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第12話 ギルドハウス

 ダンジョン攻略にはそれなりの準備が必要だ。

 それが初めて挑む未知のダンジョンとなれば尚更だ。


 また熟練の冒険者ほど、攻略の準備にも力を入れる。狂戦士クライシスもその例外ではなかった。


「ワタシ様は十分強いので一人で行くことの方が多かったのですが、ダンジョン攻略は通常3か4人の冒険者パーティーを組んで挑むべしと冒険者ギルドによって推奨されています。ペペさん、この理由が分かりますか?」


 二人は今、ダンジョンの前にある探索拠点(ギルドハウス)に向かっている最中だ。

 クライシスの問いかけに対し、ペペロンチーノは元気に頷きながらこう答える。


「はいっ ええと……ダンジョンの中で不測の事態が起きた時に、一人じゃ対応しきれないより多くのことに対応するため。あとパーティーメンバーが多すぎると連携が複雑化して逆に攻略の成功率が下がってしまうから、最大4人までが推奨されているのだったと思います!」


「ええ、その通りです。よく答えられましたね」


「えへへ、ありがとうございますっ」


 クライシスに褒められ、ペペロンチーノはぽっと頬を赤く染めた。

 しかしすぐに、彼女の中に疑問が浮かぶ。


「……ところで、どうしてそんなお話をなさるのですか? まさか……」


「簡単です。ギルドハウスに居る誰かを、我々のパーティーメンバーに誘おうかと思いまして」


「ええッ そんなッ! ぐす…っ 私じゃ力不足ってことなんですかぁー!?」


 自分があまりに役立たずのせいで、ご主人様に見捨てられたのだと悲観したペペロンチーノは、涙目になりながらクライシスにそう訴えかけた。


「クライシス様! ずっとお傍に置いてくださいッ どうか見捨てないで!」


 それを聞いたクライシスは、自分の意思を明確に示すために首を左右に動かした。


「それは違いますよペペロンチーノ。あなたを失うつもりなど絶対にないしどちらかと言えば現状で力不足なのはワタシ様の方なのです。それにです。我々の中には回復魔法を使えるものがいないでしょう。万が一の時に治癒の手段を確保しておきたいのですよ」


「そ、そうだったんですか……」


 自分が的外れな勘違いをしていた事に気がつくと、ペペロンチーノはホッと胸を撫で下ろした。


「そういう事ならっ! 私も了解しました」


「ええ、良かったです。 できれば腕のいい聖職者(プリースト)が仲間になってくれればいいんですが……」


「ほへッ!? そ、そんなの絶対ダメですっ! 神聖魔法なんて、遠くから見るだけでも気持ち悪くなっちゃうんですから」


「あ。やっぱりダメですか。 ……冗談ですって」



 ザクロ村の中心部、エルダーツリーの周りは、まだ早朝にも関わらず数十人の人だかりがあった。

 皆、ダンジョンに向かう冒険者たちだ。


 上層にある魔鉱石などはオーパーツに比べると安価だが、手軽に安定してゴールドに変わる収入源となる。

 魔鉱石の再生速度はおよそ一日ほどで、深層の場合だとより多くマナを溜めこむため年単位にも及ぶ。

 そのような資源や富をわれ先にと手に入れるために、冒険者たちは集まっていたのだ。


 もちろんそこには、ゴブリンやコボルトのような魔物の討伐報酬も含まれている。

 たとえ雑魚でも、ダンジョンから出てくる魔物の数を事前に減らしておくことは、冒険者の大事な仕事の一つなのだ。



 そうしてクライシス達も、ザクロ村のギルドハウスへとたどり着いた。

 村で一番大きな石で出来た平屋の建物で、正面入り口には二頭の龍をあしらった紋章の旗が置かれていた。

 グレイテストランドにあるギルドには、剣と杖の旗が置かれていることが多かったはずだ。



 クライシス達が中に入ると、さっそくザクロ村の冒険者たちからは奇異の視線を向けられた。


「……へっへっへ。 見ろよあれ」


「なんだぁ? 見たことねえ奴らだなぁ?」

 

 まるで、自分たちの狩場にやってきた新参者を見定めるかのように、冒険者たちはジロジロとこちらを見てくる。

 やがてクライシスが大した装備を持っていないと分かると、ある者は興味を失い、ある者はさっそく嘲笑や罵声を浴びせてきた。


「帰れ、カース!」


「ヒューヒューッ」


 このような新人への嫌がらせは、何処にでもある珍しくもない光景である。

 だがしかし、自分の主が馬鹿にされ続けていることが我慢ならなくなったペペロンチーノは、クライシスの耳元に手を当てると小さな声でこう囁いた。


「ねえマスター。あれ、使っちゃいません?」


「ん? あれ、とは」


「はいっ、狂戦士(バーサーカー)スキル:戦威狂渇です! きっと、すごく静かになりますよぉ……」


「ペペさん???」


 そんなものを使ったら大変なことになってしまう。

 ここにいる冒険者だけでなく、村人含めこの村にいる全員が狂気に飲まれ、恐怖のままに死に至るだろう。使えるわけがない。

 まあもしスキルを使えば、そのうち生きてる人間は一人もいなくなるため、すごく静かにはなるだろうが……。


 きっとペペロンチーノは、装備の整っていない状態だと狂戦士スキルの威力を抑えきれないことを知らなかったのだろう。(多分)

 その話を聞いたクライシスは、戒めの意味を込め、やさしく彼女の頭を小突いた。


「ペペさんっ。このくらいの罵声は我慢しましょう。相手にするほうがマナの無駄遣いですよ」


「うぅ、分かりました。マスターがそう言うなら……」



 そう……。こんな事は日常的な小事に過ぎない。

 だがその時、クライシスは以前までの日常とは違うまったく別の違和感に気づいていたのだ。


 ─ゲンサイが何も仕組んでこないはずはないとは思っていましたが、やはりそういうことでしたか─


 とき同じく、ふとペペロンチーノもこう呟いた。


「それにしても、ここってやけにむさ苦しくないですかぁ? なんかこう……異様に筋肉質な冒険者しかいないような気がするんですが」


「そうですね。あなたも気づきましたか」


「え? それってどういう事ですか」


 するとクライシスは、ペペロンチーノにこう言った。


「今、我々の目の前にいる冒険者たちのジョブは、簡単に判別する限りだと戦士や盗賊、狩人系統の者たちばかりですよね。魔法術師や聖職者系統の冒険者は一人も見られません」


「はい。地域によってジョブ人気の差異はありますが、一人も魔法職がいないっていうのは流石におかしいですよね?」


「ええ。昨日、村を歩いたときでさえ、魔法の杖を持った冒険者とは一人も遭遇しませんでした」


「あ、言われてみれば確かにそうだっかも……。でもどうして?」


 クライシスは言った。


「これはまだ憶測ですが。ザクロ村周辺地域、もしかしたらファントムレギオン全域では、魔法という文化自体があまり発達していないのかもしれない」


「ま、まさか~ あり得ないですよ。ダンジョンからは魔法アイテムも手に入るんですよ?」


 ダンジョンとは、大昔に滅んだ古代魔法文明の遺物跡という説が強いのだ。

 冒険者たちの目的もオーパーツという強力な魔法アイテムであり、魔法が盛んにならない理由などないはず。通常だったらそうだ。しかし……


「ですが、それだったらワタシ様を向こう側の世界(ファントムレギオン)に転移させた理由にも頷けるのです。魔法職がいなければ、グレイテストランドに帰るために必要なスクロールも、作ることが出来ないのですから」

お話を読んでいただきありがとうございます!


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