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第25話 作戦会議の話(後編)

「え、マジっスか?」


「流石クライシス様です! それで、その作戦とは?!」


 クライシスは言った。


「簡単なことです。ぜんぶ燃やしてしまえばいいのですよ。行く手を塞ぐ魔物も邪魔な木々も、階層ごと灰にしてしまえば問題は無いでしょう?」


 それを聞くと、マルティは少し面食らったような様子をみせた。


「ええっ、中層の森に火をつけるってことスか?!」


「そうです」


 マルティが困惑するのも理由があった。

 ダンジョンの構造や環境を大きく変えるような行動は、危険な魔物の発生などの異常事態を招く原因となるためタブーとされていたからだ。

 しかしクライシスほどの強者は、そのような小事などいちいち気にも留める必要もなかった。


「な、なるほど。それはなかなか豪快な作戦ッスね? でもですよクライシスさん。たしか龍樹には炎が効かないんじゃあ?それだと中層を燃やしても意味ないと思うッスよ」


「いえ。龍樹は弱い炎が効かないというだけで、植物魔物なので炎が弱点なことには変わりないのですよ」


「へぇー、そうなんスかぁ……」


 クライシスの作戦を実行すれば、きっとこのダンジョンも出禁になる。

 もしかしたら危ない橋を渡らなくても済むかと思ったマルティだったが、そうはならないと分かり諦め肩を落とす。


「はぁ。まあこうなったら最後までトコトンやるしかないッスよね!」


「ありがとうございますマルティさん。頼りにしています」


 それを聞くと、マルティは少し照れ臭そうに頬を指でかく。


 また、ペペロンチーノはこう言った。


「マスター! この作戦なら、次こそ中層を突破できますね!」


「ええ。ですが、この火計作戦を実行するには、まだいくつか問題点が残っているのです」


「問題ですか?」


「はい」


 現状、問題点は主に二つある。


 小さな火種を生み出すこと自体は、ペペロンチーノやクライシスにも出来る。

 しかし中層全体を覆う大炎となると、灼熱の渦奔流(ハイエンドブレイザー)でも火力不足であった。

 彼らは魔法術師ではないため、そこまで強力な火炎魔法を使えない。

 よって、何か他の手段でより大きな炎を生み出す必要があるのだ。


 もう一つは、どんな方法であれど大炎が生み出されるまでにはそれなりの時間がかかるという事だ。

 クライシスたちはその間、魔物の攻撃を耐える時間稼ぎをしなければならない。

 今のところ、そのために最も有効な手段として狂戦士(バーサーカー)スキル:戦意狂渇が候補だったが、手元にSランクの極大剣がないため上手く操れなかった。


 パーティーメンバーを巻き込んでしまえば、余計に混乱を招き、最悪こんどこそ全滅の危機に陥るだろう。


「つまり……、どうにかして凄く大きな炎をつくらなくちゃ意味はなくて、その間、大クモや龍樹の攻撃も防ぐ方法がいるってことですねっ」


「そうです。戦意狂渇ならある程度は魔物の勢いをそぐことは出来ます。しかし残念ながら、ワタシ様には森全体を覆いつくすほどの火炎を発生させることは出来ません」


「そっか。それで私の高位火炎魔法が必要というわけですか」


「ええ。ですが、それに加えてさらに炎の勢いを上げる何かあるといいのですが……」


「う~ん、そうだっ! 油を森に撒いたらいいんじゃないんですか?ほら、油ってよく燃えるし」


 しかしマルティはこう言った。


「はぁ?何言ってんだよ。油なんてザクロ村にあるわけないじゃんよ」


「えっ、そうなの?」


「うん。この辺りじゃ油なんて高級品スよ。 油を作ってる街はかなり遠い所らしいし、そもそも滅多にザクロ村には届かないから」


「ふーん……」


「もし道具屋にあったとしても、まあ、森を焼き払えるほどの量はないんじゃないかなー」


「えー、そうなんだ。あーあ、せっかくいいアイデアだと思ったのにな~」


「ははは、ドンマイッス」



 その後、三人は長い時間思案を巡らせたが、結局良い打開策を思いつくことは出来なかった。


「やっぱり無理なんじゃないスか?森を丸ごと燃やすなんてさ」


「……そうかもしれませんね。 この作戦が良いと思ったのですが」


 炎やスキルはそれぞれ有効ではあるが、それぞれ大きな欠点があり上手く使うことが出来そうに無かった。

 補填案も出ず、クライシスは諦めようとしていた。


「いいえ、マスターの作戦はとても素晴らしいです! だからもっと、何か改善策があるはずですよっ」


「ありがとうございます、ぺぺさん。 ですがそろそろ他の攻略法も模索し始めましょう。なにせ時間は有限ですから」


「うぅ、はい……」



 するとその時、離れ屋の外からプラムがやってきた。


「あれ? 邪魔しちゃったかな」


 クライシスはかぶりを振ってこう答える。


「大丈夫ですよ。プラム、何か用ですか?」


「うん。大したことじゃないんだけどさ。姉ちゃんがケーキ作ったから、みんなもどうかなって」


「え、ケーキっ!? (じゅるり)」


 それを聞いたペペロンチーノは、とたんに目の色を変えた。

 別にグレイテストランドでは甘味が珍しいとかでもない。

 それとは関係のない個人的な嗜好の問題だ。


「ちなみにさー。なにケーキとか分かるぅ? ほら、ベリーケーキとか。チョコレートケーキとかさ」


「えっ? さぁ、まだ見てないから分かんないよ。でもとっても甘い匂いがしたよ」


「ふぅーん。ふぅーん?」


 そんな彼女の物欲しそうな顔をみて、クライシスは思わずくすりと笑った。


「そうですね、ではお言葉に甘えて頂きましょうか。 フフフ、我慢は体に毒って言いますし。ねえペペロンチーノ」


「はい!おっしゃる通りです! えへへ」


「アタシはケーキよりも蒸し饅頭の方が好きッスけど。まあ大賛成ッスね」


 そうして彼らは甘い砂糖の香りに誘われるまま、離れ屋を出てプラムの家へと向かった。


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