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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛+α(短編)

実は一番幸せになったのは

作者: いのりん

 本日は帝国学院の卒業記念パーティです。

 その宴もたけなわとなった現在、卒業生が今後の決意や進路について順に短いスピーチを行っています。

 僭越ながら成績優秀者としてそのスピーチの締めを飾るわたくしは、こう宣言させて頂きました。


「わたくし、テレス・コープは本日をもってフール・アルルカン様との婚約を破棄します」


 会場がざわつきます。まあ、そうなりますよね。

 こういった場での婚約破棄宣言は、男性からは過去に数例あれど女性からは初めてみたいですから。


「ええっと君、色々と凄いね?ああ、ほめていないよ。婚約破棄には相応の理由が必要だと思うんだよね」


 あまり動揺した様子もなく、余裕のある薄ら笑いを顔に貼り付けたフール様から横やりが入ります。

 そうそう、最近めっきり話す機会も減っていましたが、この方はいつもこんな感じなのでした。


「まず、いままでのご自身の行動を振り返ってみてはいかがでしょうか」


 婚約は親同士が勝手に決めたものでした。

 フール様は次男とは言え伯爵子息、いい縁談だと父は言いました。

 わたくしには好きな幼馴染がいるのでショックだったのですが、貴族の世界ではよくあることなので仕方がありません。

 頑張って割り切り、いい婚約者となろうと努力してきました。


 しかし、彼はそうは考えなかったようです。

 親睦を深めるための定期外出の約束はすっぽかし、大衆の前で貶めるようなことも平気で言います。このまま結婚しても幸せになれる未来は見えませんでした。

 それでわたくしは、円満な婚約破棄を実現できないものかと情報を集め、本日行動を起こすことにしたのです。


「あ、もしかして言動に気に入らないところでもあった?でもその程度で一方的に婚約破棄は無理だよね」

「そうですね。なので、フール様のルームメイトだった彼にもっと強い理由を証言して頂きましょう」


 そこでわたくしの前に出てきてくれたジン・ボクネン伯爵子息の姿を見て、フール様はわずかに顔をしかめました。おそらく、今から彼が発言する内容が致命的なものになると勘付いたでしょう。

 それに気づける聡明さがあるのなら、なぜもっと早いうちに行動を是正しなかったのでしょうか。いえ、できなかったのでしょうね。


「『真実の結晶』を手にここに証言する。幼馴染のテレス・コープ子爵令嬢より相談をされてフール・アルルカンについて調べた。テレス嬢と定期的に外出する約束を反故にした日、彼はそのまま学生寮を抜け出し外泊していた。そして、その行先は毎回、彼の伯母でもあるローズ・チューべ女侯爵邸だった」


 嘘をつくと手が焼け爛れる魔道具を用いてのジンの証言に、会場は水を打ったように静まり返ります。

 それもそのはず、ローズ様は「放蕩侯爵」と異名がつくほど奔放で有名なお方ですから。


 若くして未亡人となった後ずっと再婚せず、周囲にうら若い男性を数多く侍らせていると噂のローズ様。

 そんな彼女と密会を重ねるというのは色々邪推されても仕方ないと思うのですよね。


「といわけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()婚約を破棄してくださいませ」


 裏を返せば、そうすれば「侯爵邸でなにが行われていたか」は追求しないという意味です。

 というのも、この国の法では既婚済の貴族の火遊びは厳罰に処せるものではなくローズ様は絶大な権力をお持ちなのです。蛇のでそうな藪をつつくこともないでしょう。


 それにわたくしはフール様に大きな恨みがあるわけではありません。婚約者としての態度に思うところこそありましたが、もともと親の決めた婚約でお互い恋愛感情もなかったですし、円満に婚約破棄が出来ればそれで満足なのですから。


 もっとも、彼の実家は厳格なので今回の醜聞が耳に入れば家として何かしらの処分を科すかもしれませんが、それはわたくしには関係のないことですよね?


