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第14話 準備段階の準備段階

 ギルドハウスから出てきたクライシスたちは、その足でザクロ村の中央通りへと向かっていた。


 先ほど、マルティを探索パーティーに誘うもあっけなく断られてしまったクライシス。

 だが次こそは、パーティーへの参加を承諾してくれるだろうという自信が彼にはあったのだ。


「彼女はきっと、この弱い装備をみて、我々を何もしらない新米冒険者だと勘違いしたのでしょう。ならば、あした会うときには万全の準備をしていけば、我々ともパーティを組んでくれるはずです」


「うーん、それで上手くいくとは思いませんけどぉ……。あのコ、かなりひねくれてそうでしたよ」


「まあ、ワタシ様に任せてください。良い考えがありますから」



 万全の準備というが、いくらクライシスでもすぐに一線級の強力な装備などをそろえられるわけは無い。

 彼の考えていた準備とは、少し地味だが基礎的で重要なものだった。

 それはつまり、情報収集だ。



 二人はオーパーツ専門の質屋に立ち寄った。すぐ近くにはエルダーツリーのダンジョンが見える。


 ─ダンジョンに行くのはまだこれからだよ。まだオーパーツなんて持っていないのに、マスターは何をするつもりなんだろう─


 そんな風に思っていたペペロンチーノだったが、するとクライシスは収納魔法を開けて、しまっていたゴーレムのコアを取り出すように彼女に命じたのだ。


「い、いいんですか? 変異種はレアだからって、あんなに欲しがってたじゃないですか。それなのに、こんなに簡単に手放すなんて!」


「たしかに少し惜しいですが、これもダンジョン攻略の為です。背に腹は代えられません。今はある程度の軍資金がほしいのですよ」


「そ、そうなんですか。 分かりました、いま出します」


 ダンジョンの魔道具ではないが、変異種の素材だってとても価値があるものだ。質屋はきっと高く買い取ってくれるだろう。

 しかしだ。おそらく200万ゴールドの値は下らないと思っていたのにかかわらず、実際に受け取った金額はそこから0が一桁足りなかったのだ。


「ふむ……なにかの間違いでは?」


「いいや、それで合ってるよ」


 質屋の店主は、いつまでたっても支払い金を変えようとはしなかった。

 金額には正直不服だった。だがどうにもならないので仕方なくクライシスはその金を受け取ると、質屋の泥小屋から出ていこうとする。


「悪いな。数年前まではまともな値で買いとっていたんだが……」


 去り際に質屋は寂しそうにそう語った。


「魔道具が作られなくなってから、素材としてのオーパーツの需要はめっきりなくなってしまったんだ。だから今はこれだけしか出せない。すまんね」


「……いいえ、これでも十分ですよ。どうもお邪魔しました」


 クライシスは手の中にある想定よりもずっと少ない軍資金を握りしめ、再び中央通りへと出て行った。



 次に向かったのは、何故か酒屋だった。

 ザクロ村の住人ではなく、主にダンジョン帰りの冒険者が飲むためのものだ。

 種類は少なく冒険者向けの粗悪品が主だったが、やけに度数が高い物がそろっているようだった。


「すみません。一番きつくて高級なお酒をもらえますか?」


「うそぉッ! まさかお酒を買うんですか!」


「はい。酒屋ですから」


「むむむ、クライシス様ぁ~っ いくらお好きだと言っても、こんな時までお酒を飲む気なんですかっ!!」


「い…いえ、これも歴とした作戦なのですよ。はい」


「ええー、ほんとかなぁ……?」


 結局、その後クライシスは、所持金の大半を使って店で一番高い酒を購入してしまった。

 不満があったペペロンチーノはしばらくジト目でクライシスを見ていたが、しぶしぶその酒を収納魔法の中にしまいこんだ。



(もうほとんどお金も残ってないのに、これじゃダンジョン攻略なんて無理だよぉ。はぁ……マスターがお酒なんて買わなければ、少しはまともな武器とかも手に入ったかもなのになっ!あーあっ)


 あれからずっと、ペペロンチーノはこんな調子でひとり言をぼやいているのだ。

 文句を言いながらも自分の後ろをピッタリとついてくる彼女に対し、クライシスは苦笑いを浮かべながらこう言った。


「ハハ。 まあ、なんとかなりますから」


「マスターのことは信じてますよ? だけど、ちょっと心配ですっ」


 そうこうしてる間に、彼らは次の目的地である道具屋にたどり着いていた。

 そこではダンジョン探索の時に重宝する鉤爪付きのロープや、魔物からダメージを受けたときに使う回復薬などが売られていた。


 道具屋に売ってる物なら何だって役に立つはずだ。少なくともただのお酒よりは。

 しかしクライシスは、その店に入ろうとはしなかった。


「なるほど、分かりました。 では今日は帰りましょうか」


「えっ 何も買わなくてよいのですか?」


「フフフ、今はいいのですよ」


(う~ん…… 一体どういうこと???)


 ペペロンチーノはわけが分からず首を傾げた。

 結局この日は、貴重なオーパーツを失ってまで、ダンジョン攻略には役にたたない高価な酒と交換しただけだったのだから。


 だがそれも、すべてクライシスの作戦であったのだ。



 ──そして、帰り道でのこと。

 人通りが多く賑やかな場所で、とある東方の恰好をした行商人が熱心に冒険者相手に客引きをしているのが目に入った。

 なにか珍しいオーパーツを売っているようで、彼の周りにはちょっとした人だかりが出来ていた。


「冒険者の皆様、ご注目! 今から20年前、たった7日で魔人に滅ぼされたという不幸な国、ハイブラスター王国をご存じですかい? コイツはその亡国の跡地から出てきたと噂されている、世にも恐ろしい呪われた王家の品物だよ! さあ、買った買った!」


 商人の話に興味深げに耳を傾ける冒険者たち。中にはゴールドを持って、早速いわくつきの品を購入しようとするものさえいた。


「クライシス様」


 心配そうに主を見つめるペペロンチーノ。

 するとクライシスはこう言った。


「……どうせ偽物ですよ」


「でもっ」


「いきましょう。まだやることは残っていますから。 あなたにも手伝ってもらいますよ」


 そうして彼らは、その場から立ち去っていった。


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