいただけませんか?お互いに利があると思うのですが」


 それを聞くと、ダリアはいきなり大きな声で笑い飛ばした。


「ハ、なめんなよ?まだ俺は負けてねー! 起承転結の逆転劇を見せてやるぜ」


 すると、観客席の何処からか、ラザルスの突っ込みが聞こえてきた。(おい馬鹿! それをいうなら起死回生だって)



「そうですか。 ……ならば、もう少し相手をしてやる」


 そう言うとクライシスは、地面に落っこちていた彼の剣を蹴って渡す。

 ダリアは不愉快そうな表情を浮かべながらも、その剣をしぶしぶ受け取った。


 また、剣闘技大会を見に来たザクロ村の人々も、激しい奥義(アーツ)の応酬を目の当たりにして大興奮していた。


『すごいぞー!技の応酬!これぞ冒険者の戦いだぁぁ!! 狂戦士(バーサーカー)クライシス。凄い剣技だ!』


(うぉおおおおお!!!)


『それに比べて今度は剣士(ソードマン)ダリアが劣勢じゃぞ。やっぱり最下級のジョブじゃあ無理があったようだな! このままだと無~様に負けてしまうぞ!?!どうする??このまま終わるのか!』


(ブーザマッ! ブーザマッ!)


 会場からブザマコールが沸き起こる。


(若造! ひっこめ~!)


「うっせぇっ!!!お前はさっき負けたんだから黙ってろよ!」


(く、若造がぁ……)


 ダリアの準決勝の相手だったその冒険者は、悔しそうに口を閉ざした。


 そしてふとダリアは、マイク片手にノリノリの村長に向かってこう話しかけた。


「──なあ、レフリー爺さん?」


『ん?なんじゃ。まだ剣闘の途中だぞ』


「いやそうだけどさ。それより、もう少しオレっちのことも応援してくれよ。へへ、色々鳥の世話とか手伝ってやっただろ?」


『フン。そんなの関係ないわ』


「そんなぁ」


 村長の思わぬそっけない態度を受け、思わずダリアは肩を落とす。


剣士(ソードマン)ダリア。先程も言ったが今は戦いの最中だ。余所見してる暇はないと思うぞ』


「え? ……っ!」


 すると村長と談笑中だったダリアに対し、再びクライシスの前蹴りが炸裂した。


「隙あり」


「ぐはッ!」


 重く鋭い蹴りが直撃し、ダリアの胴体は大きく吹っ飛ばされる。


「痛ッテ~……」


 村長は蹴りの寸前にその場から退避をしていたが、ダリアはまたまた攻撃をくらってしまった。


「フフフ、よほど蹴られるのがお好きなようですね」


「く、くそーー!」


 ダリアは剣を構える。しかし今までのように無策で斬りかかっても、有効打にはならないことは流石に理解していた。

 自分よりも上級のジョブを相手にするには、必ず奥義(アーツ)が鍵となるのだ。もしくは攻撃魔法だが、このウポンドーハでは関係がない。


「力でダメなら、速さだ!」


 するとダリアは、剣士(ソードマン)のジョブスキルを発動させる。

 自らの剣を胸の前で水平に構え、もう片方の手でまるで魔法のエンチャントのようにマナを滑らしていく。


「一糸細剣……。発動!」


 これは、一定時間どんな材質の剣でも軽量化させ、間接的に剣の扱いを巧みにするというスキルだった。

 だがデメリットもあり、武器を軽量化するため同時に威力も大幅に減退するのだ。


「ふむ、今更スキルですか。はたして、上手くいきますかねー」


「分からないけど、今はこうするしかない。 ところでお前はスキルを使わないのか?いいんだぜ。オレっちだけじゃなくても」


「いいんですか? でもやめときます。その瞬間、死んでしまいますから」


「なめやがって!」


 スキルの発動が完了すると、ダリアは自分の使えるもう一つの奥義(アーツ)を当てるため、姿勢を低くし突きの構えをとった。

 そうして間合いを測りながら、じりじりと相手に詰め寄る。


「ふむ、その構え。片手剣最速の突き技のクイックブレードですね」


「そうだぜ。この一撃で決めてやるぜ」


「フ、面白い。 ……ならばワタシ様も真似させてもらいましょう」


「は?!」


 するとクライシスは、正面にいるダリアとまったく同じ構えをとった。

 しかしそれを見たダリアは、勝利を確信して思わずほくそ笑む。


 ─コイツ、さては調子に乗って油断したな。こっちの方がジョブスキルの上昇補正があるから突きのスピードはずっと速いんだ。今までやられた分、後悔させてやるぜ!─


 奥義(アーツ)や魔法は他のジョブでも使えることがあるが、ジョブスキルに関してはそのジョブ固有の物だ。

 同じ片手剣(スラッシュ)奥義(アーツ):クイックブレードの打ち合いのように見えて、実は二人の前提条件は平等ではなくかけ離れていた。


 ─マジで奴の方がオレより強いんだろうが、そのおかげでこっちをスゲーなめてる。それが付け入る唯一のチャンスだ─


 両者は剣の切っ先を相手に向けたまま、実際の時間は一瞬だが体感的には数時間にも感じられる間、にらみあっていた。会場全体が高い緊張に包まれる。

 チャンスは一度きり。互いに攻撃を完璧に決めるための最良のタイミングを見計らっていたのだ。


 だがそんな時、観客席のどこからかペペロンチーノの声が響く。


「く、クライシス様ー! 頑張ってくださーいっ!」


「だ、ダメだよペペロンチーノお姉ちゃん! こんな時に声なんてかけちゃ!」


「え? でも、マスターのこと応援しなきゃ……だよね?」


「はぁ~、相変わらずのバカッスねー」



 緊張と静寂の中、ひときわ目立つペペ達の声はクライシスにもちゃんと聞こえていた。

 彼は羞恥を感じ、心の中で思わずクソデカため息をついた。


 そしてダリアは、クライシスが仲間の声に僅かに気を取られた瞬間を見逃さなかったのだ。


「い、今だっ! 瞬速剣(クイックブレード)!!!」


「ッ?!!」


 ダリアの手元から一直線に放たれた高速の突きは、クライシスの首筋へと、一気に弾けるように飛んで行った。


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