Act.5「恭順か死か」.4
かつては、ただの学生でしかなかった。
多少宇宙船に興味がある程度の高校生だ。それがいきなり戦場に放り投げられて戦うことなどできるはずもない。
だが、入力された情報を解析し、受諾した結果、戦闘技能は身についている。少なくとも、メルクリウスの持つ加速能力なら、敵機を機動性で圧倒できる。
同じ装備であれば通常の戦術AIはヒトには叶わない。だが、生身のヒトという”欠陥パーツ”を抱えていない。
「タキオンエンジンは再調整しておいてやる。実験艦のフレーム強度でも、最低で七十パーセントの出力が出せるはずだ」
「各勢力への撤退勧告は、あたしの方でやっておくよ。こういった時のための同時刻通信だからね」
他にも迎撃用の砲塔から実戦向けの武装へと交換。メルクリウスは、実験艦から戦闘艦へと調整されていく。
テイとアーブは、立ち去っていく主任たちと違い、所長とともに残っていた。
「アーブ博士、ロンドミナス1で発見された船については、聞いているな」
「はい。多分、テイの体だと思います」
まだその全容ははっきりしていないが、テイの見つかった場所と同じ場所で見つかった船だ。間違いなく何かしら関係があってもおかしくはない。
問題は、その船がこのコロニーに到着するまでに、あと三日ほどかかるということ。船は外装こそ破損は見られないが、システムの機動はできず、他の船でのけん引が必要だった。
加えて、その大きさ。全長が通常型戦艦に比べても倍近い。それに対してまるで空中戦闘機のような鋭い流線型であり、展開可能な前進翼が見られる。そして各所には固着した石灰質や錆が残っている。
「あれをテイユニットに動かしてもらえば、大きな戦力になりそうだが」
「テイは、これが何かわかる?」
「……いや。僕の中にデータはない。そもそも、僕は本当にあそこにいたのかどうかすら曖昧だから。それより、他のAIユニットはなかったのか?」
テイの問いかけに、アーブは首を横に振る。彼女自身が発掘作業を指揮したため、現状見つかっていなければ他にはない。
テイ、その後に見つかった巨大戦艦。これもまた、何か魂を取り込んで動く機械なのだろうか。テイの頭にその疑問は浮かぶが、今のところ確かめる方法はない。
まして、これから行われるであろう帝国、そして王国と貴族連合との戦いでは、すぐに起動させることはできない。
「さっきの共和国の特殊部隊は戦艦一隻と艦載機だけの構成だった。今度の帝国の戦力はどんな状態なんだ?」
「ここから一日の距離にいるのは、帝国戦艦一隻と、駆逐艦二隻。さらに補給艦が一隻いる。おそらく、戦艦には大型艦載機が六機。駆逐艦に搭載される艦載機は各艦に八機ずつが標準だ」
「じゃあ、あのポレアホーク級強襲戦闘艦に十五機も搭載していたのは、結構多いんだな」
「特殊部隊の強襲艦だ。通常よりも小型の艦載機を搭載していたのもあって、数を積んでいたのだろう」
表示された映像には、先ほど撃墜した強襲艦と同じぐらいの二隻と、より大きい船が一隻いる。強襲艦が速度と隠密性に特化したものだったが、こちらは対宙間戦闘能力がより高い。
艦載機と合わせて、高火力の飽和攻撃は侮れない。
〈コロニー全域に通達! 帝国軍戦艦、駆逐艦を光学観測に捉えられました!〉
戦いのときが迫りつつあることに、コロニー全体に緊張が走った。
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