 その後、フール様は婚約破棄に同意され手続きは円滑に進みました。

 張り付けた笑みの裏でなにかを諦め諦観したような顔が印象に残りました。


 きっと彼には彼なりの行動原理があったのでしょう。報われないと半ば分かりながらの恋に殉じたのかもしれません。

 その後、アルルカン家とローズ女侯爵様の間で話し合いが持たれたのち、フール様は男性用修道院に送られたそうです。


 一方のわたくしはと言えば、短い交際期間を経た後すぐに幼馴染のジンと結ばれることになりました。家格が伯爵家というのもさることながら、以前のような婿入りではなくわたくしが嫁入りする形になるので、よりよい縁談ということになります。

 婚約破棄の際に色々と助けてくれたことで彼との距離は一気に縮まり、縁談がまとまったときには両親もとても喜んでくれました。


 ジンは結婚してからも昔から変わらず、正義感の強い誠実な男性でした。

 まあ少々鈍感なところもあって、父から縁談話を送った時も恩義からだと誤解している様子だったと聞きましたけれど。


 フール様との婚約期間中に振り回されはしたものの、終わってみれば今回の件で一番幸せになったのはわたくしだったように思います。


 でも、それも今後のわたくしの努力次第ですよね。大好きな彼に愛情が伝わるように前向きに頑張りたいと思います。


 そう決意して窓の外を見ると、暖かな朝日の中を鳥が飛んでいくのが見えました。



~ジン・ネンボク視点~


 テレスと結婚できた。

 俺は昔からこの聡明な幼馴染のことが好きだったのでとてもうれしい。


「ジン様、今日はどこに出かけましょうか」

「テレスの行きたいところに行こう」


 テレスはいつも俺のことをよく立ててくれるし、笑顔と優しさを絶やさない。

 ただ、それに胡坐をかいてはいけないと自戒する。


 フールは聡明な奴だったが、テレスとの縁談が持ち上がって少したった頃から愚かな行動が目立つようになり、結果愛想をつかされた。


 テレスを大切に思うのならルームメイトだった当時の俺は、奴を強く諫めるべきだったのだろう、しかし俺はそれをあえてしなかった。理由はただの嫉妬だ。二人が仲良くするのを見るのはつらかった。


 それで、テレスから円満な婚約破棄を実現するために協力してほしいと相談にされた時、喜んで協力した。我ながら浅ましいと思う。


 その後テレスの実家、コープ家から縁談が来たのはフールとの婚約破棄に協力した恩と我が家の家格によるものだろう。

 俺個人の魅力で彼女に好かれたわけではない、いうなれば名家に生まれた運と少しの義理によって結婚できたということだ。


 両親からは「早く世継ぎを」などど望まれているが、そういう行為をするのは彼女が義理など関係なく俺を好きになってくれてからにしたいと思う。


 今回の件で、実は一番幸せになったのは俺だろう。

 しかし、幸運に胡座をかくのではなく鋼の意志で自らを律していこう。


 そう思い視線を上に向けると、高い太陽と青空がどこまでも広がっていた。



~フール・アルルカン視点~


「本当に伯母上の言ったとおりになったな……」


 男性用修道院への道を歩きながら口からそんな言葉が出た。

 従者はおらず、鞄一つに身一つ、もと伯爵子息の旅路とは思えない旅装だ。

 ただそれに不満はない。いろんなしがらみから解放され肩の荷が下りた気がする。


 テレス嬢との婚約が決まって以降、僕はずっと気まずい思いをしてきた。

 というのも、テレス嬢とジンの奴が相思相愛のなのは、はた目から見てバレバレだったんだよね。

 それで、僕がテレス嬢と仲良くしているとジンの奴は顔を曇らせるんだ。


「僕が好きなのはジンだったのに.....」


 我が家は古い価値観が強く厳粛だ。

 この気持ちをカミングアウトとしたところで理解は得られないだろう。


 そこで、昔からよくしてくれている伯母上に相談したところ「同性愛」なるものがあることを教えてくれた。

 伯母上は聡明で素晴らしい方だ。色々と悪い噂が流れているがすべてデマだ。


 若くして未亡人となった後ずっと再婚しないのは死去した夫を深く愛していて操を立てているから。周囲にうら若い男性が多いのは、売れ残りやすい体の弱い男性の奴隷や孤児を積極的に引き取り、英才教育を施した後に雇用しているからだ。


