Act.1「鋼の中で目覚める」.3
「一体何事!?」
白衣を着るのもままならないうちに、アーブはコロニーの管制室に飛び込んだ。
年若い彼女だが、ここでは研究のチーフ。施設全体の統括責任を持つ主任たちの一人である。
「アーブ博士! それが、警戒区域内に未登録船舶を確認。熱紋、形状をデータベースに照合したところ、ポレアホーク級強襲戦闘艦です」
「共和政府の特殊工作部隊じゃない……こちらからの呼びかけと停止勧告は?」
「すでにしていますけど、応答なしです!」
「救援要請も間に合わない距離。うちは独立した技術研究所だっていうのに……」
今、銀河系は四つほどの勢力に分かれている。共和国、帝国、王国、貴族連合――似たり寄ったりな政府や組織でも、掲げる旗が違う。
旗が違えば、その先端に備えた槍は飾りではない。
「ここは四大勢力全てから出資を受けた中立なのに、それを破ってまで……」
「私の、AIユニットが狙いかな」
今この研究所で、勢力間の取り決めを破ってまで奪い取るべきものは――表向き――それくらいしかない。艦艇の運用自動化。戦場における高度な柔軟性を擁した戦術機動。臨機応変に対応できる即応性。尋常のAIではこなせない、未だにヒトの脳でなければできない行為だ。
それを、奴らは求めて襲い掛かってきた。
「敵艦、艦載機射出!」
「迎撃装置展開! 主任研究員権限により防衛設備を起動! 全スタッフは各自所定の避難経路に移動。ファーストゲートより脱出準備!」
「ここの放棄もやむを得ないか……迎撃部隊出動! 脱出時間を稼いでくれ!」
アーブとスタッフたちは、突然の襲撃にも冷静に対処していた。
この研究所は、多数の出資で成り立った、中立研究所だ。研究データは全宇宙に公開・共有し、さらなる技術発展に繋げていく。
そのために軍隊じみた防衛部隊を保有し、もしもの時には襲ってきた勢力とは別の勢力へ逃げ込むための算段も立てている。
「スタッフの避難誘導をお願い。私は、AIユニットを迎えに行ってくるから」
「アーブ博士、しかしあれは……」
「元凶かもしれなくても、私の夢なんだ。ごめんね!」
アーブはそう言って走り出す。スタッフは、決して彼女を責めているわけではない。
だからこそ、あれを放棄してでも、生き延びることを優先すべきではないかと言いたいのだ。今回のことが明るみに出てほしくはない特殊部隊は、捕虜も投降も認めない。
黙っていれば皆殺しになる。
だから、AIユニットを渡したとしても見逃されることはない。
「あいつらに、あなたを使わせやしないから」
自分の研究室に辿り着いたアーブは、ロックを解除してAIユニットの前に立つ。
ヘルメットのようにも思える形状。ふいに、その奥にヒトの目のような光を見た。
少しでも気に入っていただけたら幸いです。
評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。