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Act.1「鋼の中で目覚める」.4


 ドォン! とコロニーが揺れる。

 コロニーの表面は分厚い氷と小惑星に覆われた、多重外壁だ。戦艦の放つビームに対しては、表面の氷の蒸発と、分厚い岩盤で防ぐこともできる。

 だが、ミサイルの齎す衝撃までいなすことはできない。岩盤貫通弾(バンカーバスター)には特に弱い。こちらを強襲しようと言う以上、敵も少なからず専用の装備は持ってきているはず。

 何せ、このコロニーの強度は、それこそ宇宙要塞並みだから。


「行くよ、T.E.I.(テイ)


『Technicality・Expansion・Interface』――このユニットを発見した時、そのユニットに刻まれた名前……であると思われる。

 アーブは言語学者ではなく、滅び去った文明の言語を理解するための脳の空き容量はなかった。ただ、同僚に頼んで訳してもらった内容から読み取った言葉を、このユニットの名前にした。


「ただの実験用でしか使わない予定――というかそもそも使う予定すらなかったのにね」


 人工重力の弱まり始めたコロニーを、壁を蹴って進んでいく。そして船舶ドッグにまで到着すると、その傍らに停まっている船を目指す。

 もともと、長期航行補助のために研究していたAIだ。船の動かし方についてはデータインプット積み。そのデータとAIユニット自体の親和性の問題から、実証実験に踏み出せずにいたが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「管制室聞こえてる! こちらアーブ、今テイユニットと一緒に実験艦に乗り込んだ。出発準備、できてるわ」

〈……アーブ博士!? AI研究の主任が何やってるんですか!?〉

「共和国の特殊部隊相手に警備部隊だけじゃ勝てないわ。この船にだって隕石迎撃用の多角旋回砲がついてるはずでしょ?」

〈それはあくまで緊急時の迎撃用で、性能は――〉

「艦艇を撃ち抜けるくらいには、十分な威力があるはず、でしょ?」


 尤も、それで軍の戦艦とどれだけ渡り合えるか。


「大丈夫、私にはテイユニットがついてるから。シンクロユニット接続完了。艦内チェックオールグリーン。発進準備完了!」

〈待ってください! ハッチが破損して、出撃不可能です。それより避難を……〉

「ハッチをぶち抜く! 総員衝撃に備えて!」


 アーブは操舵席から隣の砲手席のトリガーを引く。正面に備えられた迎撃用砲塔から砲弾が発射。瓦礫と歪んだ鉄板で防がれたハッチを撃ち破る。


「行くよ、テイ!」


 アーブはスロットルを徐々に上げながら、実験艦のスラスターを吹かし始めた。


 *


 ――目の前に光が広がっていく。

 ――それまで閉ざされていた世界が、一気に開けた。


「ここは……どこだ? なんで、僕は……」


 つい先ほどまでの記憶が曖昧だ。どうして体が動かないのかわからない。

 ただ、脳内に巡る知識が、自分の現状を認識させる。


「船舶用、航行AI……僕が?」

『行くよ、テイ!』


 誰かに呼びかけられた。答えなきゃ、応えなきゃ。

 何かにせっつかれ、追い立てられるような気持ちで手足のない体を動かし始める。

 重い荷物を引っ張るときのように、両足を踏ん張り、腰を落とすような気持ちで動き出す。


 ――ああ、なるほど。

「これが、今の僕の体か」

 高度実験艦:メルクリウス

 主要動力:レーザー核融合炉

 攻撃兵器:ビーム二連装型二門・隕石迎撃用旋回砲塔

 装甲材:セラミック複合発泡金属


「メルクリウス、発進!」


 音のない宇宙空間に、(テイ)の体は飛び立った。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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