Act.1「鋼の中で目覚める」.2
彼女が欲していたものは、彼女の研究対象――つまり戦術AIの体となる宇宙戦艦の船体そのものであった。
しかも、ただの宇宙戦艦ではない。特別なAIが搭載される、特別な船体。
「ま、私が作ったものなんてほとんどなかったりするんだけど」
白衣を椅子に投げつけて、体はベッドに投げだした。
枕元に置いてある雑誌を手に取ると、多数の付箋と折り目のついたページをめくる。ほとんど電子化したこの時代に珍しい、紙媒体の雑誌だ。
内容は自動更新されることはなく、部屋の中でかさばり、劣化もする。そんな古い紙媒体に、彼女は指を這わせる。
「見つけちゃったよ、私。ね、母さん」
そこに書かれているのは、宇宙考古学に関する論文や、発掘に関する内容だ。
現代、この宇宙開拓時代――渦巻銀河から、棒渦巻銀河へとやってきた者たちによって、この周辺星域が開拓されていた。
そんな中で、未だに人工知能――AIというものは、人間を超えられてはいなかった。
「思考し、提案し、自らの生存のために努力できるAI……そんなものを、古代文明ってのはどうやって作ったのかな」
――この棒渦巻銀河に存在したかつての文明は、隕石の衝突や、民族間の紛争などで滅びの道を辿ったものと考えられており、事実、複数の発掘データから、連鎖的に発生した多数の要因が、最終的に惑星全土を巻き込む戦争へ発展した。
――その中で活躍したのが、戦術AIである。急激な人口減少と人材不足の中、それでも戦争を続けた者たちが作り出した戦闘兵器は、本来の用途ではない。
――彼らのAIの活用術は多岐にわたり、中には現地住民と恋愛関係すら構築したと思われる記録も存在する。我々が辿り着けていない技術的極地への手掛かりが、この滅び去った惑星に存在するものと、我々調査団は確信している。
短くも力強い言葉で絞められたインタビューは、何度となく読み返した。
そこから得られた知見や予測から、自分たちの求めるものがどこにあるかを割り出し、この度はそれが的中した。すでに何十回と繰り返してきたことが、ようやく実を結んだ。
「母さんは、これを見つけることを、本当に望んでいたのかな」
空中に投影したディスプレイに、自分の研究対象のリアルタイム映像を移す。
そこには、ヒトの頭ほどのサイズの機械――この度発掘された、AIユニットが映っている。どんな文明が、どんな理由で造ったのかはわからない。
ただ、それを戦争に使いたいと思って研究してきたわけでは、ない。
アーブの夢は、さらに深宇宙への探査。
そのために必要なのは、人間と共存し、協力できるAIだった。
「私は、何のために――」
問いかけの言葉を発する前に、それは鳴り響く警報によって遮られた。
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