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第16話 クエスト

 どうやったのかは不明だが、エルダーツリーダンジョンの詳しい情報を仕入れたクライシスは、さっそく攻略のために必要なアイテムの収集に取りかかった。


「まずはトーチを大量に集めてください。植物系魔物は火が苦手ですから。きっと上層はトーチがあれば無傷で突破できるでしょう」


「はわわっ、流石クライシス様ですっ! 正直、昨日は少しだけ不安でした。だけど、まさかこんなに早く、しかもこんなに詳細な情報を入手なさるなんてっ! ほんとにスゴ過ぎです!!!」


「フフフ、ざっとこんなものですよ」


「でも冒険者はみんな、ダンジョンの秘密を話したがらないものですよね。一体どうやったんですか?」


「フフフ、フ…… 初心者狩り(スマーフィング)って知ってますか?」


「ほぇ??」


 その後、ペペロンチーノが、初心者狩り(スマーフィング)について詳しいことを尋ねても、クライシスは情報収集に使った(えげつい)方法を教えてくれはしなかった。

 しかたがないので彼女は諦め、二人は昨日のうちに場所を確認済みの道具屋へと向かった。


「松脂は買うとしてぇ…… マスター。他に何が必要でしょうか」


「ダンジョンにはドライアドも出るそうです。なので幻覚除けもいくつか持っていきましょう」


「分かりました。そのようにします」


 ドライアドとは、精霊種に分類される植物系の魔物だ。

 近くの植物を自在に操ることができ、ときには植物だけでなく森に迷い込んだ旅人に暗示をかけ、二度とそこから出られなくするのだ。


 クライシスたちは情報を元に必要な物だけを買うと、道具屋をあとにした。

 他にも回復ポーションなどが売ってあったが、調薬後に魔法術師がマナを込めた物でなければ即効性がなく、ダンジョンではあまり意味がないのだ。

 道具屋に並んでいたポーション類は、どれもマナがほとんどないか全く無い劣悪なものばかりだった。



 その後クライシスたちは、トーチに使う薪を集めにギードヌの森へと向かった。

 ギードヌは加工には向かないが、可燃性は十分にあるらしい。


「集めた枝木でトーチをいくつか作ってしまい、午後になったらマルティさんの所に行きましょうか」


「う~ん。あの女の子をパーティーに加える必要は本当にあるのですか? 私、あの子がマスターのお役に立つとは思えないんですけど」


「ペペさんも、道具屋にあったポーションを見ましたよね?あんな物は使えませんよ。我々の頼りになるのは、気功師であるマルティさんの持つ回復能力なのです」


 クライシスは気功師の持つスキルの中に、自分や他者の自己治癒力を高める気功活性(シェアム)というのものが存在していることを知っていたのだ。


気功活性(シェアム)は一番基礎的なスキルらしいので、気功師なら誰でも問題なく使えるそうです」


「へえ、そうなんですね……」


 ペペロンチーノは、例外なく自分のご主人様の目的達成を第一に考えていた。

 ただ、パーティーに自分の他に見知らぬ女の子が入ってくること自体はどうしても気に食わなかったので、やや複雑な気持ちだった。


「……ちょっと癪だけど、もしここにサナちゃんがいてくれたら、回復魔法の心配なんかしなくても良かったのになー」


「そうですね。でも彼女は召喚魔法で呼び出せませんから」


「はーあっ、あの子と同じパーティかぁ」



 そして村を出た二人は、クライシスが最初に飛ばされた洞窟ダンジョンのある森の近くまでやってきた。


 ギードヌは細い枝であっても、大きな鉈でも使わなければ叩き切ることが出来ないくらい丈夫だ。

 しかし、乾燥して自然に手折れた枝がこの辺りの地面に転がっていたのを、以前にクライシスは覚えていたのだ。

 細い枝でも何本もまとめて縛れば、立派な松明を作ることができるだろう。


「では、手分けして集めましょう」


