Act.2「自由の意志」.2
五機の艦載機は、特殊部隊の機体とは言え、多少のステルス迷彩と、部隊証や登録を抹消した使い捨て機体だ。
決して特別な仕様というほどのものではない。
邂逅直後の一機撃墜が効いたのか、動揺した残りの五機に対し、狩る側と狩られる側が入れ替わった。
「着弾箇所を検索……確定。破壊する」
八条の光線が、ポレアホーク級に突き刺さる。
装甲を貫いた熱線が、燃料か弾薬に引火して爆ぜる。停止した実験艦の中で、アーブは火球となって消えていく船を眺めた。
「状況完了」
「ありがとう、テイユニット。帰投して。そのあと検査ね」
「了解」
機械的――機械なのだから当然――な返事を聞きながらアーブは後悔に似た感情を覚える。深宇宙探査のためのAIが、銀河の覇権を争うための道具にされる。
その現実が目の前に迫りつつある。これまでにヒトが作ってきたAIではなしえないような戦果を、この一瞬の戦場で叩きだして見せた。
この能力は、もう偽れない。
「帝国に逃げたとしたら、亡命の担保に取られそう……」
機体から外したテイユニットとともに、彼女は研究室へと戻ってきた。
周りがこれからの対応に追われる中、自分はAIの診断を開始した。
「テイ、これから、どうなると思う?」
「具体的な予測対象を、教えてください」
「……私たちの、未来」
「非常に危険と判断。撤退、もしくはいずれかの勢力への恭順を推奨」
AIらしい完結な答えだ。その根拠も聞けば応えてくれるだろうが、聞きたくない。
何より、今彼女が聞くべきは――。
「テイユニット……テイはどうしたい? 逃げたいと思わない?」
「解答権限なし。その答えは、本ユニットには解答権限がありません。ロックされています」
「え? ロック? AIの意思確認質問だから?」
奇妙なテイユニットの言動に、アーブは首を傾げる。これまでこのAIに様々な質問や、シミュレーションをさせてきた。だが、その中で、このような答えを得た覚えはない。
「機体に接続されたことで、自動でロックが掛かったのかしら」
それまでクローズドネットワーク内での育成だった。ついに機械の体を手に入れたことで、AIは自由をはるかに増した。過去の時代の人々は、そうなった時のAIの暴走を危惧して、自動でロックがかかるようにしたのか。
「解除するわ」
「――命令の意図を判断、不可」
「あなたのロックを解除する。今の私がマスター権限を保有しているはずよね。ならあなたの全セーフティーロック、思考制限を解除、解放します」
「マスター権限からの了承を受諾。…………セーフティー、解除」
ヘルメット型のユニットは、前面部分がディスプレイになっている。その表面に電気信号が走り、次第に収まる。
そして、そこに電子の双眸が出来上がる。
「ここは、どこだ。誰だ、あんた……」
「え……?」
予想とは違う方向性の答えが、AIユニットから発せられた。
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