 そして伯母上は彼らに色目を使うことなどなく、彼らが協力して業務を遂行するのを慈愛に満ちたほほえみを浮かべながら見守っている。


 そんな伯母上に「ジンへの好意は隠し、彼の恋愛が成就するように応援したい」と伝えるとアドバイスをくれた。


 曰く、おそらくテレス嬢は両親に似て聡明で誇り高い娘だから、自分のもとに足しげく通えばあちらから婚約破棄を切り出してくるだろうとのこと。


 また、伯母上がそれで罰を受けることはなく、僕は「やましい事実はないが周囲に疑念を抱かせたことに責任をとらせる」と言う名目で実家により男性用修道院送りにされるであろうことまで読み切っていた。


 婚約破棄までの間、テレス嬢への態度が必要以上に悪かった自覚はある。

 でも僕からすれば憎い恋敵に塩を送っていたんだから、それくらいは勘弁してほしいものだ。


 加えて言うと、元々アルルカン家を継ぐのは兄だし、万一の時はもっとも優秀な三男がいる。

 それで、僕は婿養子に行くことになっていたんだけど、僕の実家は今回の婚約破棄騒動で損をした以上に、伯母上に貸しを作れたことが得になると考えている様子だった。結局、我が家は誰も損しない形となった。



 僕の初恋は失恋で終わってしまったが、男性用修道院は男の園だ。同じ嗜好をもつ相手もいるのではないかと伯母上は言っていた。


 伯母上とは定期的に手紙をやりとりする約束をした。理解し気にかけてくれる相手がいることは幸せだ。


 実は今回の件で、一番幸せになれるのは僕ではないかとすら思う。


 前を見て歩みを続ける。

 夕日によってのびた影の先には、美しい赤色に染まった道がどこまでも続いていた。



~ローズ・チューべ女侯爵視点~


「ありがとう、早速読ませていただくわ」


 自慢の従者がフールからの手紙を持ってきてくれた。

 私は早速自室にこもり、鍵をかける。


『男の園ではどんな恋愛模様が展開されているのかしら、腐腐腐...』


 おっとっと、つい日本語が出てしまった。興奮した時の癖ね。


 今、女侯爵なんて大層な地位についている私だが、 前世はバス旅行中の事故で死亡したしがない古参腐女子だった。

 それで、前世の記憶を取り戻した際、この世界が昔遊んでいた乙女ゲームの世界に酷似していることに気づいたのよね。


 私は名無しのモブとして転生していたんだけど記憶を頼りに物語がハッピーエンドを迎えられるように立ち回った。

 結果、ヒロインの娘は見事王子とくっつき王妃となった。


 そのついでに悪役令嬢が当時の王子から婚約破棄されたりもしたんだけど、その件で悪事の証拠集めをした実績やヒロインが恩を返そうとしてくれた結果、私もサブ攻略対象であったイケオジ侯爵様との良縁に恵まれて今の地位についたわけだ。



 残念ながら愛しい夫は流行病で若くして亡くなってしてしまったんだけどね。ただ、短くても濃密な良い結婚生活だっと思う。

 その後、新しい縁談話はちょくちょく来ていたものの、一応前世でも結婚していて子育てもひと段落、今世でも一度結婚したのだから自分の恋愛や結婚は正直もうお腹いっぱいである。