「はい! ……あれ? クライシス様、あそこに誰かいますよ」


 ペペロンチーノは目視で、ギードヌの森の中にある人影を確認した。

 そこでクライシスたちの先回りをしていたのは、ザクロ村のプラムだった。


「あ、クライシス……!」


 プラムは自分の元に近づいてきたクライシスたちに気づくと、どこか気まずそうな様子でそう言った。


「プラム、またダンジョンに来ていたのですか? 冒険者に興味を持つこと自体は良いのですが、あまりお姉さんに心配をかけてはいけませんよ」


「うん。そ、そうだよね」


 プラムは初めて森であった時と同じ装備をしていた。荷物のほとんどない身軽な状態だ。

 だが彼らが今いるところは、洞窟ダンジョンからはやや離れたところにあった。


 昨日とは違う落ち着きのなさを感じ取ったクライシス。彼はプラムにこう尋ねた。


「もしかして、ワタシ様になにかお話があるのですか?」


「……ッ!」


 図星を突かれたプラムは、目を大きく開いて驚いた顔を見せた。

 そしてコクリと頷いた後、プラムはこう言った。


「あのね、実は僕きいちゃったんだ。夜中に姉ちゃんとクライシスが二人で話していたのを……」


「そうだったのですか」


「うん……」


 それはアンが実の両親の死について、クライシスに告白した時の事だった。


「もう10年も昔の事だから、姉ちゃんもとっくに気にしてないと思ってたのに。そんなことなくて、本当はずっと傷ついていたんだ」


 彼女はいつも人前では気丈にふるまっていたが、それは両親を失った辛い気持ちをがむしゃらに覆い隠すためだったのかもしれない。

 姉の苦悩に今日まで気づけなかったプラムは、ただ一人の家族として強い罪責感を感じていた。


「僕はまだ赤ん坊だったから、父ちゃんや母ちゃんの事もおぼろげにしか覚えてない。でも、姉ちゃんはきっとそうじゃないんだ。忘れられない思い出があるはず」


「ええ、そうでしょうね……」


 クライシスはあの夜に見たアンの涙を思い出した。


「……実はさ、父ちゃんの遺品がまだ見つかっていないんだ。たぶんエルダーツリーダンジョンにまだ残ってるはずなんだ。いつか見つけたいと思ってるけど、コボルトにも勝てない僕じゃあ、まだそこまで探しにいけないんだよ」


「コボルト?なんでコボルトの存在を…… まさかプラム、ダンジョンの中まで入っているのですか?!」


「うっ、それはっ! ……たまたまなんだよ!お願い、姉ちゃんには言わないで!」


「もう行かないと約束するならば」


「ほ。……とっ、とにかく! クライシスはすごい強いんだろ?だからお願いだよ。父ちゃんの装備品を見つけてきてくれよッ!!」


 プラムは胸の中に溜まっていた物を一気に吐き出すように、そうクライシスに懇願した。

 彼はまだ幼く、単純に未知や冒険への好奇心もあるのだろう。しかしダンジョンへあしげなく通っていたのは、自分の姉のためでもあったのだ。


 しかし全てを言い切った後、とつぜん彼は自らの発言を訂正した。

 ふと、自分の言っていることの愚かさに気づいてしまったのだ。


「……やっぱ無し。ゴメン、無茶苦茶なこと言っちゃったよね。流石に10年も前の物がダンジョンに残ってるはずがないよ。それに誰も攻略したことのないダンジョンの中で、どこにあるかも分からない古い装備品を探せなんて、無理な話だよね…………」


「……いいえ。その依頼、引き受けました」


「えっ?! でもっ」


「あなた方にはとても良くしてもらいましたから、そのお礼です。それに放っておいたら、あなたがまたフラフラとダンジョンに行ってしまいそうですからね。フフフ」


「へへ、クライシスぅ……」


「この最強の狂戦士、クライシス・フォン・ハイブラスターの名にかけて。必ずやダンジョンからあなた達のオーパーツ(大切な思い出)を持ち帰りましょう」


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