 それで、優秀な「受け」を育成するために体の弱い男性の奴隷や孤児を積極的に引き取り、英才教育を施した後に希望者はそのまま雇用するのをライフワークにした。


 周囲にうら若い男性を数多く侍らせていることで「放蕩侯爵」なんて噂されているけれど、あえてそのままにしている。縁談話を避けるのにちょうどいいからね。

 正直、貴族社会での評判とかどうでもいいし。あと、出所を把握してから信頼できない貴族として王妃にチクってやることで国益にもなるんだなこれが。


 そういう意味ではノーブレスオブリージュにもなるんだけど......実というと半分以上は自分の腐活動のためだ。

 自分の恋愛はもうお腹いっぱいだが、この癖は歳を重ねても陰りが見えない。むしろいい具合に腐敗が進んで昔よりも捗っているまである。

 数年前に引き取ったときは痩せぎすで「受け」っぽかった子供たちは、栄養満点の食事と自主的な鍛錬によりいつの間にかたくましい「攻め」っぽい子ばかりになっている。その子たちが、新しく引き取った若い「受け」達に優しく指導する様子を見るのが最近の私のひそかな楽しみである。

 仕えてくれている執事と庭師、ハウスキーパーと料理長……年が近く生活を共にする彼らが時折こっそりかわす視線や軽口の応酬に妄想が捗る。


 以前、私がそうした光景を物陰からニマニマ愛でているとフールからは「慈愛に満ちた笑みで見守っている」とか言われて驚いた。

 そんな、私を好意的に見てくれる可愛い甥っ子から意を決した様子でお悩み相談をされたのが2年ほど前の話だ。


 まさか甥っ子が同性愛者だったとは……驚いた。

 青い鳥は手元にいるってほんとなのね。


 ただ、この世界に同性愛という概念は希薄だ。このままジン君と強引に恋愛成就を目指すと、おそらく悲しい結末になるだろう。


 ゲーム知識をもとに考えると定番の「婚約破棄からの修道院送り」がフールにとって一番幸せになれそうだから、そうなるように誘導しておいた。

 想定通り行くのか不安がないわけではなかったけど、フールの実家の価値観や私の権力を考えれば実現できそうだったのもある。


 加えて言うと、ジン君とテレスちゃんって両方とも昔仲の良かったクラスメイトの娘で二人は幼馴染なのだ。

 私としてはそちらの恋愛を応援したい気持ちと、陰からこっそりフールのいじらしい悲恋や、その後の修道院でのBL模様を愛でたい気持ちって矛盾せず両立するものだったんだよね。


 てなわけで現在、男性用修道院から届いたフールからの手紙を読んでいるんだけど――新しい恋が始まったらしい。

 可愛い甥っ子も幸せになれそうで何よりだ。


 皆が幸せになれたら、それが一番いいよね!

 

 男性用修道院の日常を綴った手紙......正直たまりません。

 なんやかんやで、今回の件で一番幸せになれたのは、毎月愛のたよりが届くようになった私だという気がする。


 そんなことを考えながらふと壁にはめ込まれたステンドグラスをみると、あえかな月あかりがふんわりと落ちてきていた。

こそこそネーミング裏話

テレス・コープ

→双眼鏡、よく見えるが実は拡大した一部分しか見えていない


ジン・ボクネン

→朴念仁、鈍感。でも悪い奴じゃあないのよ


フール・アルルカン

→道化師、作り笑顔の裏で色々考えていた。幸せにおなり


ローズ・チューべ


娼婦の花(チューベローズ)、薔薇(BL、花言葉:愛)





お読みいただき有難うございました!


中村颯希先生の貴腐人ローザとふつつかな悪女にインスパイアされ、「物語の中くらい、みんな幸せになれたらいいなぁ」とこんな話になりました。



お話楽しかったよーなど思っていただけましたら↓のお星さまを塗って評価して頂けますと励みにも参考にもなります......というか大喜びします

 どうぞよろしくお願いいたします(*´ω`*)


4/17追記

沢山のポイントやブックマークありがとうございます。嬉しくなり、感謝の気持ちで新作書きました。恋愛ものです


今の言葉は取り消せない N0095KJ

https://ncode.syosetu.com/n0095kj

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誰も不幸にならない結末で楽しく読めました まさか修道院が衆道院というオチ……腐腐腐
 ……、、、  一番は ♪ …( *´艸`)腐腐腐っ♡
面白かったです! それぞれの視点で、みんなが実は自分が一番、幸せになっていると想っているので読後感がすっきりしていて爽やかな気持ちになりました。 フールくんは失恋をしてしまいましたが、修道院で新しい…
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